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原理原則で“考える姿勢”を取り戻す │ ルールで考える癖が思考を止める

目次

「なぜなぜ分析は万能ではない」──再発を繰り返す現場の現実

「また同じトラブルが起きました。」
その報告を聞いた瞬間、胸の奥に鈍い感覚が残る。
書類を開けば、見慣れた「なぜなぜ分析」のシート。
原因欄には、きちんと5段階の“なぜ”が並んでいる。
それなのに、なぜ、また同じ現象が起きるのか?

こうした場面は、決して珍しくありません。
製造現場、営業部門、管理職会議・・・・・・
あらゆる現場で「なぜなぜ分析」が行われているにも関わらず、“再発防止”という言葉が何度も報告書に並びます。

なぜ、正しくやっているのに結果が出ないのか?
あるリーダーは言いました。
「手順どおりにやっているのに、なぜ分析を失敗するのか?」
この問いは、多くの現場で繰り返されています。

原因は、分析そのものではありません。
本当の理由は、「なぜなぜ分析を“使う人”」の意識にあります。
人は、意識の奥に“無意識の前提”を持っています。
「自分たちは正しいやり方を知っている」
「これまでの経験で十分に判断できる」
この前提こそが、分析の深さを止めてしまうのです。

NLP(神経言語プログラミング)では、人は“見たいものしか見えない”という原理があります。
同じ現象を見ても、立場や経験が異なれば、見える景色も違う。

つまり、なぜなぜ分析がうまく機能しない理由のひとつは、「問題の定義がズレたまま、分析が始まっている」ことにあります。


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“手法の正しさ”と“姿勢の正しさ”は別のもの

分析は、ルールで動く仕組みではありません。
それは、姿勢で動く技術です。
私が企業研修で伺うと、こうした声をよく耳にします。
「やり方は分かる。でも、なぜかチームが動かない。」
「分析は形になったのに、現場が変わらない。」
実はこの時点で、チーム全体が“姿勢”を見失っています。

なぜなぜ分析を行う目的は、「原因を突き止めること」ではなく、「問題を正しく定義し、チームの思考をそろえること」にあります。
しかし、多くの現場では、“正しい答えを出す”ことが目的化し、本来の“思考を整えるプロセス”が抜け落ちてしまう。
だからこそ、どれだけ丁寧に「なぜ」を掘り下げても、根本の考え方が揃っていない限り、結果は再発します。

同じ結果を繰り返す“思考の慣性”

私たちは、日々の仕事の中で膨大な情報を処理しています。
だから脳は、“いつも通りの考え方”を選びやすい。
この“慣性”が、問題解決の妨げになります。
たとえば、同じような設備トラブルが起きたとき、前回の分析結果を参考にしようとする。

それは一見合理的ですが、実は危険な思考です。
なぜなら、人は「似ている」という言葉で“同じ”と“同様”を混同してしまうからです。
本当は、違う原因で起きているのに、「またこれだろう」と結論づけてしまう。
こうして、現場では“同じような分析”が繰り返され、“同じような報告書”が作られ、そして“同じような再発”が起きる。

まるで、少しずつ同じ場所を回り続ける迷路のようです。

分析は「地図」であり、「羅針盤」ではない

なぜなぜ分析を「地図」にたとえるなら、多くの現場では、その地図を正確に描こうとすることに集中しています。
しかし、本来必要なのは「どこへ向かうのか」を示す羅針盤の方です。
地図をどれだけ精密に描いても、羅針盤が狂っていれば、目的地にはたどり着けません。

分析の目的は、地図を描くことではなく、正しい方向を見失わないこと。
では、羅針盤を正すために必要なのは何でしょうか?
それが、「原理原則に立ち返る姿勢」です。

「姿勢が結果を変える」

なぜなぜ分析は、誰でもできるシンプルな手法です。
だからこそ、使う人の“姿勢”によって結果がまったく変わります。
私自身もかつて、「分析手法の完璧さ」にこだわりすぎ、本質を見失った時期がありました。
その経験が、今のセミナーの原点になっています。

続いては、そのとき私がどんな壁にぶつかり、どのように“分析の意味”を見直したのかをお話しします。
分析とは、「原因を掘るスコップ」ではなく、「考え方を磨く鏡」だった――。
そう気づいた瞬間から、すべてが変わり始めました。

関連記事:呼吸と姿勢を整えて高める集中力とモチベーション

「手法よりも、使い手」──うまく行かなかった私自身の経験

私は、なぜなぜ分析を誰よりも信じていました。
手法を正しく使えば、どんな問題も解決できる。
そう信じて、現場に導入し、何度もチームを指導してきたのです。
ところが、ある日・・・私は自分の信念が崩れる経験をしました。

現場に漂う“静かな違和感”

ある金属加工のラインで、不良率が上昇したことがありました。
原因追及のため、私はすぐに会議を招集しました。
ホワイトボードに「なぜ?」を5段階に書き出し、チームに問いかけていく。

そうして出てきた答えは、「測定器の校正サイクルを管理するルールを追加する」というものでした。
私は「これで再発防止だ」と思い、報告書を提出しました。

しかし、数週間後・・・・
また同じ不具合が、発生しました。
同じライン、同じ工程、同じ種類のズレ。
私は正直、ショックでした。

「こんなに丁寧にやったのに、なぜ…?」
そのとき、私は気づかぬうちに、自分が分析という“形式”に頼っていたことを痛感しました。

“正しい手順”の裏に隠れていた思い込み

会議では、全員が協力的でした。
メモを取り、発言し、ルール通りに「なぜ」を掘り下げていく。
でも、あのとき私は、問いが“形”だけになっていたのです。
本当は、「なぜ?」の裏にある“意図”を探るべきだった。
つまり、「なぜ、それをそう考えたのか?」です。

NLPでいう“メタモデル”・・・・人の発言の裏には、削除・一般化・歪曲という3つのフィルターがあります。
私たちは、都合の良い部分だけを拾い、自分の中で「納得できるストーリー」にしてしまうのです。
当時の私は、まさにその罠にかかっていました。
「校正していない=原因だ」と短絡的に結びつけ、本質的な“考え方のズレ”を見抜けなかった。

後になって調べてみると、測定器自体ではなく、作業者が“誤差の許容範囲”を曖昧に理解していたことが原因でした。
つまり、“判断基準”がチームで共有されていなかったのです。

関連記事:NLPビジネスコーチング|心理学で高める人材育成力

「手法を信じる」ことが、思考を止める

この経験を境に、私は強く感じました。
なぜなぜ分析を正しく行うことよりも、“正しく考える姿勢”を育てることが大切だと。
私たちはよく、「正しいやり方」を求めます。
手順が整えば、結果も安定する・・・・そう信じたいのです。

しかし、人の思考はそんなに単純ではありません。
分析の“形”を完璧にしても、中にある“問いの質”が低ければ、洞察は深まりません。
逆に、手法が多少粗くても、問いが鋭ければ本質にたどり着くことができる。
だからこそ、私はセミナーでこう伝えています。

「分析は“手順”ではなく、“思考の筋トレ”です。」と。

筋トレを一度やっただけで筋肉がつかないように、なぜなぜ分析も、一度やっただけでは“思考の癖”は変わらない。
継続的に“考える筋肉”を鍛える必要があるのです。

同じ畑を耕しても、種は育たない

私の知人の話です。
彼は、葡萄を育てています。
そして、あるワイナリーの話をしてくれました。
毎年同じ畑で、同じように土を耕しても、年によってブドウの味は微妙に変わる。
気候、湿度、風向き、土の水分・・・・見えない条件が、収穫の味を決めている。

なぜなぜ分析も同じです。
どんなに同じ“形”を再現しても、人の心の状態が変わらなければ、結果も変わらない。
つまり、分析の前に“人の心の姿勢”を耕す必要があるのです。

「気づき」は痛みの中から生まれる

失敗した直後、私はひどく落ち込みました。
「自分の指導が間違っていたのか」と。
しかし、そこからが学びの始まりでした。

痛みがあるからこそ、人は考え、変わる。
その痛みを“成長の燃料”に変えることができるのが、本当のリーダーシップなのだと気づきました。
だから私は、今でもセミナーで必ず「失敗談」から話を始めます。
受講者が「うまく行かない」と感じるその瞬間に、実は最大の学びの扉が開いているからです。

「見えない壁──バイアスの正体」

続いては、私たちの思考を静かに支配する「バイアス(思い込み)」の正体に迫ります。
あなたのチームの分析が、どこで“思い込みの渦”に巻き込まれているのか?
その気づきが、再発を防ぐ第一歩になるでしょう。

「バイアスの罠」──人は見たいものしか見えない

「なぜ、同じような結果になるのか?」なぜなぜ分析を何度やっても、似たような結論にたどり着く。
多くのリーダーが抱く、その不思議なデジャブ。
その背後には、静かに人の思考を操る“見えない壁”があります。
それが・・・・バイアスです。

関連記事:信頼を深める説明と説得術──思考バイアスを整える4ステップ

現場でよくある「仮説ありき」の分析

あるチームが、不良率上昇の原因を調べていました。
会議室のホワイトボードに書かれた最初の一文は、こうです。
「原因は作業者の注意不足」
私は思わず尋ねました。

「それは、調査の結果ですか?それとも最初の想定ですか?」
その瞬間、場が少しざわつきました。
「まあ、以前も似たようなことがあったので……」
「過去データを見ると、作業者側の要因が多くて……」
そう、人は“似ている”と感じた瞬間、思考を止めてしまう。

これを確証バイアスといいます。
一度「こうだ」と思い込むと、それを裏づける情報だけを集め、反対の情報を無意識に無視してしまう。
その結果、表面的には“分析が進んでいるように見えて”、実は“最初の仮説を証明する作業”にすり替わっているのです。

脳のしくみが生む「思考のショートカット」

脳科学的に見ても、バイアスは防ぎようのない自然現象です。
私たちの脳は、一日に6万回以上の思考を繰り返すといわれています。
すべてを一から考えていたら、脳がオーバーヒートしてしまう。
だから脳は「パターン認識」で、省エネを図る。

つまり、脳は“新しい問題”を見ても、“過去の似た経験”をベースに瞬時に答えを出してしまうのです。
これが「自動思考」であり、分析の現場では「同じミスを違う形で繰り返す」原因になります。

ワインの香りを決めつけるソムリエ

再び、私の友人の話です。
彼は毎晩、同じワインをテイスティングしていました。
ところがある日、師匠にこう言われたそうです。
「きみは、味を覚えた瞬間から、味を見失っている。」

最初は、意味が分からなかったそうです。
でも、よく考えてみると、自分は“昨日と同じ味”を探していた。
つまり、昨日の印象が今日の判断を縛っていたのです。

なぜなぜ分析も同じです。
「前回こうだったから、今回も同じだろう」
その思考こそが、分析の香りを濁らせているのです。

「仮説」はスタート地点、ゴールではない

私はセミナーで、こう伝えています。
「仮説は“予想”ではなく、“探求の出発点”です。」
仮説とは、確かめるために置く“仮の旗”にすぎません。
それを“正しい旗”と信じ込んだ瞬間に、探索の自由が消える。

だから、なぜなぜ分析の初期段階では、「仮説を一度捨てる勇気」が必要なのです。
NLPでは、メタ認知(自分の思考を俯瞰する力)が“無意識の思い込み”を超える第一歩だと考えます。
自分が「何を前提に考えているのか?」に気づけたとき、人は新しい視点で問題を見直せるようになります。


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ナレッジリーンは国や地方自治体を顧客として環境分野の調査業務や計画策定、企業の非財務分野に対するマネジメントコンサルティングや人材育成を主業務とするシンクタンク&コンサルティングファームです。

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ワークの現場で起こる“あの瞬間”

私のセミナーで、あるチームがこんなことを言いました。
「分析しても、答えが出てこないんです。」
私は、静かに聞き返しました。
「答えを“出す”ために分析しているのですか?それとも、“考えるために”分析しているのですか?」

しばらくの沈黙のあと、誰かがつぶやきました。
「……たぶん、答えを出そうとしてました。」
会場の空気が一気に変わります。
その瞬間、受講者は“自分が思考停止していたこと”に気づくのです。
バイアスは、外から指摘されて気づくものではなく、自分の内側で、ふと静かに気づくものなのです。

バイアスに気づく3つの問い

セミナーでは、次の3つの質問を投げかけます。

1.    「私たちは、どんな前提でこの問題を見ているか?」
2.    「その前提は、いつ・誰が決めたものか?」
3.    「もしそれが間違っていたら、どんな見方ができるか?」


この3つの問いは、分析を“思考の作業”から“洞察のプロセス”に変えます。
問いが深まれば、チームの関係性も変わる。
分析が「責任を追及する場」から、「学びを共有する場」に変わるのです。

「原理原則で考える」

バイアスに気づいたチームは、次に戸惑いを覚えます。
「では、何を基準に考えればいいのか?」と。
ここで必要になるのが、原理原則という視点です。

なぜなぜ分析が形骸化するもう一つの理由・・・・
それは、“原理原則で問題を見ていない”こと。
続けて、坂田式セミナーの中で参加者が「答えられず、会場がざわつく瞬間」を再現します。
その“沈黙”の中にこそ、 「思考の姿勢が変わる瞬間」が隠れているのです。

関連記事:ヒューマンエラー対策に効果的な3つの原理原則

「原理原則で考える」──姿勢を整えるワークの真価

「それでは次のワークに入りましょう。」
そう言って私は、配布したカードを参加者に手渡します。
テーマはシンプルです。
『この現象を原理原則で説明してください』。

カードには、こんな一文が書かれています。
「ベテラン作業者の作業時間が、日によって10分以上変動する。」
一見、単純な話です。
けれど、この問いを投げかけた瞬間・・・・会場が静まり返ります。
参加者たちは手を止め、しばらく考え込みます。

「原理原則って、なんですか?」
最初に口を開いたのは、30代の主任でした。
「先生、原理原則って……マニュアルとか規定のことですか?」
私は、微笑みながら首を横に振ります。

「それは“ルール”です。原理原則とは、ルールを作る根拠のことです。」
さらに続けます。
「たとえば、“安全靴を履け”というルールがありますよね。では、なぜそれが必要なのか?」
「ケガを防ぐためです。」
「そう。その“ケガを防ぐ”という考え方が、原理原則なんです。」

すると、数人が小さくうなずきました。
だがその表情には、まだ戸惑いが残っています。

ルールで考える癖が、思考を止める

多くの現場では、「ルールを守る」ことが最優先になります。
もちろん、それ自体は大切です。
でも、人は“ルールを守ること”に意識を奪われると、「なぜそのルールがあるのか」を考えなくなってしまう。

それは、まるで目的地を忘れたまま、地図を広げているようなもの。
線は引けるけれど、どこへ向かっているのか分からない。
原理原則とは、行動の“意味”を取り戻すための羅針盤です。
「なぜこの作業をするのか」
「何のためにこの基準があるのか」
その“理由”を再認識することで、はじめて分析は生きたものになります。

「ざわつき」は、思考の芽が出る音

セミナー会場の空気が、変わり始めます。
誰かがペンを走らせ、また止める。
あるチームでは、こんなやり取りが聞こえました。
「時間の変動って、疲労のせいかな?」
「いや、段取りの違いじゃない?」
「でもそれも、“人による”で終わってないか?」

その瞬間、私は確信します。
彼らの中で、“考えるスイッチ”が入った。
ざわつきとは、混乱ではありません。
むしろ、沈黙よりも価値のある“思考の音”なのです。
人が今までのやり方に疑問を持ち始めた瞬間、そこに学びの芽が生まれる。

行動科学が示す「姿勢→思考→行動」の順番

行動科学の研究では、人は「考えるから行動する」のではなく、「行動するから考えが変わる」と言われています。
つまり、姿勢が変われば、思考が変わる。
姿勢とは、単に体の構えではなく、心の向きです。
このとき、会場に一人の受講者が立ち上がりました。
「先生、原理原則って、“守るため”のものじゃなく、“考えるため”のものなんですね。」

私は頷きました。
「そうです。守るために覚えるのではなく、考えるために理解する。それが“原理原則で考える”ということです。」

木を見ず、森を見よ

なぜなぜ分析をすると、人は“木”に集中します。
「どの枝が折れたのか」。
「どの葉が枯れたのか」。
でも、本当に見るべきは“森”・・・・つまり、全体の流れです。

原理原則は、森全体を見渡すための視点に気付かせてくれます。
木を詳しく観察するほど、その森がどんな環境で育っているかに気づくようになる。
分析を深めるとは、現象の背景にある“環境原則”を見抜くことなのです。

「原理原則」を使うと、議論が変わる

午後のグループディスカッションでは、会場の雰囲気が明らかに変わりました。
「疲労だからではなく、段取り設計が“集中力の波”を無視しているんじゃない?」
「原理原則で考えると、“人間は変動する生き物”だから、一定を求める設計が間違ってる。」

まるで、議論の軸が“表面”から“構造”に移ったかのようです。
こうなると、なぜなぜ分析の質が一気に変わる。
もう「5回のなぜ」ではなく、“原理原則に照らした1回のなぜ”で深い答えに到達するようになるのです。

NLP的リフレーミング──問いの意味を変える

私たちは「なぜ失敗したのか?」と問いがちですが、原理原則で考えるとは、問いの“枠”を変えることでもあります。
「なぜ」ではなく、
「どんな原理が働いて、この結果になったのか?」
と聞く。

この一言の違いが、思考の深さを決定づける。
NLPでは、これをリフレーミングと呼びます。
枠を変えることで、同じ現象がまったく違う意味を持つ。
その瞬間、問題が“過去のミス”から“未来の改善資源”へと変わるのです。

関連記事:テーマ清掃で視点を変える│リフレーミングが生む問題解決力

「学び合う現場へ」

会場を見渡すと、受講者の表情が変わっていました。
最初は、「正解を探す顔」。
今は、「考えることを楽しむ顔」。

私は、最後にこう問いかけました。
「あなたのチームでは、“考えること”を楽しんでいますか?」
分析は、孤独な作業ではありません。
本来は、学び合うための対話なのです。

続いては、グループ間の取材と評価を通じて、なぜなぜ分析が“学びの文化”へと変化していく瞬間を描きます。


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「学び合う現場」──分析を“対話”に変えるチームの力

午後のセッションが始まるころ、会場の空気は、午前とはまるで違っていました。
午前中の「原理原則で考える」ワークを経て、参加者の表情には、わずかに柔らかさと自信の色が見え始めていたのです。
私は、静かにマイクを手に取りました。
「ではここから、“学び合う分析”を始めましょう。」

グループ間取材──“教える”のではなく、“聴きに行く”

参加者たちは、自分のテーブルを離れ、他のグループのリーダーのもとへ歩いていきます。
ルールは、一つ。
「質問と観察だけをすること。」
取材する側は、相手の考え方をメモしながら、分析の流れを“理解するため”に耳を傾けます。
説明する側(ホストリーダー)は、“伝える”のではなく、“伝わるように話す”。

その瞬間、会場に小さなざわめきが生まれます。
互いの目線が交わり、うなずき合う。
言葉を交わすたび、思考が形を変えていく。
「なるほど、そういう見方もあるんですね。」
「うちは“段取り”を原因にしましたが、そっちは“思考の順番”に焦点を当てたんですね。」
いつのまにか、空気が柔らかくなり、“競争”ではなく“好奇心”が場を満たしていきます。

気づきの化学反応

取材を終えたメンバーが自分の席に戻ると、そこから一斉に“気づきの共有”が始まります。
「他のチームでは、“そもそも問題なのか?”から議論してたよ。」
「え、それ面白いね。うちもそこから考えてみようか。」
15分前まで別々の方向を見ていたチームが、今は互いに“思考の鏡”になっている。

行動科学では、人は他者の言葉や反応を通して自分の思考を再構築すると言われています。
まるで化学反応のように、視点と視点がぶつかり合い、その摩擦の中から新しい発想が生まれていくのです。

評価とは“裁くこと”ではなく、“支え合うこと”

次は評価の時間です。
各チームのリーダーが自席に残り、他のメンバーが評価シートを手に回ります。
「あなたのグループでは、“原理原則の視点”をどこに置きましたか?」
「分析ルールの③『感情を入れずに事実を扱う』、ここをもう少し強化できそうですね。」
最初は、緊張していたリーダーたちの顔に、次第に穏やかな笑みが浮かびます。

評価が“攻撃”ではなく、“対話”に変わった瞬間でした。
それはまるで、磨き合う二枚のガラスのよう。
こすれ合うほど、透明度が増していく。
評価とは、欠点を探すことではなく、互いを高める行為なのです。

このとき、チームの中に“守り”よりも“探求”の空気が生まれます。
ここに、信頼の芽が静かに根を下ろします。

ワインは混ぜると香りが開く

ワインの世界では、単一の品種よりも、ブレンドされたものの方が香りに奥行きを持ちます。
異なるブドウが、互いの特徴を引き立て合うと知人が教えてくれました。
チームも同じ。
一人の考えでは見えなかった角度が、他者の視点によって開かれる。
思考が混ざり合うほど、分析の香りは深く、豊かになっていくのです。

「正しさ」よりも「豊かさ」を目指す

ある参加者が、ふと口にしました。
「今日わかったんです。“正しい答え”を出すよりも、“豊かな考え方”を持つことの方が大事なんだと。
その言葉に、会場が静まり返りました。
そして、自然と拍手が起こります。

なぜなぜ分析とは、“正解を導く装置”ではなく、考えの幅を広げるレンズなのです。
視点が増えるほど、チームの可能性も広がる。
それが、学び合う現場の強さです。

心に残る学びの瞬間

人の心は、“痛み”よりも“喜び”の瞬間を長く覚えています。
だからこそ、学びは楽しい方がいい。
分析が義務ではなく、「考えるって面白い」と感じられる時間になったとき、その体験は脳に深く刻まれ、行動として続いていきます。

私は、研修の設計をするとき、この「心が動く瞬間」を意識しています。
それは、知識を教えるよりも、“気づいたときの表情”を見届ける方が何倍も価値があるからです。
人の成長とは、知識の上に積み上がるものではなく、感情の中に根づくものなのです。

「再発防止から再成長へ」

セミナーの終盤、私は問いかけます。
「今日の学びを、明日どんな行動に変えますか?」
静かな沈黙のあと、一人、また一人とペンを走らせる音が聞こえてきます。

なぜなぜ分析の目的は、“過去を掘ること”ではなく、“未来を育てること”。
続けて、受講者が自らの言葉で「自分はこれからどう変わるのか」を宣言する場面を描きます。
そこには、再発防止ではなく、再成長へと向かうリーダーの姿があります。

関連記事:教育コンテンツでは人は育たない │ 「学び方」が人を変える、社会人教育の再構築

「再発防止ではなく、再成長へ」──未来を描く思考法へ

長い一日の終わり。
私は、ホワイトボードの前に立ち、ゆっくりと会場を見渡しました。
テーブルの上には、使い込まれた付箋、折れたペン、そして、考え抜いた証として並ぶ無数のメモ。
そこには、朝とはまったく違う“空気”がありました。

「何を学んだか」より、「どう変わるか」

私は、最後のスライドを映しながら言いました。
「今日の目的は、“正しい答え”を見つけることではありません。“正しい考え方”を続けられる自分を見つけることでした。」
受講者たちは、静かにうなずいています。

一日を通して、彼らは“分析”から“姿勢”へ、“報告書”から“対話”へと意識を変化させてきました。
そして今、その変化を“自分の言葉”で刻む時間が始まります。

自己宣言──未来への小さな約束

テーブルごとに配られた一枚の紙。
そこには、タイトルが印字されています。
『これから自分が意識して取り組むこと』
受講者たちはペンを取り、静かに書き始めます。

「問題を“早く解く”のではなく、“深く観る”ようにします。」
「メンバーの意見を聞く時間を、必ず取ります。」
「“失敗の報告”を、次の改善のきっかけにします。」
書き終えた後、数人が手を挙げて発表します。

声は少し震えているけれど、その目には確かな覚悟が宿っていました。
その言葉を聞くたびに、会場に小さな拍手が起こります。
それはまるで、互いの心に“未来の灯り”をともしていくような光景でした。

「防ぐ」ではなく、「育てる」

私は最後に、こう語りました。
「多くの企業が“再発防止”を掲げます。でも、本当に必要なのは、“再成長”という考え方です。」
再発防止は、過去を恐れる姿勢。
再成長は、未来を育てる姿勢。
問題をゼロにすることよりも、問題を通してチームが強くなることの方が、ずっと価値があるのです。

なぜなぜ分析は、“掘る道具”ではなく“耕す道具”。
過去の原因を掘り下げるためではなく、未来の成長を耕すために使うものなのです。

心の中で起こる“静かな変化”

講義を終えるころ、受講者の表情には、疲れと充実が入り混じっていました。
だが、その中に確かな変化がありました。
朝は「答えを知ろう」としていた顔が、今は「自分で考えよう」という顔に変わっている。

学びとは、情報を得ることではなく、“自分の中の風向きを変えること”だと思います。
その風が吹き始めたとき、人は変わる準備が整う。

種をまき、芽を待つ

私は最後に、いつもこう締めくくります。

「今日の学びは、まだ“種”のようなものです。明日すぐに花が咲かなくても構いません。あなたの現場で誰かの言葉に耳を傾けたとき、その種が静かに芽を出します。」
人の成長とは、即効薬ではなく、時間をかけて育つ“記憶の花”です。
思考が行動を変え、行動が文化をつくり、文化が成果を生む。
その循環の中にこそ、真の改善が宿ります。

リーダーへのメッセージ

セミナーを終え、帰り支度をするリーダーたちに、私は言いました。
「あなたが明日、誰かの“問いかけ役”になってください。なぜなぜ分析は、ひとりで行う作業ではなく、チームで育てる会話です。」
リーダーの存在とは、答えを持つ人ではなく、問いを育てる人なのだと思います。
その問いが、組織の未来を耕す。
そして、また新しい成長の物語が始まっていく。

結びの言葉──「問いこそ、希望」

私は最後に、静かに一言だけ残します。
「なぜなぜ分析とは、原因を探す旅ではなく、希望を見つける旅です。」
問題を掘るたびに、自分の中に新しい視点が生まれる。

それこそが、再発防止を超えた“再成長”の証。
そしてその旅路は、今日ここから、あなたの職場で続いていくのです。

最後まで、お読みいただきありがとうございました。

私(坂田)は、定期的に、なぜなぜ分析の弱点に気付いていただけるよう、無料webセミナーを開催しています。
まずは、これにご参加頂き、さらにチームの問題解決力を高める施策を考えられるような内容です。
こちらでも、またお会いできると嬉しいです。



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マネジメントコンサルティング部 部長
坂田 和則

国内外において、企業内外教育、自己啓発、人材活性化、コストダウン改善のサポートを数多く手がける。「その気にさせるきっかけ」を研究しながら改善ファシリテーションの概念を構築し提唱している。 特に課題解決に必要なコミュニケーション、モチベーション、プレゼンテーション、リーダーシップ、解決行動活性化支援に強く、働く人の喜びを組織の成果につなげるよう活動中。 新5S思考術を用いたコンサルティングやセミナーを行い、企業支援数が190件以上及び年間延べ3,400人を越える人を対象に講演やセミナーの実績を誇る。

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