なぜなぜ分析を成功させる3つの原則 │落とし穴にハマらないために
なぜなぜ分析は、なぜ形骸化するのか
「なぜなぜ分析をやっているけど、成果が出ないんです」
「うちのチームでは、なぜなぜ分析が全然定着しないんですよ」
――これは、私がセミナーや現場で耳にする言葉のトップ3に入ります。
もしかしたら、この文章を読んでくださっているあなたの職場でも、同じような声が聞こえてきてはいないでしょうか。
せっかく時間をかけて取り組んでいるのに、なぜうまくいかないのか。
それは、「なぜなぜ分析」という道具(問題解決ツール)そのものに問題があるのではありません。
本来なぜなぜ分析は、根本原因を突き止め、改善につなげるための力強い知恵の体系です。
ではなぜ、「意味のない儀式」に変わり形骸化が進むのか?
今回は、そんなお話を心理学や脳科学などの科学を使ってアプローチします。
これってウチの職場のこと?
ある製造現場で、部下が上司から「なぜなぜ分析をやれ」と言われました。
慌てて過去の資料を引っ張り出し、フォームに「なぜ?」「なぜ?」と5回繰り返して書き込んでみる。しかし出てきた答えは――
「もっと注意する」
「意識を高める」
「連携を強化する」
どれも抽象的で、行動に落ちない言葉ばかり。
やり終えた部下は、ため息をつきながら「やっても意味がないですね」と口にします。
上司も「これじゃダメだな」と不満顔。
すると次第にチームから、「なぜなぜ分析=面倒くさいだけの作業」という空気が漂い始めました。
――どうでしょう。
「これ、まさにうちの職場だ」と思いませんか?
なぜなぜ分析が形骸化するのは、使い方を誤ったナイフのようなものです。
本来なら料理を美味しくするために使える道具が、正しい持ち方を知らなければ、危険で不安定なものになります。
「やっぱりこのナイフは使えない」と棚に戻されてしまう。
なぜなぜ分析も同じで、正しい姿勢と方法がなければ、「危ない道具」や「無駄な作業」に見えてしまうのです。
人は「自分ごと」に感じたとき、強く動かされます。
「そうそう、うちもそうなんだ」と思った瞬間に、脳内では共感と安心感が生まれます。
そして「じゃあ、どうすればうまくいくんだろう?」という問いが自然に湧いてきます。
私があなたに伝えたいことは、まさにそのことです。
なぜなぜ分析が形骸化してしまうのは、ツールのせいではなく、前提条件が整っていないから。
続いては、私が師匠から学んだ「なぜなぜ分析のロジック」をご紹介します。
そして、なぜこれが“単なる原因追及の道具”ではなく、“人を育てる知識体系”なのかを、一緒に紐解いていきましょう。
師匠から学んだロジック
私が「なぜなぜ分析」と本格的に出会ったのは、なぜなぜ分析の書籍も執筆されている先生(私は勝手に師匠と呼んでいます)のセミナーでした。
先生は、単に「なぜ?を5回繰り返せば原因が出てくる」という表面的なやり方を教えたわけではありません。
むしろ逆で、「問いの深め方そのものが人を育てる」と、ロジカルシンキングとクリエイティブシンキングを同時に鍛える知識体系として伝えてくださったのです。
師匠の教え
先生の口癖は、こうでした。
「坂田くん、なぜ?と自問しながら、質問の質を高めなければだめだよ。」
この一言が、私に強烈に刻まれています。
なぜなぜ分析の実習を繰り返していると、確かに次のことが解ってきました。
・質の高い質問は、より多くの気付きが沸き起こり、次の質問がでる。
・質の悪い質問は、なんで?という感覚に包まれて、次の質問がでない。
これじゃあ「なんで?なんで?分析だろ!」と自分にツッコミを入れたくなる状態。
そして、また新たな気付きが、私に舞い降りました。
「“なぜ?”は形ではない。問いに“渇”があるかどうかが大事なんだ!」
渇――それは、真剣に本質を掘り下げようとする迫力であり、答えを妥協せずに追い求める姿勢のこと。
形だけ「なぜ?」と繰り返しても、それは水のない井戸を掘るようなもの。
どれだけ掘っても答えは出てきません。
なぜなぜ分析という「原因追及の手法」を使いこなすためには、“思考を深めるためのトレーニング”が大切なんだと悟ったのです。
それから、数年経ち、私がコンサルタントとして仕事をするようになったとき、思い切って先生に講演をお願いしました。
すると先生は、笑顔でこうおっしゃいました。
「坂田さんがやればいいのに」
その瞬間、胸の奥が熱くなりました。
大きな存在である師匠から、まるでバトンを渡されたように感じたのです。
「自分が学んだことを、自分の言葉で伝えていく番だ」――そう覚悟を決めた瞬間でした。
師匠から学んだロジックは、私にとって地図とコンパスのようなものでした。
山登りに出るとき、地図がなければ進む方向を見失い、コンパスがなければ迷ってしまいます。
同じように、なぜなぜ分析においても、地図=ロジカルシンキング、コンパス=クリエイティブシンキング。
両方が揃って初めて、根本原因へとたどり着けるのです。
ここで一つ、あなたに問いかけてみたいのです。
あなたの職場では、なぜなぜ分析を「手順」として教えてはいませんか?
「やり方」だけが広まり、「問いの力」や「考える姿勢」は置き去りになってはいないでしょうか。
もし思い当たるなら、ぜひこの先も読み進めてください。
なぜなぜ分析が形骸化してしまう、典型的な「3つの落とし穴」について、具体的にお話しします。
きっと「あ、これうちの現場だ」とうなずくポイントが出てくるはずです。
なぜ定着しないのか
~よく見かける3つの落とし穴~
「なぜなぜ分析をやってみたけど、全然定着しないんです」
「結局、最後までやりきれないんですよ」
これは、多くの現場で私が耳にする“嘆き”です。
しかし、その背景をたどっていくと、共通するパターンが見えてきます。
私はこれを“3つの落とし穴”と呼んでいます。
落とし穴1 問題の定義が曖昧
ある工場で不良が出たとき、現場リーダーはこう言いました。
「問題は、不良が出たことだ」
しかしこれでは、問題定義として不十分です。
どの製品で、どの条件で、どのような現象が起きたのかを明確にしなければ、原因追及のスタートラインにすら立てません。
さらに深掘りすると、問題定義が曖昧になる背景には――
・違和感を捉える観察力が育っていない
・違和感を言葉にして伝えられない
・言葉にできても伝えられる雰囲気がない
・「このままだと…」と先を読む洞察力が不足している
・ 直感に理由を求めすぎて無視してしまう
・「改善していい」という安心感が与えられていない
こうした人と組織の“土台”が整っていなければ、問題は曖昧なまま。
井戸の場所も分からずに穴を掘っているようなものです。
落とし穴2 問いそのものが間違っている
ある職場では、こんな「なぜ?」が飛び交っていました。
「なんでウチの部署はいつも忙しいんだろう」
「なぜAさんはミスをするのか」
どうでしょう?
これらは問いの形をしていますが、実態は愚痴や人のせい探しです。
問いがズレていれば、出てくる答えもズレてしまいます。
典型的なパターンは
・現場を見ずに机上で考える
・過去の知識や経験に縛られている
・愚痴や責任追及にすり替わる
・改善策ありきの問いになっている
・メンタルモデルの違いで噛み合わない
これでは「問いの力」を使うどころか、チームの空気を悪くしてしまうだけです。
落とし穴3 最後まで終えられない/成果が出ない
さらに多いのが、「始めたけど途中で止まる」というケースです。
原因の一つは、広く信じられている「なぜは5回」という都市伝説。
なぜなぜ分析は問題の複雑さによって、3回で済むこともあれば、10回必要なこともあります。
「5回でやめる」ことが目的化してしまうと、原因に届かないまま中途半端に終わってしまいます。
また、問題を小さく分解するチャンクダウンができないために、
・改善案が見えない
・途中で放置される
・出てきても抽象的で「気をつける」「協力する」といった曖昧さに終わる
結果、「やっても成果が出ない」「やるだけ無駄だ」というレッテルを貼られてしまうのです。
なぜなぜ分析が定着しない3つの落とし穴は、まるで「地図のない旅」のようです。
・問題定義が曖昧=出発点がわからない
・問いが間違っている=道を間違えている
・ 最後までやりきれない=途中で旅を投げ出す
これでは、ゴールにたどり着けるはずがありません。
ここまで読んで、「うちの職場のことだ」と思った方もいるのではないでしょうか。
大切なのは、この落とし穴に落ちないための具体的な方法を知ることです。
続けて、この中でも特に重要な「チャンクダウン」の考え方を詳しく解説します。
大きな問題を“小さな氷”に砕くように扱えるかどうか――それが成果を出すかどうかを左右します。
チャンクダウンの重要性
「なぜ?」を繰り返しても、結局は「もっと気をつける」「注意する」といった抽象的な答えしか出てこない――。
これもまた、現場でよく聞く悩みです。
なぜこうなってしまうのか?
実はここに、「チャンクダウン」という思考の技術が欠けているのです。
ある製造ラインでトラブルが起きました。
リーダーは「なぜ不良が出たのか?」と問いかけました。
するとメンバーから返ってきた答えは――
「作業員の意識が足りなかったからです」
さらに「なぜ?」と問いを重ねると、
「教育不足だからです」
「もっと訓練が必要だからです」
…どうでしょう?
これでは抽象度がどんどん上がり、具体的な改善策にはたどり着けません。
結果、会議室には「訓練を強化する」「意識を高める」といった曖昧なフレーズだけが残り、誰も行動に移さなくなるのです。
チャンクダウンとは何か
「チャンク」とは、情報の“かたまり”を意味します。
そして「チャンクダウン」とは、そのかたまりを小さく分解し、扱えるサイズに落とし込むことです。
たとえば「品質不良が多い」という問題を、
・どの製品で?
・どの工程で?
・どんな条件で?
と分解していく。
こうして初めて、具体的に手を打てる改善策が見えてくるのです。
大きな氷の塊を、そのまま飲み込めと言われても無理ですよね。
でも、それを小さく砕いてグラスに入れれば、誰でも水と一緒に飲むことができます。
問題解決も同じです。
大きな課題は、一口では消化できません。
チャンクダウンは“氷を砕く作業”であり、改善行動に落とし込むための必須ステップなのです。
科学的な裏づけ
なぜチャンクダウンが大切なのか。
それは、人間の脳の仕組みにも関係しています。
ワーキングメモリの制約
人間が、一度に処理できる情報量は「7±2チャンク」しかないと言われています。
大きな問題のまま扱うと、脳が処理しきれず、思考が止まってしまうのです。
具体化が行動を引き出す
心理学的には、人は曖昧な指示よりも、具体的な行動指針に従いやすいとあります。
「もっと気をつけよう」ではなく「この部品を毎回チェックする」といったレベルまで分解することで、改善行動は初めて定着します。
モチベーションとの関係
人は「自分の手でできる」と思えたときに、意欲が湧きます。
チャンクダウンが不足すると、課題が大きすぎて「自分には無理だ」と感じ、放置につながってしまいます。
あなたの職場でも、問題が“大きなかたまり”のまま議論されていませんか?
「不良が多い」「意識が足りない」――そんな抽象的な言葉が飛び交う会議は、まさに氷の塊を飲み込もうとしている状態です。
ぜひ次回の分析では、白紙の紙に書き出しながら、小さなかたまりに砕いてみてください。
ポイントは、「白紙に書き出すこと」です
なぜ、白紙なのか?。
続いては、その科学的な背景について解説します。
「白紙に書き出すことが大切」と、私が強くお伝えする理由を、さらに掘り下げていきましょう。
形式主義の罠と科学的背景
「このフォームに沿って進めれば、必ず原因が見つかります」
ある大手顧客の担当者が、品質保証部にそう言い残して去っていきました。
その言葉を信じて、現場では配布された「なぜなぜ分析シート」に従って分析が始まりました。
しかし、どうでしょう。
出てきた答えは、どれも「もっと気をつける」「手順を守る」といったお決まりの言葉。
肝心の原因は見えてこないのです。
メンバーの一人がつぶやきました。
「結局、これって“フォームを埋めただけ”ですよね」
形式主義の罠
この現場に起きたことは、決して珍しい話ではありません。
本来、なぜなぜ分析は「原因を掘り下げる思考の旅」です。
ところが、形式主義に陥ると――
・問いは「シートを埋める作業」に変わる
・枠外の視点が排除される
・見つかるのは「想定済みの答え」だけ
つまり、思考が枠に縛られ、自由な気づきが生まれなくなるのです。
これは、まるで「塗り絵を完成させるだけの旅」です。
すでに線が引かれている用紙に、指示通りの色を塗っていけば、形は整います。
でも、その絵から新しい発見や驚きが生まれることはありません。
本当の原因を探すには、時に線の外にはみ出し、真っ白な紙に自分で線を描く勇気が必要なのです。
科学的背景
なぜ、形式に縛られると分析が「意味のない作業」に陥るのでしょうか。
その背景には、人間の認知の特徴があります。
1. フレーミング効果(枠組みに縛られる)
人は与えられた枠に従って考えてしまう傾向があります。
シートという「フレーム」があると、その中でしか答えを探さなくなるのです。
2. エキスパートバイアス(既知の知識に依存する)
「このやり方なら原因が出るはずだ」という思い込みが働きます。
しかし真の原因は、既知の知識や過去の経験では、見えないところに潜んでいることが多い。
3. 発散的思考の抑制
本来、なぜなぜ分析には「論理の掘り下げ」と同時に「自由な発想」が必要です。
ところがフォームに縛られると、論理だけに偏り、新しい視点が出なくなります。
4. ワーキングメモリの負荷
人間の脳が一度に扱える情報量には、限界があります(7±2チャンク)。
枠を埋める作業に注意が奪われ、本質的な気づきにリソースを割けなくなるのです。
もし、あなたの職場で「なぜなぜ分析シート」を使っているなら、ちょっと立ち止まって考えてみてください。
そのシートは、問いを深める補助になっていますか?
それとも、思考を縛る足かせになっていませんか?
なぜなぜ分析を本当に機能させるには、時に「真っ白な紙から始める」ことが必要です。
白紙に戻す勇気―成功事例
ある会社での出来事です。
大手顧客から渡された「なぜなぜ分析シート」に従って、現場は一生懸命分析を進めていました。
しかし、出てくる答えはいつも同じ。
「もっと注意する」
「教育を強化する」
「連携を高める」
…誰もが頭では「これでは改善にならない」と分かっていました。
でも、与えられたフォームに従うしかない。
次第に現場の声は小さくなり、なぜなぜ分析は「やっても成果が出ない作業」へと姿を変えていったのです。
白紙に戻す決断
そこで現場リーダーは思い切って言いました。
「シートは一旦やめましょう。坂田さんは言っていた、真っ白な紙に書き出すところからやり直そう」
最初は戸惑いがありました。
「そんなやり方で大丈夫なのか?」という不安の声も出ました。
それでも勇気を持って、メンバーと一緒にホワイトボードや模造紙を前に、「なぜ?」を自由に書き出すことから再スタートしました。
変化の兆し
続けていくうちに、少しずつ空気が変わっていきました。
「これ、今まで考えたことなかったな」
「この視点は新しい!」
「なるほど、そんな知識があったんだ」
問いの質が変わり、チーム間の情報交換が活発になったのです。
「あらたな気づきの方法」「知らなかった知識」が共有されるようになり、分析が成果につながり始めました。
1年後――。
メンバーたちの「問い力」は、明らかに進化していました。
以前は、愚痴や人のせいにして流れていた問いが、
「ここに見落としがあるのでは?」
「この工程は別の視点で見直せないか?」
といった、建設的な問いへと変わっていったのです。
これはまるで、荒れ果てた畑に鍬を入れ、雑草を取り除き、土を耕すようなものです。
一度「型」という硬い土を壊し、自由な発想という種をまいたことで、やがて豊かな実りが返ってきました。
この変化には、科学的な背景があります。
1. ダイナミックスキル理論(発達心理学)
人は、固定的にスキルを獲得するのではなく、試行錯誤の積み重ねで発達します。
白紙から繰り返し問い直すことで、問い力が徐々に育っていったのです。
2. 社会的学習理論(バンデューラ)
人は、観察や模倣を通じて学びます。
チームで情報交換をすることで、互いの気づきを取り込み、学習効果が倍増しました。
3. 自己効力感(Self-Efficacy)
成果が出れば「自分たちでもできる」という感覚が生まれます。
この自己効力感が、モチベーションを高め、なぜなぜ分析を継続する力になりました。
あなたの職場で、「やっても成果が出ない」と感じていませんか?
もしそうなら、一度「白紙に戻す勇気」を持ってみてください。
フォームに縛られた分析ではなく、自由に問いを立て、違和感を書き出す。
そこから新しい発見が始まります。
リーダーの姿勢
続いては、なぜなぜ分析を成功に導く上で欠かせない、「リーダーの姿勢」について掘り下げます。
形式で縛るリーダーがいかに現場を潰してしまうか、そして良いリーダーがいかに問いを育てているか――。
現場で実際にあったエピソードを交えながら、お伝えします。
悪いリーダーと良いリーダー
白紙から再スタートして、問い力が育ち始めたその会社に、ある転機が訪れました。
大手顧客から派遣された品質保証部長が、新たに就任したのです。
部長は着任するなり、こう言いました。
「君たちのやり方は間違っている。正しいフォームを使いなさい」
再び、あの分析フォームが持ち込まれました。
結果はどうなったでしょうか。
誰もなぜなぜ分析をやらなくなったのです。
チームに漂ったのは、重たい沈黙とあきらめでした。
そんな現場を見ながら、部長は吐き捨てるように言いました。
「だから下請け会社はダメなんだ!」
悪いリーダーの典型
この部長のやり方は、形式主義に陥った「悪いリーダー像」の典型です。
形式にこだわる
成果よりも「正しい手順」でやることを優先する。
心理的安全性を破壊する
「ダメだ」というレッテル貼りが、メンバーの声を奪う。
外発的統制で縛る
「やれ」と命じるばかりで、主体性を育てない。
これでは、なぜなぜ分析が定着するはずがありません。
良いリーダー像
対照的に、なぜなぜ分析を成功に導くリーダーは、こんな姿勢を持っています。
1. 形式よりも本質を問う
「フォームに沿っているか?」ではなく、「本当に原因に近づけているか?」を確認する。
2. 気づきを尊重する
「その違和感は大事だね」と受け止める。小さな気づきを価値あるものとして扱う。
3. 心理的安全性を守る
「失敗は次の改善の種だよ」と言える。安心感があるからこそ、本音の問いが出てくる。
4. 問いを共に考える
「なぜ?」を部下にぶつけるのではなく、「一緒に考えよう」と寄り添う。
悪いリーダーは、花が咲き始めた畑にコンクリートを流し込みます。
芽は押しつぶされ、二度と伸びなくなる。
良いリーダーは、芽に水を与え、日差しを調整し、風から守ります。
芽は安心して育ち、やがて大きな花を咲かせます。
リーダーの言葉と態度は、チームにとって天候のようなものです。
快晴にもなれば、嵐にもなる。
心理学や組織行動学でも、この違いは裏づけられています。
心理的安全性(エイミー・エドモンドソン)
人が安心して意見を出せる環境こそが、学習と改善の土壌になる。
ラベリング効果
「だからダメなんだ」という言葉は、自己充足的予言を生み、本当に人を萎縮させる。
自己決定理論(デシ&ライアン)
外発的統制はモチベーションを削ぎ、内発的動機づけ(自律性・有能感・関係性)が育たなければ行動は続かない。
あなたの職場では、どんなリーダーが問いを導いていますか?
フォームを押しつけるリーダーでしょうか。
それとも、問いを引き出し育てるリーダーでしょうか。
なぜなぜ分析を成功させるかどうかは、リーダーの姿勢にかかっています。
続いては、そのリーダーが押さえておくべき「成功の3つの原則」についてお話しします。
分析を単なる形式から“成果を生む学び”へと変えるための、具体的な道しるべです。
成功させる3つの原則
ここまでお話ししてきたように、なぜなぜ分析は「フォームに従ってやればうまくいく」ものではありません。
むしろ「土台となる考え方や環境」が整っていないと、どれだけ手順を繰り返しても形骸化してしまいます。
では、どうすれば成功するのか。
私が、現場で数多くのチームを見てきて確信しているのは、次の「3つの原則」です。
原則1 ロジカルシンキングとクリエイティブシンキングを学習させる
なぜなぜ分析は、「筋道を立てる力」と「新しい発想を生む力」の両方が必要です。
ロジカルシンキングだけでは、「正しそうな答え」にはたどり着けても、現場で動く改善策にはなりません。
逆にクリエイティブシンキングだけでは、「面白そうなアイデア」は出ても、実現可能性を欠いてしまいます。
両輪がそろってこそ、原因追及と改善策の具体化につながります。
脳科学では、論理的思考に関わる左脳と、創造的思考に関わる右脳の両方を使うことで、新しい解決策が生まれるとされています。
なぜなぜ分析は、その両方を鍛える“知的トレーニング”なのです。
原則2 日ごろから直感を大切にし、違和感を言葉にする
不具合や問題は、突然起きているようで、実は「小さな違和感」の段階で、誰かが気づいていることが多いのです。
しかし、その直感を口にできなければ、問題は隠れたまま大きくなります。
直感とは、根拠のない感覚ではありません。
経験の中で培われた脳のパターン認識であり、見えない危険を察知する大切なセンサーです。
違和感を言葉にし、チームで共有すること。
これこそが、なぜなぜ分析を深める最初の一歩になります。
心理学者カーネマンが提唱した「システム1思考(直感)」と「システム2思考(論理)」の両立が必要です。
直感を無視せず言語化することで、論理的な分析が補強されます。
原則3 「言ってもいい」という雰囲気を職場に作り上げる
なぜなぜ分析が定着しない最大の理由のひとつは、これです。
「余計なことを言うな」
「それは君の仕事じゃない」
こんな空気が漂う職場では、誰も本音を言わなくなります。
逆に、
「いい気づきだね」
「その意見を聞かせてほしい」
と言えるリーダーのいる職場では、安心して声が出ます。
声が出れば問いが生まれ、問いが生まれれば改善が進む。
心理的安全性は、なぜなぜ分析の“土壌”そのものなのです。
ハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授が提唱した「心理的安全性」は、チーム学習と成果の基盤であると証明されています。
なぜなぜ分析の3つの原則は、まるで「三本の柱」です。
・ロジカルとクリエイティブの柱
・違和感を言葉にする柱
・「言ってもいい」雰囲気の柱
この3本が揃って初めて、屋根である「改善の成果」をしっかりと支えることができます。
一本でも欠ければ、屋根は傾き、やがて崩れてしまうのです。
あなたの職場では、この3つの柱は育っていますか?
もし1つでも欠けていると感じたなら、そこから着手してみてください。
小さな改善でも、やがて大きな成果へとつながります。
続いては、私自身が現場で伝えている「ファシリテーションの哲学」についてお話しします。
ロジックだけではなく、なぜ普段からの姿勢や気づき力を高めることが大切なのか――その理由を掘り下げていきます。
坂田流ファシリテーション哲学
師匠から教わった「なぜなぜ分析のロジック」は、私にとって確かな軸となりました。
しかし、現場で多くのチームと向き合う中で、私は次第に気づいていきました。
「ロジックだけでは、なぜなぜ分析は定着しない」
なぜなら、分析の成功を左右するのは「知識」よりもむしろ「人の姿勢」や「チームの雰囲気」だからです。
あるセミナーでのこと。
参加者の一人がこう質問してきました。
「先生、なぜなぜ分析のシートを使っても、結局“やって終わり”になってしまうんです」
私はこう答えました。
「シートを使うことよりも、日ごろから“なぜ?”と思ったことを言葉にしていますか?違和感を口にできる雰囲気はチームにありますか?」
その場の空気が一瞬、静まり返ったのを覚えています。
参加者たちの表情には「なるほど」という気づきと同時に、「自分たちの職場にはそれが足りない」という痛みが浮かんでいました。
坂田流ファシリテーションとは
私は、なぜなぜ分析を「進め方」ではなく「ファシリテーション」として捉えています。
つまり――
1. 問いを引き出す土壌をつくる
違和感を否定せず、安心して話せる場を整える。
2. 小さな気づきを積み重ねる
「それ大事だね」と受け止め、小さな改善を次につなげる。
3. 問いの成長を見守る
最初は、愚痴や人のせいに聞こえる問いでも、育てればやがて建設的な問いに変わっていく。
これが、私が現場で伝えている“坂田流”のファシリテーション哲学です。
問いは種のようなものです。
土壌が整っていなければ、芽は出ません。
水や日差しがなければ、育ちません。
ファシリテーションとは、その種を守り、育て、やがて花を咲かせる環境を整えることなのです。
そして、この哲学には、科学的にも裏づけがあります。
・心理的安全性
安心して発言できる場があるとき、人は学び、創造し、改善に挑戦できる。
・自己効力感
「自分にもできる」という感覚は、小さな成功体験の積み重ねから生まれる。
・集合知(Collective Intelligence)
多様なメンバーが出した気づきや視点が結びつくことで、新しい答えが生まれる。
なぜなぜ分析は、こうした学習理論の“実践の場”でもあるのです。
あなたの職場では、問いを「種」として扱えていますか?
「芽が出る前に摘んでしまう」ようなことはないでしょうか。
なぜなぜ分析を成功に導くのは、ロジックやシートではなく、問いを育てるファシリテーションです。
そして、その姿勢が結果的に「人を育て、組織を育てる」ことにつながっていきます。
それでは、師匠から受け継いだロジックに、私自身が築いた哲学を重ねた上で、読者であるあなたにお伝えしたいメッセージをまとめます。
師匠から受け継いだもの、そして未来へ
私は、なぜなぜ分析を師匠から、「問いのロジック」を徹底して教わりました。
それは、原因追究の道筋を見失わないための地図であり、私の土台となりました。
そして、その土台の背景には
どのような心理が?
どのような行動が?
と問いながら、なぜなぜ分析に取り組む姿勢(哲学)をくみ上げました。
そして、問いを育てるには、日常の観察、違和感を口にする勇気、「言ってもいい」と思える雰囲気が不可欠だということへ、業務改善支援の方向も変わりました。
私は、その気づきを「ファシリテーション哲学」として、多くの現場で伝えてきました。
なぜなぜ分析は、ただの道具ではありません。
それは、「地図と畑の両方」です。
師匠から受け取った「ロジック」という地図があるから、迷わず進める。
現場で耕した「ファシリテーションという畑」があるから、問いという種が芽を出す。
地図と畑、その両方がそろって初めて、豊かな実り――つまり改善と成長――が得られるのです。
ここまで読んでくださったあなたに、最後にお伝えしたいことがあります。
なぜなぜ分析は、単なる問題解決の手法ではありません。
それは「人を育て、チームを育て、組織を未来へと導く学びの技法」です。
あなたの職場でも、きっと「なぜ?」という問いを待っている種があります。
どうかそれを摘み取らず、育ててください。
そして、問いが芽を出したとき、その成長をチームで喜んでください。
私が師匠から受け継いだバトンを、今度はあなたが手にする番です。
なぜなぜ分析は、あなた自身の成長と、組織の未来をつくる力になる。
その一歩を、今日から踏み出してみませんか?
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国内外において、企業内外教育、自己啓発、人材活性化、コストダウン改善のサポートを数多く手がける。「その気にさせるきっかけ」を研究しながら改善ファシリテーションの概念を構築し提唱している。 特に課題解決に必要なコミュニケーション、モチベーション、プレゼンテーション、リーダーシップ、解決行動活性化支援に強く、働く人の喜びを組織の成果につなげるよう活動中。 新5S思考術を用いたコンサルティングやセミナーを行い、企業支援数が190件以上及び年間延べ3,400人を越える人を対象に講演やセミナーの実績を誇る。
