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「このままではいたくない」が、人を動かす | 不安と期待のあいだで揺れる心理

目次

「このままではいたくない」が、人を動かす
~好奇心だけでは始まらない“やってみよう”の科学~

1. 始めたいのに動けない まず、その事実に心が痛む

始めたいことって、ありますよね。
本を読もう。資格の勉強をしよう。新しいことを学ぼう。仕事のやり方を変えよう。部下への関わり方を少し変えてみよう。

そんなふうに、頭の中では何度も思っている。
けれど、なぜか動けない。
この感覚、きっと多くの人に覚えがあると思うんです。
本を買った。でも積んだまま。
申し込み画面までは開いた。でも、その先のボタンが押せない。
職場で「これ、変えたほうがいいよな」と気づいている。でも、提案まではいかない。
部下への声のかけ方を変えたいと思っている。でも忙しさの中で、つい今まで通りの言い方に戻ってしまう。

こういうこと、ありますよね。
そして、こういうときに限って、人は自分に厳しくなるんです。
「結局、自分は意志が弱いんだ」
「やる気がないんだ」
「口だけで終わる人間なんだ」
こんなふうに、自分で自分を切ってしまう。

でも、本当にそうなんでしょうか。
私は、ここ、ちょっと丁寧に見たほうがいいと思うんです。
始めたいのに動けない。
このときに痛いのは、動けないことそのものだけじゃないんですよね。
「またできなかった」
「また先送りした」
そうやって、自分の中の自信を少しずつ削ってしまう。
この痛み、外からは見えにくいんですが、本人にとっては結構重いんです。

だからこそ、まず最初に言いたいんです。
始めたいのに動けないことを、すぐに意志の弱さと結びつけないほうがいい。
そこには、もっと人間らしい、もっと複雑な心の動きがあるんです。

2.止まっているように見えて、心の中では多くのものが動いている

このとき、心の中では、実はいろんなものが同時に動いています。
やってみたい気持ちはある。
このままではいたくない、という違和感もある。でも、不安もある。
失敗したくない。損したくない。恥をかきたくない。迷惑もかけたくない。

つまり、人は止まっているように見えて、内側では全然止まっていないんです。
むしろ、いろんな気持ちが同時に動いている。
だから簡単には前へ出られない。
私はまず、ここを見落としてはいけないと思っています。

たとえば、部下や若手を見ていて、こんなことありませんか。

「能力はあるのに、最後の一歩が出ない」
「分かっているように見えるのに、動きが鈍い」
「やってみれば伸びそうなのに、自分から手を挙げない」
こういうとき、リーダーはつい言いたくなるんです。

「まずやってみたら?」
「考えすぎだよ」
「失敗してもいいからやってごらん」

もちろん、その言葉が悪いわけじゃありません。
でも、相手の心の中にある“引っかかり”を見ないままこの言葉だけを届けると、正論として強く刺さりすぎることがあるんです。

なぜか。
その人の中では、もうすでにいろいろ起きているからです。
やってみたい気持ちもある。
期待に応えたい気持ちもある。
でも、失敗したらどうしようとも思っている。
まわりに迷惑をかけたくないとも思っている。
評価が下がるかもしれないとも感じている。

つまり、動いていないんじゃない。
心の中で渋滞が起きているんです。
ここを見ずに表面だけで判断すると、人を誤解しやすくなります。
止まっているように見える人の中で、実はたくさんのものが動いている。
この視点は、人を見るときにも、自分を見るときにも、とても大事だと思うんです。

3.「やる気がない」で片づけると、人の本当の揺れを見失う

私は、ここに大きな勘違いがあると思っています。
それは、「動けない=やる気がない」と見てしまうことです。
でも実際には、やる気がないから止まっているんじゃないんです。
やる気もある。
でも、不安もある。
変わりたい気持ちもある。
でも、失いたくない気持ちもある。
だから止まる。

こっちのほうが、実感に近いはずです。
むしろ、何も感じていない人なら、ここまで迷いません。
少しでも意味を感じているから、怖くなるんです。
少しでも可能性を感じているから、失敗したくなくなるんです。
少しでも変わりたいと思っているから、今の安定を崩すのが怖くなるんです。
つまり、動けないこと自体が、そのテーマを自分にとって大事だと感じている証拠でもあるんです。

現場でも、これとよく似たことがあります。
改善が進まない。提案が出ない。動きが鈍い。
こういうとき、表面だけを見ると「意識が低い」で終わってしまう。
でも、実際にはそう単純じゃないんです。

「何を言われるか怖い」
「変えてうまくいかなかったら責任を問われるかもしれない」
「問題には気づいている。でもどこから手をつけていいか分からない」
そんな気持ちが重なって、動けなくなっていることがあるんです。

だから私は、人材育成でも問題解決でも、表面だけを見て判断しないことが大事だと思っています。
動かない人を見て、すぐに「主体性がない」と決めてしまう。
提案が出ない職場を見て、すぐに「やる気がない」と切ってしまう。
これ、危ないんです。
ここを雑にやると、本質を外します。

本当は、その人の中にある迷い、不安、損失回避、意味づけの弱さ、つながりの不足。
そういう“見えにくい要因”を見なければいけないんです。
「やる気の問題」にしてしまうと、見えていたはずのものが見えなくなる。
これは、部下を見るときにも、自分を見るときにも、起きやすいことなんです。

4.人は、前へ進みたい気持ちと、今を守りたい気持ちのあいだで揺れている

ここで、少しご自身のことに引き寄せて考えてみてください。
あなたにも、気になっていることがあるかもしれません。
いつか始めようと思っている学び。
本当は変えたい仕事の進め方。
話したいのに話せていない相手。

やったほうがいいと分かっているのに、先延ばしになっていること。
そのとき、あなたの中では何が起きているでしょうか。
やりたい。でも怖い。
必要だと思う。でも面倒だ。
このままではまずい気がする。でも今のままのほうが安全だ。

これ、全部あっていいんです。
むしろ、それが普通なんです。
人間の心って、そんなに単純じゃありません。
前向きか後ろ向きか。
やる気があるかないか。
そんな二択では動いていないんです。

複数の気持ちが同時に存在している。
しかも、それぞれにもっともらしい理由がある。
だから、前へ進むのは簡単じゃないんです。
ここを理解せずに、「とにかく動け」と自分に言ってしまうと、心は余計に固まります。

部下に対しても同じです。
「まずやれ」
「考える前に動け」
これで動ける場面もあります。
でも、ずっとそれだけでは、人は育ちにくい。

なぜなら、人は正論だけでは、なかなか動かないからです。
納得したとき。
意味が見えたとき。
少しならできそうだと感じたとき。
そして、ひとりではないと感じられたとき。
ようやく心が前を向きやすくなるんです。

前へ進みたい気持ちと、今を守りたい気持ち。
この二つは、どちらが悪いわけでもありません。
進みたい気持ちは可能性を開こうとしている。
守りたい気持ちは、自分を守ろうとしている。
問題は、その両方があることに気づかず、「自分は優柔不断だ」とだけ受け取ってしまうことなんです。

本当は、優柔不断なんじゃない。
心の中で、大事なもの同士がぶつかっているだけかもしれない。
そう見えてくると、自分への理解が少し深まります。

5.自分を追い込むより先に、動ける条件を整えるという視点

私は、ここにリーダーの大事な役目があると思っています。

部下を責めることではなく、動ける条件を整えること。
本人を追い込むことではなく、心の中で何が引っかかっているのかを一緒に見ていくこと。
これは、自分自身に対しても同じです。
自分を叱咤するだけではなく、自分の中に何が同時に起きているのかを理解する。
これが、最初の一歩につながるんです。

そして、もうひとつ大事なことがあります。
人は、動けない状態が続くと、「動けない自分」という物語をつくり始めます。
最初は、ただ迷っていただけなんです。
でも、何度か先送りが続くうちに、
「どうせ自分は続かない」
「また口だけで終わる」
「いまさら始めても遅い」
そんな言葉を、自分で自分にかけるようになってしまう。

これはつらいです。
行動が止まる以上に、つらい。
なぜかというと、行動の問題が、自己評価の問題にすり替わってしまうからなんです。
でも、本当はそうではないかもしれません。
あなたが動けないのは、能力がないからではないかもしれない。
意志が弱いからでもないかもしれない。
ただ、心の中でいくつもの要素が、まだ折り合いをつけきれていないだけかもしれないんです。
そう考えられるようになると、自分を見る目が少し変わります。

“責める”から“理解する”へ。
この変化は大きいんです。
人は、理解されたときに動きやすくなるからです。
しかもそれは、他人からだけじゃない。
自分自身から理解されたときも同じなんです。

職場でも同じです。
部下に「やれ」と言うだけでは動かないことがある。
じゃあ、何があれば動きやすくなるのか。
意味が見えることかもしれない。
最初の一歩が小さくなっていることかもしれない。
失敗しても致命傷にならないと分かることかもしれない。
応援してくれる人がいることかもしれない。
そう考え始めた瞬間に、リーダーの関わり方は変わってきます。

気合いを求める前に、条件を整える。
私は、この視点がとても大事だと思っています。

6.“やってみよう”の前には、心の中で静かな会議が開かれている

私は、始めたいのに動けないとき、人の心の中では静かな会議が開かれているようなものだと思っています。
好奇心が「行ってみよう」と言う。
違和感が「このままではまずい」と言う。
不安が「待ったほうがいい」と言う。
損したくない気持ちが「現状維持のほうが安全だ」と言う。
意味を探す心が「それをやる意味は何だ」と問う。
そして、誰かとのつながりを求める心が「ひとりで行くのは怖い」とつぶやく。
その会議がまとまらないうちは、人は簡単には動けません。
だから、動けないことを、自分の未熟さの証拠だと決めつける必要はないんです。

むしろ大切なのは、その会議の中身を見ることです。
何が自分を前に進めようとしているのか。
何が自分を止めているのか。
何が見えれば動きやすくなるのか。
誰がいれば一歩を出しやすいのか。
そこを見ないまま、「やるか、やらないか」だけで自分を裁くのは、もったいないんです。

問題解決でもそうですよね。
現象だけを見て原因を決めつけると、たいてい外します。
人の行動も同じです。
動けないという現象の裏には、いくつもの要因が隠れています。
そこを見ずに根性論へ走ると、本質を外してしまうんです。
この“静かな会議”という見方は、自分を甘やかすためのものではありません。

むしろ逆です。
感情や認知の動きを雑に扱わず、きちんと見るための視点なんです。
心の中で何が起きているのかを見ずに、「とにかくやれ」で押し切るより、ずっと再現性がある。
人がどうすれば動きやすくなるのかを考えるうえでも、ずっと建設的なんです。

7.自分を責める見方をやめたとき、人は次の一歩に近づいていく

だから私は、まずここから始めたいと思います。
人が始めたいのに動けないのは、珍しいことではない。
弱いからでもない。
その人の心の中で、いくつもの心理が同時に働いているからなんです。
そして、その重なり方には、ある程度の法則がある。
このことを知るだけでも、自分を見る目はずいぶんやさしくなりますし、部下や若手への関わり方も変わってきます。

「またできなかった」と責めるだけでは、心は縮みます。
でも、「いま自分の中では何がぶつかっているんだろう」と見てみると、景色が変わります。
止まっていたのではなく、心の中でまだ整理がついていなかっただけかもしれない。
そう思えたとき、人はようやく“責める”場所から“理解する”場所へ移ることができます。
この視点の変化は、小さく見えて、とても大きいんです。
なぜなら、人は理解されたときに、もう一度前を向きやすくなるからです。
自分に対しても、部下に対しても、それは同じです。

続いては、その“心の中の会議”に出ている主な登場人物を整理してみます。
好奇心、違和感、不安、損失回避、決断、覚悟、意味づけ、他者とのつながり。
これら八つの要素は、単独で働いているのではありません。
互いに影響し合いながら、あるとき人の中に「やってみよう」という気持ちを立ち上がらせます。

その仕組みを丁寧に見ていくと、行動とは気合いで起きるものではなく、心の条件が重なったときに起きる現象なのだということが、少しずつ見えてきます。
そしてその理解は、自分自身の一歩にも、誰かの背中を押す関わりにも、きっと役立つはずです。

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「やってみよう」は、いくつもの気持ちが重なったときに生まれる

1.人は、ひとつの気持ちだけで動いているわけではない

ここまでお伝えしたように、始めたいのに動けないとき、人の心の中ではいろいろなものが同時に動いています。
大事なのは、その一つひとつをバラバラに見ることではなく、どう重なっているかを見ることなんです。

私たちは、つい「やる気があるか、ないか」で人の行動を見てしまいがちです。
でも実際には、人はそんなに単純に動いていません。
やってみたい気持ちもある。このままではいたくない気持ちもある。
でも、不安もある。損したくない気持ちもある。
意味を知りたい気持ちもある。誰かとつながっていたい気持ちもある。
そういうものが、心の中で同時に動いているんです。

だから、「やってみよう」という一歩は、どれか一つの感情から突然生まれるわけではありません。
好奇心だけで動くわけでもない。
危機感だけで動くわけでもない。
自信だけで動くわけでもない。
いくつもの要素が、あるところで重なり合って、「よし、やってみるか」という気持ちになる。
私は、ここがとても大事だと思っています。

たとえば、何か新しい学びを始めようとするとき。
面白そうだな、という気持ちがある。
今のままではまずいかもしれない、という感覚もある。
でも、時間がない、続かなかったらどうしよう、という不安もある。
お金もかかる。失敗もしたくない。

その一方で、「これには意味がある」と思えたり、「少しならできそうだ」と感じられたり、「誰かと一緒ならやれそうだ」と思えたりすると、心が少し前に傾いていくんです。
つまり、人はひとつの気持ちで動いているのではなく、複数の気持ちの“力関係”の中で動いている。
ここが見えてくると、自分の行動も、部下や若手の行動も、少し違って見えてきます。

2.最初に動き出すのは、「面白そう」だけではなく「このままではいたくない」でもある

「やってみよう」と思うきっかけとして、まず思い浮かびやすいのは好奇心です。
面白そう。ちょっと気になる。やってみたら何か変わるかもしれない。
こういう感覚は、たしかに大事です。
でも、実際にはそれだけでは動けないことも多いんです。

なぜなら、好奇心は入口にはなるのですが、それだけで人が動ききれるとは限らないからです。
むしろ、かなり大きな力になるのは、
「このままではいたくない」という違和感のほうだったりします。

今のままでは、何かがずれている気がする。
この働き方をずっと続けるのは、ちょっと違う気がする。
この関わり方では、部下が育ちにくい気がする。
この状態を放っておくと、あとでまずいことになる気がする。
こういう違和感って、じわじわ効くんです。

好奇心は前から引っ張る力だとしたら、違和感は後ろから押してくる力に近いかもしれません。
面白そうだから行ってみたい。
このままでは嫌だから変えたい。
この二つが重なったとき、人の心は少し動きやすくなります。

現場の改善でもそうですよね。
「改善って面白いよね」だけで全員が動くわけではありません。
むしろ、
「このやり方、危ないよな」
「これ、ムダが多すぎるよな」
「このままでは、また同じことが起きるよな」
そんな違和感のほうが、行動の火種になることがあります。

人は、”快”だけで動くわけではないんです。
”不快”を減らしたい、ズレを正したい、という気持ちも、行動の大きな原動力になります。
だから私は、「やってみよう」という気持ちを考えるとき、好奇心だけでなく、違和感もとても大事な要素として見ています。

3.不安があるのはおかしいことではない むしろ自然なこと

ここで、多くの人がつまずくのが不安です。
何かを始めようとしたとき、不安が出てくる。
すると人は、「不安があるということは、自分には向いていないのかもしれない」と思ってしまうことがあります。
でも、私はそうではないと思うんです。
不安があるのは、おかしいことではありません。
むしろ自然です。

なぜなら、新しいことを始めるというのは、今までの安定から一歩出ることだからです。
人は分からないものに対して、不安を感じます。
先が読めないことに対して、不安を感じます。
失敗する可能性があることに対して、不安を感じます。
これは、弱いからではなく、心や脳がちゃんと働いているからなんです。

たとえば、部下に新しい役割を任せたとき。
「はい、やります」と返事はした。
でも、そのあと動きが鈍い。
こういうとき、やる気がないと見るのは早いんです。
もしかすると、その人は自分なりにいろいろ想像しているのかもしれません。
失敗したらどうしよう。
期待に応えられなかったらどうしよう。
自分なんかで本当にできるのか。
そんな不安が心の中で大きくなっているのかもしれないんです。

不安は、行動を止める敵のように見えます。
でも、私はそう単純ではないと思っています。
不安は、「ここは慎重に見たほうがいいよ」と教えてくれている面もある。
つまり、不安そのものが悪いのではなく、不安があることをどう受け止めるかが大事なんです。
不安があるからダメ。
不安が消えたら動こう。
こう考えてしまうと、いつまでも始められません。

なぜなら、何か新しいことを始める前に、不安が完全になくなることなんて、あまりないからです。
だからこそ大事なのは、不安を消すことより、不安があっても進める条件を整えることなんです。
ここが見えてくると、「不安がある自分はダメなんだ」という見方から少し離れられるようになります。

4.人は「得したい」よりも「損したくない」のほうに強く反応する

もうひとつ、見落としやすいのが損失回避です。
要するに、人は得をすることよりも、損をしたくない気持ちのほうに強く動きやすい、ということです。
新しいことを始めるとき、人は何を失うと感じるでしょうか。
時間かもしれません。お金かもしれません。
今の安心感かもしれません。評価かもしれません。
「できる人」でいた自分のイメージかもしれません。

たとえば、管理職の方が新しいマネジメント手法を学ぼうとするとします。
やったほうが良いとは思う。
でも、もしうまくいかなかったらどうしよう。
今のやり方を変えて混乱したらどうしよう。
部下から変に思われたらどうしよう。
こういう感覚は、全部「損したくない」という気持ちにつながっています。
ここを見落として、「なぜやらないんだろう」で終わらせると、本質を外します。
人は、前に進むメリットを理解していても、失うものが大きく見えると止まりやすいんです。

だから、行動を促すときには、「やると得ですよ」だけでは弱いことがあります。
それよりも、
「何が損に見えているのか」
「その損は本当に致命的なのか」
「損を小さくする方法はないのか」
を一緒に見ていくほうが、ずっと現実的なんです。

現場改善でも同じです。
改善提案を出さない人がいる。
それを主体性の問題にする前に、何を失うと感じているのかを見たほうがいい。
否定されるかもしれない。仕事が増えるかもしれない。
失敗したら責任を負わされるかもしれない。
そう感じているなら、そりゃあ簡単には動けません。
人を前に進めるには、希望を語るだけでなく、不安と損失感をどう扱うかがとても大事なんです。

5.それでも人が動けるのは、「意味がある」と感じられるから

では、不安も損したくない気持ちもあるのに、それでもなぜ人は動けるのでしょうか。
ここで大きいのが、「意味づけ」だと私は思っています。
これをやる意味は何か。なぜ自分は、これをやりたいのか。
これをやることで、何が変わるのか。
ここが見えてくると、人は不安がゼロでなくても動きやすくなります。

逆に、意味が見えないと、人は動けません。
やったほうがいいと言われた。
でも、なぜそれをやるのかが腹に落ちていない。
こういう状態では、なかなか一歩にならないんです。
人は、正しいから動くとは限りません。
必要だから動くとも限りません。
「自分にとって意味がある」と感じられたときに、初めて心が動きやすくなるんです。

これ、部下育成でも本当に大事です。
上司としては「将来のためになるから」と思っていても、本人にとって意味が見えていなければ、動きは鈍くなります。
でも、「ああ、これは自分に必要だ」「これができるようになると、仕事の景色が変わるかもしれない」と本人が感じられたとき、目の色が変わることがあるんです。

意味づけは、ただ説明することではありません。
本人の中で、「これは自分に関係がある」とつながることです。
そこまでいくと、人は不思議なくらい動きやすくなります。
だからリーダーに必要なのは、ただ「やれ」と言うことではなく、その人の中で意味が立ち上がるような関わりをすることなんです。
私は、ここがとても大事だと思っています。

6.決断とは、不安が消えてからするものではない

ここまでくると、「じゃあ決断って何なんだろう」と思いますよね。
私は、決断というのは、不安がなくなったからできるものではないと思っています。
むしろ、不安が残っていても、それでも進むと決めること。
これが決断なんだと思うんです。
不安が全部なくなるのを待っていたら、なかなか始められません。

損したくない気持ちがゼロになるのを待っていたら、やはり動きにくい。
でも、意味が見えてきた。少しならできそうな気がしてきた。
このままでいたくない気持ちもある。誰かが支えてくれる感じもある。
そういうものが重なっていくと、「完全に安心ではないけれど、それでもやってみようか」という地点に来るんです。

私は、ここに決断のリアルがあると思っています。
決断って、スパッと迷いが消えることではないんです。
むしろ、迷いがあることを知りながら、それでも優先順位をつけることなんです。

そして、その先にあるのが覚悟です。
覚悟というと、何かすごく重たいもののように聞こえるかもしれません。
でも私は、覚悟というのは「必ずうまくいく」と思い込むことではないと思っています。
そうではなく、揺れながらでも引き受けること。
完璧ではないままでも、自分で背負うと決めること。
そういう姿勢に近いんじゃないかと思うんです。

だから、「まだ不安があるから自分は決断できていない」と考えなくていい。
不安がある中で、それでも一歩を出そうとしているなら、それはもう十分に決断の入口に立っているんです。


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7.最後に人の背中を押すのは、「ひとりじゃない」と感じられること

そして、忘れてはいけないのが、他者とのつながりです。
人は、ひとりで何でも決めて、ひとりで何でも始められるように見えることがあります。
でも実際には、「ひとりじゃない」と感じられることが、人の行動をものすごく支えているんです。
応援してくれる人がいる。見てくれている人がいる。
話を聞いてくれる人がいる。一緒にやる仲間がいる。
失敗しても完全には見捨てられないと感じられる。
こういう感覚があると、人は一歩を出しやすくなります。

逆に、どれだけ正しいことでも、どれだけ意味があっても、「全部ひとりで背負わなきゃいけない」と感じると、人は動きにくくなります。
だから私は、他者とのつながりは、おまけではなく、行動を支える重要な土台だと思っています。
これ、管理職やリーダーにとっては、本当に大事な視点です。
部下が動くかどうかは、能力や気合いだけではなく、「この人のもとならやってみてもいいかもしれない」と思える関係性にも左右されます。

つまり、人を動かすというより、人が動きやすくなる関係をつくること。
ここに、リーダーの大事な役目があるんです。
自分自身に対しても同じです。
誰にも言わず、誰にも頼らず、全部ひとりで抱え込むと、心は重くなります。
でも、言葉にしてみる。誰かに話してみる。少し応援を受け取ってみる。
それだけで、一歩の重さが変わることがあるんです。

8.「やってみよう」は、単純なやる気ではなく、心の中の重なりから生まれる

ここまで見てくると、「やってみよう」という気持ちは、単純なやる気ではないことが分かってきます。
好奇心がある。
違和感もある。
不安もある。
損したくない気持ちもある。
意味を求める心がある。
少しならできそうだという感覚が芽生える。
決断が生まれる。
覚悟が育つ。
そして、ひとりじゃないと感じられる。

そういうものが、心の中で重なって、ようやく一歩が生まれるんです。
だから、「やってみよう」と思えないときに、自分を単純に責めなくていい。
ただ気合いが足りないわけではないのかもしれない。
心の中で、まだ条件が整っていないだけかもしれない。
そう考えられるようになると、見える景色は変わってきます。

部下や若手を見るときも同じです。
「なぜ動かないんだ」と思ったとき、そこで終わらない。
何が足りないのか。
どこで引っかかっているのか。
何が見えれば動きやすくなるのか。
そこを見ることで、関わり方は変わっていきます。

私は、「やってみよう」とは、根性論ではなく、心の中で複数の条件が重なったときに立ち上がる現象だと思っています。
だからこそ、再現性があるんです。
感情任せではなく、理解し、整え、支えることができるんです。
ここまで見てくると、「やってみよう」という気持ちは、単純なやる気ではないことが分かってきます。

だから、「やってみよう」と思えないときに、自分を単純に責めなくていい。
ただ気合いが足りないわけではないのかもしれない。
心の中で、まだ条件が整っていないだけかもしれない。
そう考えられるようになると、見える景色は変わってきます。

だからこそ、理解する価値がある。
そして、整える価値があるんです。
ただ、ここでひとつ問いが残ります。
こうした心の動きは、経験則として語るだけでなく、心理学や行動科学の視点からも見ていけるのでしょうか。

人はなぜ、「自分で選んでいる」と感じたときに動きやすいのか。
なぜ、「少しならできそうだ」が一歩を変えるのか。
なぜ、「ひとりじゃない」が、あれほど大きな支えになるのか。
次回は、この“やってみよう”の正体を、もう少し科学の言葉で整理してみたいと思います。

精神論で片づけないために。
そして、自分にも、部下や若手への関わりにも活かせるようにするために。
後半では、心理学や行動科学の視点から、「人が動き出しやすくなる条件」を一緒に見ていきましょう。

後半は、次回のコラムでお送りいたします。毎週月曜日に「改善ファシリテーション」をテーマとしたコラムを更新、
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マネジメントコンサルティング部 部長
坂田 和則

国内外において、企業内外教育、自己啓発、人材活性化、コストダウン改善のサポートを数多く手がける。「その気にさせるきっかけ」を研究しながら改善ファシリテーションの概念を構築し提唱している。 特に課題解決に必要なコミュニケーション、モチベーション、プレゼンテーション、リーダーシップ、解決行動活性化支援に強く、働く人の喜びを組織の成果につなげるよう活動中。 新5S思考術を用いたコンサルティングやセミナーを行い、企業支援数が190件以上及び年間延べ3,400人を越える人を対象に講演やセミナーの実績を誇る。

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