枠の外を見る質問力|生成AIを戦略的に経営へ活かす前提条件
「枠の外を見る質問力」〜生成AIを戦略的に経営へ活かす前提条件〜
生成AIの経営活用が進まない本当の理由
生成AIを導入しているのに、なぜ組織は思ったほど変わらないのか。
最近、経営者や経営幹部の方々と話をしていると、その違和感を強く感じる場面が増えています。
AIツールは導入した。業務効率も一部では改善した。
資料作成、情報整理、議事録、提案書作成。
確かに、生成AIは仕事を速くしてくれます。
しかし、本当にそう単純でしょうか。
私は、長年、問題解決支援やなぜなぜ分析に関わってきました。
その現場で感じるのは、生成AIを導入しただけで組織の思考が深まるわけではない、という現実です。
むしろ、問いが浅いままAIを使えば、浅い答えが美しく整理され、組織全体が「考えたつもり」になってしまう危険すらあります。
生成AIの経営活用、AI人材育成、生成AI研修といった言葉が注目される一方で、私は「AIをどう使うか」より前に、「AIに何を問える人財を育てるか」が重要だと考えています。
ここを見落としてはいけないと思うのです。
その問いは、鏡の中だけを見ていないか
私は、問題解決を支援するとき、相手の答えだけを見ているわけではありません。
相手がどこを見ているのか、どこで考えが止まるのか、何を当然だと思っているのか、何を言葉にできずにいるのかを観察しています。
なぜなら、問題の原因は、本人が見えている範囲の中にあるとは限らないからです。
問題解決に取り組む人を見ていると、私はいつも、まるでその人の前に“枠のついた鏡”があるように感じます。
人は、その鏡に映っている範囲で原因を探そうとする。
しかし、鏡の枠の外は見えていない。
自分の背中側も見えていない。
背景に映る設備の裏側も見えていない。
ところが実際には、問題の原因は、その「見えていない場所」に隠れていることが少なくありません。
もし最初から原因が見えていたなら、きっと予防的処置を取っていますよね。
つまり問題とは、多くの場合、能力不足ではなく、“見えていない”ことから始まるのです。
生成AIもまた、鏡の中にある問いには、とても優秀に答えます。
しかし、鏡の外に何があるのか、自分の背中側に何があるのかを問わなければ、本当に重要な問題には辿り着けません。
問いが狭ければ、AIは狭い世界を精密に整理します。
問いが浅ければ、AIは浅い答えを整えて返します。
だからこそ、生成AI時代に必要なのは、鏡の中をきれいに説明する力ではなく、鏡の外へ目を向ける質問力なのです。
なぜ「なぜなぜ分析」は形骸化してしまうのか
私は長年、なぜなぜ分析を続けています。
しかし最近、「いまさら、なぜなぜ分析ですか」と言われることがあります。
その気持ちも、私はよく分かるのです。
なぜなら、多くの会社では、なぜなぜ分析をやっても問題が再発するからです。
再発するたびに、現場は「またやるのか」「どうせまた起きる」「結局、書類を書く時間が増えるだけだ」と感じるようになります。
心理学では、努力しても結果が変わらない経験が続くことで、行動する意欲を失っていく状態を“学習性無力感”と呼びます。
私は、形骸化したなぜなぜ分析の現場にも、これに近いことが起きていると感じています。
現場の人が怠けているのではありません。
考えても変わらない、問い続けても改善されない、という経験を組織が積ませてしまっている場合があるのです。
特に怖いのは、“なぜなぜ分析フォーム”を使っている会社です。
もちろんフォームそのものが悪いわけではありません。
問題は、フォームを埋めることが目的になっていることです。
本来、なぜなぜ分析は、問題の再発防止のために、見えていない構造を探る営みだったはずです。
しかし、形だけが残ると、人は「何を書けば通るか」「どう書けば怒られないか」を考え始めます。
つまり、問題解決のために思考するのではなく、フォームを完成させるために思考するようになるのです。

フォームを埋める会社で、思考は静かに止まっていく
フォームを埋めることに慣れた組織では、問いは徐々に弱くなっていきます。
最初は再発防止のために始めたはずの活動が、いつの間にか報告書を整える活動になってしまう。
現象と原因が混ざったままでも、形式が整っていれば通ってしまう。
誰かの責任に寄せておけば、構造を深く見なくても済んでしまう。
こうして、問題解決のための道具が、考えないための儀式になっていくのです。
私は、この構造は生成AIにも起きると思っています。
AIに聞けば答えが返ってくる。
しかも、その答えは非常に整っている。
すると、人は「理解できた気」になってしまう。
しかし、本当にそうでしょうか。
その問いは、そもそも正しかったのでしょうか。
見えている範囲だけで問いを立て、その範囲の中だけでAIに答えを求めているなら、それは鏡の中の世界を整理しているだけかもしれません。
しかも、人は自分の考えを支持する情報を見ると安心します。
認知心理学では、これを“確証バイアス”と呼びます。
たとえば、「現場のやる気不足が問題だ」と思い込んでAIへ質問すると、AIは、その前提に沿った答えを返してくることがあります。
そして人は、「やはりそうだった」と納得してしまう。
しかし実際には、現場はやる気がないのではなく、「考えても変わらない」という経験を積み重ね、思考するエネルギーを失っているだけかもしれないのです。
問題は、人ではなく、構造にあることがあります。
AIは、問いの浅さまで美しく整えてしまう
最近、「生成AIを経営へ活かしたい」という相談が本当に増えています。
その思いはよく分かります。
競争環境を考えれば、急ぎたい。
生産性も上げたい。
意思決定の速度も高めたい。
しかし、よく話を聞いてみると、多くが「生成AIの使い方」の話になっていきます。
プロンプト、エージェント、RAG、自動化。
もちろん、それらを知ることは必要です。
しかし、本当にそれだけで経営は変わるのでしょうか。
私は、ここをもう少し丁寧に見たほうがいいと思っています。
私は、生成AIそのものを否定しているわけではありません。
むしろ、LLM(大規模言語モデル)の進化には、大きな可能性を感じています。
教師あり学習、教師なし学習、強化学習などを経て、生成AIは、人間の言語パターンや文脈を扱える段階まで進化してきました。
現在のLLMは、単なる検索ではありません。
「意味のつながり」を扱いながら、人間の思考を支援できるレベルへ入っています。
だからこそ私は、生成AIを単なる業務効率化ツールとして終わらせるべきではないと思っているのです。
本来、LLMは、人の問いを広げ、認知を拡張し、これまで見えていなかった前提へ気づかせる可能性を持っています。
つまり、人を育て、経営へ活かすためのツールとして使うべきではないでしょうか。
しかし、その可能性を引き出せるかどうかは、使う側の問力に大きく左右されます。
問いが浅ければ、AIは浅い答えを返す。
問いが狭ければ、AIは狭い世界を精密に整理する。
逆に、枠の外を見る問いを持てる人財が使えば、LLMは、経営の意思決定や問題解決を支える強力な思考パートナーになります。
枠の外を見る力は、なぜなぜ分析で鍛えられる
なぜなぜ分析は、ただ「なぜ?」を繰り返すものではありません。
そこにはルールがあります。
何を事実として扱うのか。
どこからが推測なのか。
現象と原因を混同していないか。
人の責任に逃げていないか。
本当に再発防止につながる行動まで落とし込めているか。
この一つひとつが、観察力、洞察力、思考力、分析力、行動力を鍛える訓練になります。
さらに、コミュニケーション力、言語化力、そして「この問題は私が取り扱わなければならない」という当事者意識も育っていきます。
私は、ここが非常に重要だと思っています。
なぜなぜ分析は、単なる原因分析手法ではありません。
人財育成そのものになり得るのです。
日ごろから問い続ける。
事実を見る。
前提を疑う。
相手の思考を観察する。
本音が出るまで急がず寄り添う。
こうした訓練を積んでいる人財が生成AIを使うと、AIは単なる便利ツールではなく、認知を広げる相棒になります。
今まで認知できていなかったモノゴトに気づき、そこに問題の原因が隠れていることを突き止めることがある。
逆に、問力が育っていない状態でAIを使えば、鏡に映っている範囲だけを、より効率的に整理するだけになってしまいます。
ここに、企業の生成AI活用の差が表れます。
同じツールを導入しても、ある会社では業務の時短で終わり、別の会社では意思決定や問題解決の質が変わっていく。
その違いは、AIそのものではなく、AIに何を問える人財がいるかにあるのです。

ヨットはある。だが、マストを張れる人財はいるか
いま、多くの企業は生成AIという船に乗ろうとしています。
その判断自体は間違っていません。むしろ必要なことです。
しかし現場を見ると、フォームを埋める文化があり、「考えても変わらない」という空気があり、問いを深める習慣が弱っている。
その状態で生成AIを導入するのは、ヨットに乗ったはいいけれど、マストを張れないクルーが乗っている状態に似ています。
船はある。風も吹いている。目的地も見えている。
しかし、風を推進力へ変える準備ができていない。
生成AIも同じです。
問いを立てる力がなければ、AIという風を経営の推進力へ変えることはできません。
表面だけを見ると「AIツールを入れれば進む」ように見えますが、実際にはそう単純ではありません。
問題は、風の強さではなく、風を受け止めるマストを張れるかどうかなのです。
だからこそ、私は生成AI活用を単独のテーマとして扱うだけでは足りないと感じています。
まず必要なのは、「問題をどう捉えるか」を整えることです。
人は、自分の経験や思い込みによって現実を解釈しています。
いわば、その人なりのメンタルモデルを通して問題を見ているのです。
だからこそ、最初に「自分はこの問題をどう見ているのか」を扱う必要があります。
生成AI時代に活きる人財は、設計して育てる必要がある
問題の捉え方を整えたうえで、なぜなぜ分析によって、事実、現象、原因、対策を丁寧に切り分ける。
そして、PM分析などの問題解決実践を通して、再発防止につながる思考と行動へ落とし込んでいく。
私は、この順番を大切にしています。
なぜなら、問いの質は、思いつきだけでは高まらないからです。
観察し、整理し、構造を見て、行動に変える。
この一連の訓練があって初めて、生成AIは経営に活きる道具になります。
生成AI活用セミナーは、その土台の上に置かれてこそ、本来の価値を発揮します。
あるいは、問題解決実践と並行して生成AIを使いながら、問いの質を高めていく設計もできます。
大切なのは、AIの使い方を先に教えることではありません。
AIを経営へ活かせる思考の土台を育てることです。
企業ごとに、現場の成熟度も、管理職の課題も、経営が生成AIに期待していることも違います。
だからこそ、既製品の研修を当てはめるだけではなく、その会社に必要な「問力の育て方」を設計していく必要があります。
私は、ここに、これからの人財育成の重要な役割があると思っています。
生成AI時代に活きる人財は、自然に育つわけではありません。
問題の捉え方を整え、なぜなぜ分析で問いを深め、問題解決実践で思考を行動へつなげ、生成AIを認知拡張の道具として使っていく。
その流れを、経営と現場の実情に合わせて設計することが重要です。
単発の研修ではなく、組織の思考文化を育てる設計。
私は、そこに関わりたいと考えています。
人は、情報だけでは育たない
生成AIが進化するほど、「AIを使える人財」という言葉をよく聞くようになりました。
しかし私は、その人財は、単にツールを操作できる人ではないと思っています。
生成AIを使いながら、問力を育てられる人。
そして、その問力を、日々の思考継続によって磨き続けられる人です。
違和感を見逃さない。
前提を疑う。
相手の言葉の奥を見る。
鏡の枠の外を見ようとする。
自分の背中側に何があるのかを問い続ける。
これらは、一度の研修や、一冊のプロンプト集で身につくものではありません。
さらに、人は情報だけで育つわけでもありません。
誰かに観察されること。
問い返されること。
寄り添われること。
沈黙を待ってもらうこと。
言葉にならない違和感を、一緒に扱ってもらうこと。
そうした関係性の中で、人の思考は深まっていきます。
成人発達理論の視点で見ても、人の成長とは、単に知識が増えることではありません。
自分がどのような前提で物事を見ているのかに気づき、その前提そのものを客観視できるようになることです。
言い換えるなら、鏡に映っているものを見るだけでなく、「自分はいま、どの鏡を通して世界を見ているのか」に気づくことです。
私は、若い世代へ問の方法を伝えながら、いつもここを大事にしています。
答えを教えるのではなく、問い方を育てる。
正解を急がせるのではなく、見えていないものへ目を向ける力を養う。
問題を誰かのせいにするのではなく、自分が扱うべき問題として引き受ける姿勢を育てる。
これは、単なるAI研修では届きにくい領域です。
問題解決の現場を見てきた人間だからこそ、問いの浅さ、思考の止まり方、組織が考えなくなる瞬間が見えるのです。

生成AI時代に差を生むのは、答えではなく問いである
生成AIが進化するほど、答えを出す力そのものは差になりにくくなります。
これから差になるのは、「何を問うか」です。
鏡の中だけを見るのか。
鏡の枠の外を見に行くのか。
自分の背中側にある原因まで見ようとするのか。
その違いが、経営の差になっていくのだと思います。
生成AIは、非常に優れた道具です。だからこそ、使う人間の問いの質が問われます。
AIを導入することは、ゴールではありません。
むしろ始まりです。
経営者、経営幹部、管理職が、いま本当に考えるべきことは、「AIをどう使うか」だけではなく、「AIを使いこなせるだけの思考文化をどう育てるか」です。私は、ここにこそ、これからの人財育成、管理職育成、問題解決教育の本質があると思っています。
生成AIをどう導入するかだけでなく、生成AI時代に活きる人財をどう育てるか。
その設計を、経営と現場のあいだで一緒に考えていきたいのです。
枠の外を見る質問力。それは、生成AIを戦略的に経営へ活かす前提条件です。
毎週月曜日に「改善ファシリテーション」をテーマとしたコラムを更新、
火曜日にメールマガジンを配信しております。是非ご登録ください。(ご登録は無料です)


体験セミナーのお申し込みはこちらから
お気軽にお問い合わせください
国内外において、企業内外教育、自己啓発、人材活性化、コストダウン改善のサポートを数多く手がける。「その気にさせるきっかけ」を研究しながら改善ファシリテーションの概念を構築し提唱している。 特に課題解決に必要なコミュニケーション、モチベーション、プレゼンテーション、リーダーシップ、解決行動活性化支援に強く、働く人の喜びを組織の成果につなげるよう活動中。 新5S思考術を用いたコンサルティングやセミナーを行い、企業支援数が190件以上及び年間延べ3,400人を越える人を対象に講演やセミナーの実績を誇る。
