【EcoTopics】気候市民会議の広がりについて

目次

近年では、日本の各地で「気候市民会議」を開催する動きがみられます。

本コラムでは、「気候市民会議」が注目される理由や、今後の「気候市民会議」の展開についてご紹介します。


1.気候市民会議について

近年では、住民同士が脱炭素社会の実現や気候変動問題について話し合い、その対策を考えるための取組として「気候市民会議」の開催が注目されています。

気候市民会議とは、無作為に選ばれた市民が複数回の会議に参加し、専門家の話を聞きながら市民同士での話し合いを重ね、気候変動に関する対策や取組を検討するものです。

無作為に参加者を選ぶことから、「地域の縮図」を作ったうえで議論を重ねることが可能であり、多様な市民の意見を反映した取組を検討できると考えられています。


2.気候市民会議のはじまり

2015年にパリ協定が採択されて以降、世界では地球温暖化対策や脱炭素社会の実現に向けた取組が、より一層強化されることとなりました。

そこで2019年頃より、フランスやイギリスを中心とした欧州では、脱炭素社会の実現に向けた議論を行うため、無作為抽出型の市民会議である「Climate Assembly(気候市民会議)」が開催され始めました。

例えば、フランスでは、2019年~2020年にかけて無作為で選ばれた参加者150人が、週末にパリで集まり、7回にわたる議論を重ねて149項目の提言を政府に提出し、フランスのマクロン大統領が146の提言の検討を約束しました。

このような動きは、他の欧州諸国にも広がり、各地で気候市民会議が開催されるようになりました。

  

3.日本での広がり

日本でも2050年の「カーボンニュートラル・脱炭素社会の実現」が求められる中、欧米諸国で広がりを見せた気候市民会議が市民参加型の意思決定手法として取り入れられはじめました。

2020年には札幌市で国内初の気候市民会議が官学協働により試行されました。この成功を受け、2021年には神奈川県川崎市で「脱炭素かわさき市民会議」が開催され、その後も多くの市区町村で気候市民会議が行われるようになりました。

2022年には、初めて地方公共団体が主催する気候市民会議が開催されました。武蔵野市では「武蔵野市気候市民会議」を主催し、無作為抽出により選ばれた70人の市民が気候変動問題や脱炭素社会の実現について話し合いました。

■2020年~2022年に開催された気候市民会議の例

地方公共団体・主催

期間

会議名

テーマ・論点

参加者

北海道札幌市

2020年

11/8~12/20

(全4回)

気候市民会議さっぽろ2020

札幌は、脱炭素社会への転換をどのように実現すべきか

20人程度

(オンライン開催)

神奈川県川崎市

2021年

5/22~10/23

(全6回)

脱炭素かわさき市民会議

「移動」「住まい」「消費」においてどうすれば脱炭素に向かうことができるか

75人程度

(オンライン開催)

東京都武蔵野市

2022年

7/26~11/22

(全5回)

武蔵野市気候市民会議

「モノを買う・使う・手放す」「動く・働く(学ぶ)・遊ぶ」「「住まいのエネルギー」この中で自分もしくはみんなで出来る事(アイデア出し)

70人程度

(オンライン・対面)

出典:気候市民会議さっぽろ2020実行委員会「気候市民会議さっぽろ 2020最終報告書」、脱炭素かわさき市民会議実行委員会「脱炭素かわさき市民会議からの提案 2050 年脱炭素かわさきの実現に向けて」、武蔵野市「武蔵野市気候市民会議 実施の記録」より作成


4.今後の課題

(1)若い世代の関心の向上

気候市民会議をめぐる課題としては、気候変動問題そのものへの関心の低さが挙げられます。内閣府が2023年に行った「気候変動に関する世論調査」では、気候変動が引き起こす問題に「関心がある」と回答した人の割合は、70歳以上が最も高い一方で、18歳~29歳が最も低く、若い世代ほど気候変動問題の関心が低くなっています。

カーボンニュートラルの実現を目指す2050年は、今の若い世代(18歳~29歳)が社会の中心を担うことから、若い世代に対する気候変動の意識向上が求められます。

 

(2)参加のしやすさ

 気候市民会議に代表される住民参加型のワークショップについては、参加者の年齢の高齢化や、いわゆる「いつものメンバー」と言われるように、参加メンバーが固定化するケースがみられます。こうした参加者の固定化が、若い世代がワークショップの参加を躊躇する要因にもなっています。

 そこで、東京都渋谷区や世田谷区などでは、参加者を若い世代に絞った形での「気候市民会議」が開催されています。こうすることで、環境問題のアプローチを新たな層にも広がることが考えられます。


5.まとめ

無作為に選ばれた市民が社会の縮図を作り、気候変動対策を議論する仕組みである気候市民会議は、欧州を中心に広がりを見せ、日本でも各地で気候市民会議が開催されるようになりました。

気候市民会議は多様な意見を反映できる特徴があるものの、若い世代の気候変動に関する関心の低さや、ワークショップそのものの参加のしづらさが課題として考えられますが、世田谷区では若者限定の会議を実施するなど、新しい層の参加を促す取り組みも見られます。

今後は、若い世代の意識向上と参加しやすい仕組みの構築が必要であり、2050年のカーボンニュートラルの実現と、持続可能な社会の実現に向けた市民参加の拡大が期待されます。


出典:

●気候市民会議さっぽろ2020実行委員会

 気候市民会議さっぽろ 2020最終報告書

https://citizensassembly.jp/system/wp-content/uploads/2020/09/sapporo2020ca_final_report.pdf

 

●脱炭素かわさき市民会議実行委員会

 脱炭素かわさき市民会議からの提案 2050 年脱炭素かわさきの実現に向けて

https://www.cckawasaki.jp/kwccca/citizenmeeting/20211111proposal.pdf

 

●武蔵野市

武蔵野市気候市民会議 実施の記録

https://www.city.musashino.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/036/360/kiroku.pdf

 

●NIRA 総合研究開発機構

気候市民会議は社会を動かせるか

https://www.nira.or.jp/paper/vision70.pdf

 

●内閣府 

「気候変動に関する世論調査」の概要

https://survey.gov-online.go.jp/r05/r05-kikohendo/#T2




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(令和7年12月 公共コンサルティング部 井澤



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