• ホーム
  • コラム
  • 文化づくりは”体験の再接続” | 生成AI時代だからこそ、体験のある言葉が問われる
コラム

文化づくりは”体験の再接続” | 生成AI時代だからこそ、体験のある言葉が問われる

目次

NLP的に組織文化を見つめると、スローガンの奥にある“人の内側”が見えてくる

先日、書店の棚の前で、ふと足が止まりました。
背表紙に「心を変えるNLP」という文字が見えたんです。
あれ?そういえば最近、NLPの本を読んでいないな。そんなことを思いました。

私は、NLPのマスタープラクティショナーやビジネスコーチの資格を取得し、LABプロファイルについても、オフィシャルトレーナーやコンサルタントの資格を持っています。
ですから、NLPにはけっこう長く関わってきた方だと思います。
足を突っ込んできたというより、気がついたら腰くらいまで浸かっていた。
いや、場合によっては鼻の下くらいまで来ていたかもしれません。危ないですね。NLP沼です。

ただ、私にとってNLPは、資格を取って終わりの知識ではありません。
問題解決セミナーや次世代リーダー研修の中で、人がどのように物事を見て、どのように意味づけし、どのように行動を選んでいるのかを考えるための実践知として使ってきました。
さらにここ数年は、食品安全文化、安全文化、品質文化など、組織文化の形成や醸成にもNLPの考え方を重ねながら研究しています。
そして最近では、生成AIを使いこなすための問い力や、自分自身のメンタルモデルを見つめ直す力にも、NLP的な視点がかなり使えるのではないかと感じています。

そんなことを考えながら本を読んでいたら、ある一文が目に飛び込んできました。
「世の中には、ろくに体験もしていないことについて、いくらでも話せる人がいます。」
この一文を読んだ瞬間、私は少しドキッとしました。
ああ、これはまさに生成AIの時代そのものではないか。そう思ったんです。

毎週月曜日に「改善ファシリテーション」をテーマとしたコラムを更新、
火曜日にメールマガジンを配信しております。是非ご登録ください。(ご登録は無料です)

体験していなくても、語れてしまう時代

いまは、生成AIに聞けば、かなり多くのことが答えとして返ってきます。
しかも、文章は整っています。見出しもつきます。論理も通っています。専門用語も入ります。
場合によっては、こちらがまだ考えきれていないことまで、それらしく並べてくれます。
いや、本当にすごいです。私も使います。かなり使います。
正直、もう使わない選択肢はないと思っています。

ただ、ここで少し立ち止まる必要があると思うんです。
生成AIが返してくれる情報は、多くの場合、文字として読みます。音声で聞くこともあります。
つまり、私たちは主に「文字」と「音」で情報を受け取っています。
もちろん、それだけでも多くの知識は得られます。
けれど、文字で読んだこと、音で聞いたことは、体験そのものではありません。
見たわけではない。触れたわけではない。現場の空気を吸ったわけではない。
相手の表情が変わった瞬間に、こちらの言葉を飲み込んだわけでもない。
沈黙の重さを感じたわけでもない。

現場には、文字にならない情報があります。
人の表情、声の揺れ、間の取り方、手の動き、ため息、目線、沈黙、空気の重さ。
「これは言いにくいんだな」と感じる瞬間。
「この人は、口では納得したと言っているけれど、腹の中ではまだ引っかかっているな」と思う瞬間。
「ここで一言間違えると、相手の心が閉じるな」と感じる瞬間。
こうした情報は、文字や音だけでは拾いきれません。

だから最近、私は誰かの話に耳を傾けるとき、少しだけ問いを立てるようになりました。
「その話って、実体験ですか?」「そのことって、あなたの考えですか?」「それって、どんな思考や背景がありますか?」
もちろん、詰問したいわけではありません。
相手を疑っているわけでもありません。
ただ、言葉があまりにもなめらかに出てくる時代になったからこそ、その言葉の奥にあるものを丁寧に見たいと思うようになったのです。

その人は、何を見たのか。何を感じたのか。どこで迷ったのか。
どんな経験から、その考えにたどり着いたのか。
どんな痛みや失敗が、その言葉の裏側にあるのか。
ここに触れたとき、言葉の質感が変わります。
単なる情報なのか。誰かから借りてきた知識なのか。生成AIに整えてもらった言葉なのか
。それとも、その人の体験と思考を通ってきた言葉なのか。ここに違いが出ます。

NLPは、言葉の奥にある“体験の構造”を見にいく

では、NLPとは何か。難しく言えば、神経言語プログラミングなどと訳されます。
でも、いきなりそう言われても、なんだか怪しい壺の説明みたいに聞こえるかもしれません。
ですから、私はかなり実務寄りにこう捉えています。
NLPとは、人がどのように世界を見て、どのように言葉で意味づけし、どのように行動を選んでいるのかを観察するための実践的な視点である、と。

私たちは、事実そのものをそのまま見ているようでいて、実は自分の認知のフィルターを通して世界を見ています。
同じ現場を見ても、ある人は問題に気づきます。
ある人は「まあ、こんなものだよね」と流します。
ある人は危険を感じます。ある人は慣れた作業として通り過ぎます。ある人は「これは品質不良につながるかもしれない」と考えます。ある人は「検査で見つかればいい」と考えます。
同じものを見ているはずなのに、内側で起きていることが違うんです。

ここで大切になるのが、NLPでいう「表象」という考え方です。
人は、外の世界をそのまま脳に入れているわけではありません。
見たもの、聞いたこと、感じたことを、自分の中で再構成しています。
たとえば「安全第一」という文字を見たとします。
そのとき、ある人の脳内には、過去に経験したヒヤリハットの映像が浮かぶかもしれません。

ある人は、上司に強く注意されたときの声を思い出すかもしれません。
ある人は、災害報告書の写真を思い出すかもしれません。
ある人は、何も感じず、ただの掲示物として通り過ぎるかもしれません。
同じ「安全第一」という文字を見ているのに、脳内で再生されている映像、音、身体感覚がまったく違う。この違いを見にいくのが、NLP的な面白さです。

サブモダリティーとは、頭の中の映像・音・感覚の“質感”である

NLPの用語に「サブモダリティー」というものがあります。
いきなり横文字が来ました。ここで読むのをやめないでください。大丈夫です。難しくありません。
サブモダリティーとは、簡単に言えば、頭の中に浮かぶ映像・音・感覚の細かい質感のことです。

たとえば、ある作業者が「この設備は危ない」と思っているとします。
その人の頭の中には、危険な場面の映像が明るく、大きく、近く、動きのある状態で浮かんでいるかもしれません。
機械の音が大きく聞こえ、身体に少し緊張感が走っているかもしれません。
一方で、別の人は「まあ大丈夫だろう」と思っている。
その人の頭の中では、同じ危険場面がぼんやりしていて、遠くにあり、音も小さく、身体感覚も弱いかもしれません。

つまり、同じ出来事でも、脳内での再生のされ方が違うと、感じ方も変わります。
映像が近いのか遠いのか。明るいのか暗いのか。動いているのか静止しているのか。音が大きいのか小さいのか。身体感覚が強いのか弱いのか。
こうした違いが、行動の違いにつながることがあります。

安全文化や食品安全文化を考えるとき、これはかなり重要です。
たとえば、食品工場の現場で「異物混入防止」という掲示があるとします。
ある人には、その言葉を見た瞬間に、過去のクレーム、回収対応、お客様の不安、社内の緊張感が鮮明に浮かぶかもしれません。
別の人には、監査前によく見るいつもの掲示物として処理されているかもしれません。
この違いは大きいです。言葉は同じでも、内側で起きている反応が違うからです。

ですから、私は企業文化を見るとき、壁に何が貼ってあるかだけではなく、その言葉を見た人の中で何が立ち上がっているのかを見たいのです。
そこには、行動の前段階があります。文化の芽があります。
逆に言えば、スローガンがスローガンで終わってしまう理由も、ここにあります。

関連記事:LABプロファイルで磨く伝達力|相手に伝わる実践的コミュニケーション

メタプログラムは、組織文化を映す鏡である

もう一つ、大切なNLPの用語があります。
それが「メタプログラム」です。これも横文字ですが、現場で見るととてもわかりやすいものです。
メタプログラムとは、人が情報を処理するときの傾向、判断のクセ、注意の向け方、動機づけのパターンのようなものです。

たとえば、何かを始めるときに「目的に向かって動く人」がいます。
一方で、「問題を避けるために動く人」もいます。
どちらが良い悪いという話ではありません。
新しい改善活動をするとき、「もっと良い現場にしたい」と考える人もいれば、「事故を起こしたくない」「監査で指摘されたくない」と考える人もいる。
どちらも行動の理由になります。
しかし、組織全体としてどちらに偏っているかによって、文化はかなり変わります。

たとえば、安全第一という言葉を見たとき、「事故を起こさないために守る」と受け取るのか、「安全で誇れる職場をつくるために守る」と受け取るのか。

食品安全方針を見たとき、「監査で指摘されないためにやる」と受け取るのか、「お客様の健康と信頼を守るためにやる」と受け取るのか。

品質方針を見たとき、「不良を出さないために守る」と受け取るのか、「お客様に安心して使ってもらうために仕事の質を高める」と受け取るのか。

同じ言葉でも、働いているメタプログラムが違うと、行動の意味が変わります。


これは、組織文化を映しています。
個人の考え方だけではありません。その組織の中で、どんな判断が褒められてきたのか。
どんな発言が歓迎されてきたのか。どんな人が評価されてきたのか。どんな違和感が見過ごされてきたのか。どんな失敗が責められてきたのか。
こうした積み重ねが、組織全体のメタプログラムをつくっていきます。

ある会社では、現場の人が「少し気になるので止めます」と言いやすい。
別の会社では、「それくらいで止めるな」と言われそうで黙ってしまう。
ある会社では、ヒヤリハットを出すと「よく気づいた」と受け止められる。
別の会社では、「また面倒な報告を増やした」と見られる。
ある会社では、食品安全上の違和感を言うことが誇りになる。
別の会社では、「波風を立てる人」と思われる。
これは、ルールの有無だけの問題ではありません。組織の中にある判断パターンの問題です。


コミュニケーション研修|ナレッジリーン

ナレッジリーンは国や地方自治体を顧客として環境分野の調査業務や計画策定、企業の非財務分野に対するマネジメントコンサルティングや人材育成を主業務とするシンクタンク&コンサルティングファームです。

kmri.co.jp

og_img

「安全第一」は、誰の脳内でどのように再生されているのか

ここで、少し現場の場面を想像してみます。
工場の通路に「安全第一」と大きく書かれた掲示があります。
毎日、何十人、何百人もの人がその前を通ります。
では、その人たちは本当に「安全第一」を見ているのでしょうか。
文字としては視界に入っているかもしれません。
でも、脳内で意味が立ち上がっているとは限りません。

ある若手社員は、その掲示を見て、入社時の安全教育を思い出すかもしれません。
講師が話していた災害事例を思い出し、「自分も気をつけよう」と身体が少し引き締まるかもしれません。
あるベテラン社員は、「昔、あの設備で指を挟みそうになったな」と過去のヒヤリを思い出すかもしれません。
ある管理職は、「今月は休業災害ゼロで行きたい」と数字を思い浮かべるかもしれません。
ある人は、「またスローガンか」と思って通り過ぎるかもしれません。
ある人は、そもそも見ていないかもしれません。

これが文化の現実です。掲示物は同じです。言葉も同じです。
しかし、受け取っている人の中で起きていることは違います。
だから、私は「安全第一」という言葉そのものよりも、その言葉を見た人の脳内で何が起きているのかに興味があります。どんな映像が浮かぶのか。
どんな声が聞こえるのか。どんな身体感覚が生まれるのか。どんな判断パターンが作動するのか。そして、その結果として、どんな行動が選ばれるのか。

これは、食品安全方針でも同じです。
「私たちはお客様に安全・安心な食品を提供します」と書いてあったとします。美しい言葉です。とても大切な言葉です。
では、その言葉を見た現場の人は、何を思い浮かべているでしょうか。
お客様の食卓でしょうか。小さな子どもが食べている場面でしょうか。過去のクレームでしょうか。監査員の顔でしょうか。上司の注意でしょうか。
それとも、年に一度読むだけの方針文書でしょうか。

同じ方針でも、脳内で再生されるものが違えば、日々の行動も違ってきます。
手洗いの意味、清掃の意味、記録の意味、温度管理の意味、異物確認の意味が変わります。
単なる作業になるのか、お客様を守る行動になるのか。ここに食品安全文化の差が出ます。

スローガンで終わる会社と、行動に変わる会社の違い

私は、スローガンが悪いと言いたいわけではありません。
方針も、理念も、標語も必要です。
言葉がなければ、組織は方向を共有しにくくなります。
大切なのは、その言葉が現場の行動に変わるところまで設計されているかどうかです。

スローガンで終わる会社では、言葉が掲げられたところで止まっています。
安全第一。品質第一。お客様第一。食品安全最優先。どれも正しい。どれも立派です。
しかし、現場の人がその言葉を自分の仕事と結びつけられていなければ、言葉は壁に貼られたままになります。
壁はよく知っている。でも、人は動いていない。そういうことが起きます。
壁だけが優秀。これ、意外とあります。

一方で、行動に変わる会社では、言葉が体験と結びついています。
「安全第一」と聞いたときに、自分の作業のどこに危険があるかを考える。
「食品安全」と聞いたときに、自分の工程のどこがお客様の健康につながっているかを考える。
「品質方針」と聞いたときに、自分の判断が次工程やお客様にどう影響するかを考える。
つまり、言葉が自分ごとになっています。

この違いをつくるには、単に方針を読み上げるだけでは足りません。
人が言葉をどのように受け取り、どのように意味づけし、どのように行動へ変換しているのかを見なければなりません。
ここで、NLP的な視点が効いてきます。
人の内側にある表象、サブモダリティー、メタプログラム、メンタルモデルを丁寧に見つめる。
難しく言えばそうなりますが、現場の言葉で言えば、「この人たちは、この方針を見て、何を思い浮かべ、どう判断し、どう動いているのか」を見るということです。

生成AI時代だからこそ、体験のある言葉が問われる

ここで、最初の生成AIの話に戻ります。
生成AIは、方針文書も作れます。安全文化の説明もできます。食品安全文化の重要性も書けます。品質方針の文案も整えられます。
しかも、かなりきれいに。
そうなると、これからの時代、きれいな言葉を掲げること自体の価値は下がっていくかもしれません。
なぜなら、きれいな言葉は、誰でも作れるようになるからです。

では、何が価値になるのか。
私は、体験と行動に結びついた言葉だと思います。
その会社の現場で何が起きているのか。その会社の人たちは、どんな言葉に反応し、どんな言葉には反応しないのか。
どんな場面で黙ってしまうのか。どんな問いを投げると、自分の体験を語り始めるのか。
どんな対話をすると、方針が自分の仕事につながるのか。
ここに価値があります。

生成AIは情報をくれます。でも、現場には立っていません。
生成AIは言葉を整えてくれます。でも、現場の沈黙の重さは感じていません。
生成AIは文化の定義を説明できます。でも、その組織の会議室で、若手が発言を飲み込む瞬間は見ていません。
生成AIは安全文化の重要性を語れます。でも、現場で「止めた方がいい」と言うかどうか迷っている人の身体のこわばりまでは感じていません。

だからこそ、これからの企業文化づくりには、言葉を整える力だけでなく、体験を聴く力が必要になります。
その人が何を見たのか。何を感じたのか。どこで迷ったのか。何を恐れているのか。何を大切にしているのか。どんな判断パターンで行動しているのか。
そこを見にいく必要があります。

方針を読むのではなく、方針が人の中でどう働いているかを見る

安全文化や食品安全文化、品質文化を本気で育てようとするとき、私はまず、掲げられた言葉と現場の人の内側にある意味づけのズレを見ます。
方針には「安全最優先」と書いてある。
でも、現場では「納期が厳しいから止めにくい」と感じているかもしれない。
方針には「お客様の安心」と書いてある。でも、現場では「監査で引っかからないようにすること」が主な動機になっているかもしれない。
方針には「品質第一」と書いてある。でも、日々の会話では「とにかく流せ」が強くなっているかもしれない。

このズレを責めても、文化は変わりません。
むしろ、責めると人は言葉を閉じます。
大切なのは、ズレを発見し、対話できるようにすることです。
「安全第一という言葉を見たとき、どんな場面が浮かびますか?」「
食品安全方針の中で、自分の仕事と一番つながっている言葉はどれですか?」
「品質方針を現場行動に置き換えると、今日の作業では何になりますか?」
「ヒヤリとしたとき、声を出せる職場ですか?出せないとしたら、何が止めていますか?」
こうした問いによって、方針が人の内側でどう働いているのかが見えてきます。

これが、私の言うNLP的な文化の見つめ方です。
方針文書を読んで終わりではありません。
掲示物を確認して終わりではありません。
教育を実施して終わりでもありません。
人がその言葉をどう受け取り、どんな体験と結びつけ、どんな判断パターンで行動に変換しているのかを見る。
そこまで見て、初めて文化に触れたと言えるのではないかと思います。

文化は、制度ではなく“日々の反応”に宿る

組織文化というと、少し大きな言葉に聞こえます。
理念、方針、制度、教育体系、評価制度、マネジメントシステム。
もちろん、これらはとても大切です。
ただ、文化はそれだけではありません。文化は、日々の小さな反応に宿ります。

たとえば、誰かが「これ、ちょっと危ないかもしれません」と言ったとき、周囲がどう反応するか。
「ありがとう、よく気づいたね」と言うのか。
「また面倒なことを言い出した」と言うのか。
あるいは、何も言わずに空気で黙らせるのか。
この反応が文化です。

食品工場で、若手が「この状態、少し気になります」と言ったとき、上司がどう受け止めるか。
「念のため確認しよう」と言うのか。
「前も大丈夫だったから」と流すのか。
「そんな細かいことを言っていたら回らない」と返すのか。
この反応が文化です。

品質の現場で、作業者が「この数値、いつもと少し違います」と言ったとき、組織がどう扱うか。「違いに気づいたこと」を評価するのか。
「規格内だから問題ない」で終わらせるのか。
「余計なことを言うな」という雰囲気になるのか。
この反応が文化です。

文化は、立派な言葉の中だけにあるのではありません。
むしろ、予定外の発言、違和感の共有、ミスの報告、ヒヤリハットの扱い方、沈黙の後の一言に表れます。
だから、文化を見たいなら、会議室の理念額だけでなく、現場の小さなやり取りを見る必要があります。ここに、組織の本音が出ます。

NLP的に見ると、文化づくりは“言葉の再教育”ではなく“体験の再接続”である

安全文化を高めましょう。食品安全文化を醸成しましょう。品質意識を高めましょう。
こうしたテーマで研修や講演をするとき、私は単に正しい知識を伝えるだけでは不十分だと思っています。
もちろん知識は必要です。法令も、規格も、ルールも、手順も大切です。
ただ、それだけでは人の行動は変わりません。

人の行動が変わるとき、その背景には「意味の変化」があります。
手洗いが、ただのルールから「お客様を守る行動」に変わる。
指差呼称が、ただの形式から「自分と仲間を守る確認」に変わる。
記録が、ただの面倒な紙仕事から「未来の異常を見つける手がかり」に変わる。
ヒヤリハット報告が、怒られる材料から「組織を守る貢献」に変わる。
この意味の変化が起きたとき、人の行動は変わり始めます。

NLP的に言えば、これは言葉と体験の再接続です。
スローガンという抽象的な言葉を、現場の具体的な体験に結びつける。
方針という上位概念を、自分の作業、自分の判断、自分の違和感に結びつける。
すると、言葉に温度が戻ります。方針が、壁から降りてくる。標語が、身体に入ってくる。
少し大げさに聞こえるかもしれませんが、文化づくりとは、そういうことだと思っています。

スローガンの奥にある問いを持てるか

では、私たちは何をすればよいのでしょうか。
私は、まず問いを変えることだと思います。
「安全第一は掲示されていますか?」だけではなく、「安全第一という言葉を見たとき、現場の人は何を思い浮かべていますか?」と問う。
「食品安全方針は周知されていますか?」だけではなく、「その方針は、現場の判断にどう影響していますか?」と問う。
「品質方針を理解していますか?」だけではなく、「その方針を、自分の仕事のどんな行動に置き換えていますか?」と問う。

この問いの違いは大きいです。
前者は、実施確認です。
後者は、文化確認です。
前者は、やったかどうかを見ています。
後者は、人の内側で何が起きているかを見ています。
もちろん、実施確認も必要です。しかし、それだけでは文化の深さは見えません。

私は、企業文化を見るときに、よくこう考えます。
この会社では、何に注意が向きやすいのか。
何が見落とされやすいのか。何を避けようとしているのか。何に向かって動いているのか。誰の基準で判断しているのか。違いに気づくことが歓迎されているのか。同じであることが安心とされているのか。自分で判断することが求められているのか。上位者の判断を待つことが安全とされているのか。

これらは、メタプログラム的な問いです。
そして、組織文化を映す問いでもあります。
スローガンの奥にある問いを持てるかどうか。
ここが、文化づくりの分かれ道になるのではないかと思います。

組織文化は、見えない。でも、見ようとすれば見えてくる

組織文化は、目に見えにくいものです。
だからこそ、多くの会社では、スローガン、方針、ルール、教育、監査、チェックリストという見えるものに頼ります。
それは当然です。見えるものがなければ、管理できません。
ただ、見えるものだけを整えても、見えないものが変わっていなければ、行動は変わりにくいのです。

では、見えないものを見るにはどうするか。
私は、現場の言葉を聴くことだと思います。
しかも、表面的な言葉ではなく、その奥にある体験と思考を聴くことです。
「その話って、実体験ですか?」
「それは、あなたの考えですか?」
「そこには、どんな背景がありますか?」
この問いは、生成AI時代の言葉の薄さを見抜く問いでもありますが、組織文化を見る問いでもあります。

人が語る言葉の中には、その組織で何が許され、何が避けられ、何が評価され、何が見なかったことにされているのかが表れます。
「うちでは、そういうことは言わない方がいいんです」
「昔からこうなんです」
「前に言ったら面倒なことになったんです」
「本当は気になっていたんですけどね」
こうした言葉の中に、文化があります。
ここを聴かずに文化を変えようとしても、たぶん難しいです。

関連記事:会議室から始まる組織文化改革──言葉が変える問題解決力

文化づくりに必要なのは、きれいな言葉ではなく、言葉が動き出す場である

安全文化、食品安全文化、品質文化。どれも大切です。そして、多くの会社が真剣に取り組んでいます。
私は、その取り組みを否定したいわけではありません。
むしろ、仕組みを整え、方針を掲げ、教育を行い、監査をし、改善を進めている会社ほど、もう一段深く見てほしいと思っています。

その方針は、現場の人の中でどんな映像になっていますか。
そのスローガンは、どんな声として響いていますか。
そのルールは、どんな身体感覚を伴っていますか。その教育は、どんな判断パターンを育てていますか。
その会議は、違和感を言える場になっていますか。
そのヒヤリハット報告は、責める材料ではなく、組織を守る情報として扱われていますか。

この問いを持つだけで、文化の見え方は変わります。
スローガンは、ただの文字ではなくなります。
方針は、ただの文書ではなくなります。
現場の小さな違和感が、文化を育てる入口になります。

私は、NLPを万能薬のように語るつもりはありません。
NLPだけで組織文化が変わるわけではありません。
安全には安全の専門知識が必要です。
食品安全には食品安全の仕組みが必要です。
品質には品質管理の原理原則が必要です。

マネジメントシステムも、法令も、標準化も、教育も、監査も必要です。
ただ、そのすべてを動かしているのは人です。
人がどう見て、どう感じ、どう意味づけし、どう行動するか。
ここを見ないままでは、仕組みは形だけになりやすいのです。

壁に貼られた言葉を、現場の行動に変えるために

最後になりますが、企業文化とは、壁に貼られた言葉ではありません。
その言葉を見た人たちの脳内で起きている反応の集合体です。
安全第一は、掲げた瞬間にはまだ文化ではありません。
食品安全方針も、制定した瞬間にはまだ文化ではありません。
品質方針も、読み合わせた瞬間にはまだ文化ではありません。

それを見た人が、何を思い浮かべるのか。何を感じるのか。何を大切だと判断するのか。どんな違和感に気づくのか。誰に声をかけるのか。止めるのか、流すのか。確認するのか、見なかったことにするのか。
そこに文化が表れます。

だから、スローガンで終わらせてはいけないのです。
スローガンを否定するのではありません。
スローガンを現場の体験に接続するのです。
方針を現場の言葉に翻訳するのです。
理念を日々の判断に落とし込むのです。
そして、その過程で、人の内側にある表象、サブモダリティー、メタプログラム、メンタルモデルを丁寧に見ていくのです。

書店の棚の前で見かけたNLPの背表紙から、ずいぶん遠くまで来てしまいました。
生成AIの話をしていたはずが、安全文化、食品安全文化、品質文化の話になり、最後には壁に貼られたスローガンの内側までのぞき込むことになりました。
まあ、いつものことです。

私の頭の中では、本屋の棚の前で、NLPと生成AIと安全文化と食品安全文化が勝手に会議を始めていました。
端から見れば、ただのおっさんが本棚の前で固まっていただけです。
でも、本人の中では、けっこう大きな研究会が開かれていたわけです。

自社の「安全第一」や「食品安全方針」や「品質方針」が、現場でどのように受け取られ、どのような行動につながっているのか。
見つめ直す機会があれば、ぜひ一度、壁に貼られた言葉の前で立ち止まってみてください。
そして、現場の人に聞いてみてください。

「この言葉を見たとき、何が浮かびますか?」
「この方針は、あなたの仕事のどの場面につながっていますか?」
「本当は気づいているけれど、言いにくいことはありませんか?」
「この職場では、違和感を言うことは歓迎されていますか?」

その答えの中に、組織文化の現在地が見えてきます。
そして、その現在地が見えたとき、次に何を育てればよいのかも見えてきます。

文化は、言葉で始まります。でも、言葉だけでは終わりません。
言葉が人の内側で意味を持ち、体験と結びつき、判断を変え、行動に変わったとき、ようやく文化になっていくのだと思います。


「チームビルディング」のコラム一覧|ナレッジリーン

【現場改善を成果につなげるヒント 】 毎週月曜日にコラム更新、火曜日にメールマガジンで配信。   改善を前に進め、継続的な成果につなげたい方へ(登録無...

kmri.co.jp

og_img

次世代リーダー育成研修|ナレッジリーン

ナレッジリーンは国や地方自治体を顧客として環境分野の調査業務や計画策定、企業の非財務分野に対するマネジメントコンサルティングや人材育成を主業務とするシンクタンク&コンサルティングファームです。

kmri.co.jp

og_img

体験セミナーのお申し込みはこちらから

お気軽にお問い合わせください

坂田 和則さん画像
マネジメントコンサルティング部 部長
坂田 和則

国内外において、企業内外教育、自己啓発、人材活性化、コストダウン改善のサポートを数多く手がける。「その気にさせるきっかけ」を研究しながら改善ファシリテーションの概念を構築し提唱している。 特に課題解決に必要なコミュニケーション、モチベーション、プレゼンテーション、リーダーシップ、解決行動活性化支援に強く、働く人の喜びを組織の成果につなげるよう活動中。 新5S思考術を用いたコンサルティングやセミナーを行い、企業支援数が190件以上及び年間延べ3,400人を越える人を対象に講演やセミナーの実績を誇る。

お気軽に私たちにご相談ください

 03-6450-1877(受付時間 平日10:00~18:00)
scroll