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これこそが本当の人材育成| 人材育成は「設計」ではなく「考え続けるプロセス」

目次

人材育成をしているのに、人が育っていないと感じる理由

人材育成に力を入れていない企業は、今ではほとんどありません。
階層別研修、次世代リーダー研修、管理職研修、OJT制度、評価制度との連動。
人事や教育部門の方とお話をすると、「やるべきことは一通りやっています」そう言われることが増えました。 

確かに、制度も研修も整っています。
外から見れば、人材育成にしっかり取り組んでいる会社に見えるでしょう。 
しかし・・・・
その一方で、こんな声も同時に聞こえてきます。

  • 若手が指示を待つようになった
  • 管理職が自分で判断しなくなった
  • 問題が起きても、なかなか表に出てこない
  • 改善活動が形だけになっている

研修はやっている。制度もある。それなのに、人が育っている実感が持てない。
では、なぜこのような違和感が生まれるのでしょうか。

少し、視点を変えて考えてみてください。
人材育成とは、本来、「人を思い通りに動かすための仕組み」ではないはずです。
 ところが現実には、

  • 管理しやすい人
  • 失敗しない人
  • 波風を立てない人

を育てる方向に、私たちは無意識のうちに引き寄せられていきます。
なぜなら、失敗はリスクに見え、立ち止まる時間はムダに見え、考えさせることは非効率に映るからです。
その結果、何が起きるか。

 現場では、
「正解が分からないこと」は口にされなくなり、
「うまくいっていないこと」は報告されなくなり、
「本当は危ないと感じていること」は、心の奥にしまわれていきます。
問題は解決されているように見えます。
しかし実際には、問題そのものが見えなくなっているだけなのです。 

最近では、「人的資本経営」という言葉を耳にする機会も増えました。人をコストではなく、資本として捉える。
その考え方自体は、とても大切だと思います。
ところが、ここで一つ、静かな問いが浮かびます。 人的資本を「可視化」しようとした瞬間、私たちは何を見て、何を見落としているのだろうか。スキルマップ、エンゲージメントスコア、研修受講時間。確かに、測れるものは増えました。

しかし・・・・
失敗を語れるようになったこと。
仲間の話を最後まで聴けるようになったこと。
緊張しながらも、自分の言葉で語ろうとする姿。 

こうした変化は、いったいどの指標に表れるのでしょうか。
 数値化できる成長と、数値化できない成長。人的資本経営が進めば進むほど、この二つの間にある溝が、かえって見えにくくなってはいないでしょうか。 

ここで、一つ問いを投げかけたいと思います。
人材育成とは、人に「正解を教えること」なのでしょうか。
それとも、人が自分で考え、失敗し、立ち直る力を育てることなのでしょうか。 
この問いに、即答できる組織は多くありません。 

なぜなら、人材育成の成果は、売上や生産性のように、短期間で数字として表れにくいからです。
するとどうなるか。 
分かりやすい成果が求められ、管理できる指標が重視され、いつの間にか、人を育てるはずの仕組みが、人を縛る仕組みに変わっていく。

多くの場合、それは善意から始まります。
失敗させたくない。早く一人前になってほしい。
現場を混乱させたくない。
しかし、その善意が積み重なった先で、人は挑戦しなくなり、考えなくなり、やがて「判断を他人に預ける」ようになっていきます。

 そんな中で、私はある企業の人材育成に、長く関わる機会を得ました。
最初から、明確な正解があったわけではありません。
 むしろその企業は、「真の人材育成とは何なのか、正直よく分からない」というところからスタートしていました。

ISOを取得して、マネジメントシステムの運用も上手くいっている。
審査での指摘も軽微な内容になってきた。
でも、現場の解決すべき課題は無くならない。 
そのとき私は、VUCAの時代に突入した現代では、次から次へと経験と知識だけでは解決できない課題が増える。どんなにマネジメントシステムが成熟しても、そのシステムを動かす人が育たなければ成果は得られないと話したことを覚えています。

だからこそ、その組織では、制度を整える前に、完成された研修体系をつくる前に、まず実践してみるという選択をしました。 やってみる。振り返る。うまくいかなければ、やり直す。

迷いは常にありました。「これで本当にいいのか」「人は育っているのか」その問いが消えたことは、一度もありません。

 それでも、歩みは止まりませんでした。
教えるよりも、問いを投げる。
評価するよりも、話を聴く。
結論を急ぐよりも、考える時間を残す。

すると、少しずつ変化が現れ始めました。
「それって、本当に問題ですか?」
「なぜ、そうなっていると思いますか?」
「失敗しました。でも、次はこうしてみます」 
こうした言葉が、現場や会議の中で、自然に交わされるようになっていったのです。

人材育成が”ズレる”瞬間

人材育成が“ズレる”瞬間があります。それは、人を育てようとするあまり、人が育つプロセスそのものを奪ってしまうときです。

  • 失敗しないように先回りする
  • 答えをすぐに教える
  • 時間がないから、考える前に指示を出す

どれも間違いではありません。

しかし、それが積み重なると、人は自分の言葉を使わなくなります。
それでも、もし今、「うちの人材育成、もしかしたら少し的が外れているかもしれない」そんな感覚が、ほんの一瞬でもよぎったとしたら。それは、失敗のサインではありません。 
むしろ、本当の人材育成に向き合い始めた証なのかもしれません。

では、人が育ったと感じられる瞬間とは、いったいどんな光景なのでしょうか。
制度でも、評価でもなく、数字でもなく、「人の姿」を通して、それを実感した場が、確かに存在しました。 

人材育成の成果を「数字ではなく、人の姿」で実感した瞬間

その修了式は、特別な演出があったわけではありません。
派手な舞台装置もなく、ごく普通の会議室でした。
並んでいたのは、これまで約一年にわたり人材育成プログラムに参加してきた研修生たち。ただし、発表は一人ずつではありません。

 彼らは、ともに学び、悩み、現場で試行錯誤してきたチームごとに前に立ち、グループプレゼンテーションを行いました。その光景を見たとき、私の頭には、どうしても重なって見える場面がありました。

それは、この研修の第一回目のことです。


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開校式の日。
研修に向けた想いや自己紹介を、一人ひとりが言葉にしようとした、あの時間。
経営者を目の前にして、多くの研修生が、後でこう口にしました。
「頭が、真っ白になりました」
言葉が出てこない。
何を話したのか覚えていない。
とにかく、その場を終えることで精一杯だった。 

  • 評価される
  • 見られている
  • 失敗できない

その空気の中で、人は自分の言葉を失っていきます。

そして迎えた、修了式。
チームごとに前へ出た研修生たちは、成果だけでなく、現場での失敗や迷い、衝突、そして立て直しのプロセスを語りました。
誰かが言葉に詰まると、別の誰かが、自然に言葉を引き継ぐ。
資料をめくる手が震えている仲間を、横に立つ誰かが、視線やうなずきで支える。
そこには、「発表の役割分担」以上のものがありました。 

この一年間を、一緒にやり切ってきたチームの関係性が、そのまま表れていたのです。
一見すると、彼らは落ち着いているように見えました。しかし、私は気づいていました。

 誰かの声が少し上ずる瞬間。一瞬、間が空く場面。
そして、それを埋めるように、仲間がそっと言葉を足す姿。 緊張は、確かにありました。
経営層を前にすれば、当然です。

 それでも彼らは、一人で抱え込むことなく、チームとして、その場に立ち続けていました。第一回目のときのように、緊張で固まってしまうのではなく、緊張を抱えたまま、支え合って語る。私はそこに、問題解決力とリーダーシップの“芽”を見ました。

 さらに印象的だったのは、発表している側だけではありません。
経営層や管理職層が、腕を組んで評価するように聞くのではなく、身を乗り出し、うなずき、時に笑い、時に目頭を押さえながら、チームの話に耳を傾けていました。

 発表するチームと、聴く側。その境界が、静かに溶けていくような時間でした。
そこにあったのは、「評価する側」と「評価される側」ではなく、同じ組織の一員として、経験を共有する人と人の関係でした。

人材育成の成果は、テストの点数や研修時間では測れません。
ましてや、個人のスキル評価だけで捉えられるものでもありません。
チームで失敗を共有できること。
誰かの弱さを、別の誰かが補えること。

問題を「個人の責任」にせず、「チームの課題」として扱えること

 これらは、人的資本の指標には表れにくいかもしれません。しかし、組織が本当に問題解決力を持ち始めたサインとして、これほど分かりやすいものはないと、私は思います。
修了式が終わった後、私は改めて考えていました。

  • なぜ、このチームプレゼンテーションは成立したのか。
  • なぜ、失敗が語れたのか。
  • なぜ、経営層は評価よりも「聴く」姿勢を選んだのか。

それは、偶然生まれた光景ではありませんでした。
そこには、人材育成の設計思想として、「あえてやらなかったこと」がありました。

 この企業が、あえて「やらなかった」人材育成
~失敗を許し、促し、立ち直る時間を与えるという選択~

 先に伝えした修了式の光景は、偶然生まれたものではありません。
あのチームごとのグループプレゼンテーション。
失敗を語り、仲間を語り、緊張を抱えたまま支え合って立ち続ける姿。
それは、プレゼンテーション技術の成果ではなく、人材育成の「設計思想」そのものが表に出た瞬間でした。

では、その企業は、人材育成において何をしていたのか。
実は、「やっていたこと」以上に、「あえて、やらなかったこと」のほうが重要でした。
多くの企業で人材育成というと、まず考えられるのは次のようなことです。

  • 失敗しない進め方を教える
  • 正解ルートを示す
  • できるだけ早く成果を出させる
  • つまずかないように先回りする

これらは一見、合理的で親切なやり方に見えます。
特に、来年度の人材育成計画を考える立場にある人ほど、「失敗を減らす設計」をしたくなるのは自然なことです。しかし、この企業は違いました。

 彼らが選んだのは、失敗を前提にした人材育成でした。この企業の人材育成には、はっきりとした共通認識がありました。

  • 失敗を許す
  • 失敗を促す
  • 立ち直るチャンスを与える
  • 立ち直る時間に余裕を与える

言葉にすれば、簡単です。しかし、実際にやるとなると、これは相当な覚悟がいります。
なぜなら、失敗を許すということは、一時的に成果が出ないことを受け入れるということだからです。失敗を促すということは、リスクをゼロにしないという選択だからです。立ち直る時間を与えるということは、「すぐに結果を出せ」というプレッシャーを、一度手放すということでもあります。

 ここで、よく聞かれる反論があります。
「それでは甘やかしになるのではないか?」
「競争力が落ちるのではないか?」
確かに、失敗を放置すれば、成長は止まります。しかし、この企業がやっていたのは、失敗を放置することではありません。失敗を“扱う”ことでした。

  • なぜうまくいかなかったのか?
  • どこに判断のズレがあったのか?
  • 次にどう試すのか?
  • チームとして何を学んだのか?

失敗は、責める対象でも、隠す対象でもなく、学習の材料として扱われていました。
この姿勢が、先ほどお伝えした「チームで語るプレゼンテーション」につながっています。

  • 個人で失敗を背負わせない
  • 成功も失敗も、チームの経験として共有する
  • 誰かが転んだら、誰かが支える

だからこそ、グループプレゼンの場で、失敗談が自然に語られ、仲間の名前が次々と出てきたのです。 ここで重要なのは、この企業が「失敗を評価対象」にしなかった点です。

多くの組織では、失敗をした瞬間に、評価が下がる。
あるいは、次のチャンスが与えられなくなる。
それを恐れて、人は無難な選択しかしなくなります。
この企業は、その構造を、意図的に外しました。

 評価の軸を、「結果」だけに置かなかったのです。

  • どんな仮説を立てたのか?
  • どう考えたのか?
  • チームでどう対話したのか?
  • 次にどうつなげたのか?

 こうしたプロセスが、丁寧に扱われていました。
結果として何が起きたか。問題は、隠されなくなりました。

  • 「これは、うまくいっていません」
  • 「ここに違和感があります」
  • 「失敗しましたが、次はこう考えています」

こうした言葉が、現場で普通に出てくるようになりました。
これは、問題解決力が育ち始めたサインです。

 問題解決力とは、頭の良さや、分析スキルの高さだけではありません。
問題を、問題として出せることです。それを、一人で抱え込まないことです。
そして、立ち直るプロセスを、チームで共有できることです。
 この企業は、人材育成を通じて、その土台をつくっていました。


ここまで読んで、こう感じている方もいるかもしれません。
「理想論ではないか」「うちの会社では、そこまで余裕がない」
その感覚は、とても現実的です。だからこそ、次に向き合うべき問いがあります。

この企業は、なぜそのような人材育成ができたのか。
どんな考え方で、どんな順序で、人材育成を設計していったのか。
それを理解しないまま、「失敗を許そう」と言葉だけ真似しても、同じ結果は生まれません。

 人材育成とは、制度を整えることではありません。研修メニューを増やすことでもありません。人が転び、立ち上がるプロセスを、組織としてどう扱うかを決めることです。 

では、この企業は、どんな順序で、人材育成を組み立てていったのでしょうか。
その答えは・・・・ 

人材育成は「設計」ではなく、「一緒に考え続けるプロセス」だった
~教育担当者とともに、試行錯誤を重ねた理由~

 ここまで読み進めてくださった方の中には、こう感じている方もいるかもしれません。 「理想的なのは分かる。でも、それをどうやって実現したのかが知りたい」もっともな疑問です。

  • 失敗を許す
  • 立ち直る時間を与える
  • チームで問題解決を行う

 どれも言葉にすれば簡単ですが、現実の人材育成の現場は、そんなに整然とは進みません。実際、この企業の人材育成も、最初から完成された設計図があったわけではありませんでした。この人材育成は、講師が一方的にプログラムを決め、教育担当者がそれを運用する、そんな形では進んでいません。

教育担当をされている皆さん自身が、一つのチームとして関わり、私と一緒に、悩み、考え、試行錯誤を重ねてきました。

  • 「この内容で、本当に伝わるだろうか」
  • 「今の受講生の状態に合っているだろうか」
  • 「少し難しすぎないか。逆に、易しすぎないか」

こうした問いが、毎回の研修の前後で、何度も交わされていました。人材育成を「決められた教育体系を回す仕事」にしなかった。ここが、最初の大きな違いだったと思います。

象徴的な出来事があります。
ある日の研修中、予定していたワークが、どうしても受講生に響かないと感じた瞬間がありました。参加者の表情が硬い。言葉が出てこない。議論が、表面的なやり取りで止まってしまう。その場の空気を見て、私は直感的に、「このまま続けても、今日は届かない」と感じました。

そこで、その場で研修内容を変更する判断をしました。

用意していた資料を一度脇に置き、別の切り口から、問いを投げ直したのです。
これは、事前に決めていたシナリオを壊す行為でもあります。
決して、簡単な判断ではありません。なぜ、そこまでして内容を変えたのか。

 理由は一つです。
このまま進めても、受講生の心には届かないと判断したからです。
人材育成において、「予定通り進めること」よりも大切なものがあります。
それは、今、目の前にいる人が、何を感じ、何につまずいているかを感じ取ることです。
教育担当の皆さんも、その判断を一緒に受け止めてくれました。

 「今日は、この変更でいきましょう」「今の反応を見ると?その方がいいですね!」
そのやり取り自体が、すでに「人材育成をどう扱うか」という対話だったのだと思います。そして研修を受けるメンバーへ、そっと寄り添う。

 このような進め方は、効率的とは言えません。
毎回、細かく調整が必要ですし、振り返りにも時間がかかります。
しかし、この企業は、その「非効率」を選びました。なぜなら、人は、用意された正解よりも、自分の中で生まれた気づきによって動くということを、教育担当の皆さん自身が、現場で感じていたからです。

 この姿勢は、修了式の光景にも、はっきり表れています。

  • チームで語れたこと。
  • 失敗を隠さず話せたこと。
  • 仲間の存在が、自然に言葉として出てきたこと。

それらは、偶然起きた出来事ではありません。
研修そのものが、常に「対話しながら変わる場」だったからこそ生まれたものです。


ここで、人材育成における大きな誤解について触れておきたいと思います。多くの組織では、「再現性」を求めるあまり、人材育成を固定化しようとします。

  • 同じ資料
  • 同じ進行
  • 同じ時間配分

もちろん、基盤は必要です。しかし、人が違えば、響くポイントも、つまずくポイントも違います。この企業が大切にしていたのは、再現性よりも、納得性でした。

  • 「この瞬間に、何を扱うべきか」
  • 「今、この問いを投げる意味は何か」

その判断を、教育担当者と講師が一緒に考え続けていたのです。人材育成とは、完成されたプログラムを導入することではありません。人材育成とは、人が育つプロセスに、どこまで本気で向き合うかという姿勢そのものです。教育担当者が、「運用する側」にとどまらず、「一緒に考える当事者」になる。その姿勢が、研修生にも、確実に伝わっていきます。

 だからこそ、研修生たちは、与えられた課題としてではなく、自分たちの問題として現場改善や問題解決に向き合えたのだと思います。

 この人材育成は どんな順序で組み立てられていたのか

では、この人材育成は、どんな順序で組み立てられていたのでしょうか。

  • なぜ、いきなり問題解決手法から始めなかったのか。
  • なぜ、観察や気づきを重視したのか。
  • なぜ、現場実践にこれだけの時間をかけたのか。

その背景にある「人材育成を順序で考える発想」について、次のブロックで整理してみたいと思います。

どうしたら「真の人材育成」を展開できるのか

答えを持たずに、問い続けるという選択

 おそらく多くの方の頭の中には、一つの共通した問いが浮かんでいるのではないでしょうか。「では、結局どうすればいいのか?」もっと具体的に言えば、

  • 来年度の人材育成計画を、どう考え直せばいいのか?
  • 管理職研修や次世代リーダー育成を、どう組み立てればいいのか?
  • 人的資本経営の流れの中で、何を大切にすべきなのか?

    そうした問いです。

 ただ、ここで一つ、あらかじめお伝えしておきたいことがあります。
真の人材育成に、万能な正解はありません。これまでご紹介してきた、ある企業の人材育成の取り組みも、最初から「成功モデル」として設計されたものではありませんでした。

 むしろ、

  • 何が正解なのか分からない
  • これで本当にいいのか確信が持てない
  • 現場の反応に迷い続ける

 そんな状態から、教育担当者の皆さんと一緒に、試行錯誤を重ねてきたプロセスでした。
だって、人ってみんな違った意志、価値感、思考のクセなどがあるのですから。
だからこそ、この企業がやっていたのは、「完成形を導入すること」ではありません。
問い続けることでした。

 真の人材育成を展開していくために、最初に必要なのは、新しい研修メニューでも、最新のフレームワークでもありません。まず立ち止まって、次の問いを自分たちに投げかけてみることです。

  • 私たちは、人を「早く結果を出す存在」として見ていないか
  • 失敗を、本当に学習として扱えているか
  • 立ち直る時間を、待てているだろうか
  • 問題を、個人の責任にしていないか
  • 教育担当者自身が、考えることを止めていないか

 これらは、チェックリストで答えが出る問いではありません。しかし、この問いを避けたまま、どんな人材育成制度を整えても、人はなかなか育ちません。

もう一つ、大切な視点があります。

人材育成を「誰がやる仕事」だと捉えているか

人材育成を、人事部門や教育担当者だけの仕事にしてしまうと、現場との間に、必ずズレが生まれます。

一方で、ある企業では、教育担当者自身が、「運用する側」ではなく、一緒に考え、迷い、修正する当事者として関わっていました。だからこそ、研修生も、「やらされる研修」ではなく、「自分たちの成長の場」として、人材育成に向き合えたのだと思います。

 人的資本経営という言葉が広がる中で、人材育成は、ますます「説明できる形」「示せる成果」を求められるようになっています。その流れ自体は、決して間違いではありません。

 ただし、ここで一度、立ち止まって考えてみてください。
数値に表れる前に、

  • 人の中で、どんな変化が起きているのか。
  • 問題を問題として口にできるようになっているか
  • 仲間と対話しながら考えられているか
  • 失敗を隠さず、次につなげようとしているか

これらが育っていなければ、どれだけ立派な指標を並べても、人材育成は形だけのものになってしまいます。

 ここまで読んで、もし心のどこかで、「うちの人材育成、少し方向がズレているかもしれない」「来年度は、もう少し違うやり方を考えたほうがいいかもしれない」
そんな感覚が芽生えたとしたら。
それは、人材育成がうまくいっていないサインではありません。
むしろ、本気で人を育てようとしている証拠だと、私は思います。

 人材育成とは、仕組みを整えることでも、研修を増やすことでもありません

人が育つプロセスに、どこまで本気で向き合うか。
その姿勢を、組織として選び続けられるかどうかです。

 もし今、
「自社だけで考えるのは、少し苦しい」
「一度、外の視点で整理してみたい」
そう感じているなら。

 それは、誰かに答えをもらうためではなく、一緒に問いを整理する相手が必要なタイミングなのかもしれません。

 人材育成に、正解はありません。しかし、向き合い方には、確かな違いがあります。
このコラムが、来年度の人材育成を考える際に、少し立ち止まり、自分たちのやり方を見直すきっかけになれば幸いです。

 そしてもし、「この問いを、もう少し深く考えてみたい」そう思われたときには、その時点からが、本当の人材育成のスタートなのだと思います。


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さて、今回のコラムが、私・坂田が担当する2025年最後の一本となります。
この一年、たくさんの現場に足を運び、多くの方と出会い、
組織の「今」と「これから」を一緒に見つめてきました。

振り返ってみると、少しずつ舵を切り、景色を変えていく組織もあれば、
同じ場所で足踏みを続ける組織もありました。
その分かれ道にあったのは、
「教育を運営すること」が目的なのか、それとも「人が育つこと」そのものを大切にしているのか、そんな“問いの置き方”だったように感じています。

組織は、大きな船のようなものです。
急に進路は変えられませんが、「どこへ向かいたいのか」を問い続けることで、
少しずつでも、確実に進む方向は変わっていきます。

2026年も、私自身が立ち止まり、「なぜ、そうなっているのだろう?」
「本当に大切にしたいものは何だろう?」そんな問いを自分に投げかけながら、
このコラムを綴っていきたいと思います。

一年間、お読みいただき本当にありがとうございました。
また来年、ここでお会いできることを楽しみにしています。
どうぞ、良い年をお迎えください。

 


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マネジメントコンサルティング部 部長
坂田 和則

国内外において、企業内外教育、自己啓発、人材活性化、コストダウン改善のサポートを数多く手がける。「その気にさせるきっかけ」を研究しながら改善ファシリテーションの概念を構築し提唱している。 特に課題解決に必要なコミュニケーション、モチベーション、プレゼンテーション、リーダーシップ、解決行動活性化支援に強く、働く人の喜びを組織の成果につなげるよう活動中。 新5S思考術を用いたコンサルティングやセミナーを行い、企業支援数が190件以上及び年間延べ3,400人を越える人を対象に講演やセミナーの実績を誇る。

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