AIにはできない“問いの力” │ 人間だけが持つ内なる思考の筋力

なぜ今、“問いの力”なのか
〜答えがあふれる時代に、私たちは考えなくなっていないか?〜
「それって、古くないですか?」
ある若いビジネスパーソンに、私はこう言われたことがあります。
私が「問題解決には“問いの力”が必要だ」と話したときのことです。
正直、内心ではちょっと寂しさを感じました。
けれど、同時に私は確信したのです。
だからこそ、いま“問い”を語るべきだと。
いまの時代、私たちはあらゆる場面で「答え」を簡単に得られるようになりました。
スマホを開けば、検索すれば、AIに尋ねれば、瞬時に答えが出てきます。
とても便利です。
しかし、ふと立ち止まって考えてみてほしいのです。
「その問い、本当に自分で立てたものでしょうか?」
人は問いを持たないとき、思考を止めてしまいます。
用意された質問、流される情報、アルゴリズムに最適化された提案。
これらに従ってばかりいると、自分の頭で考える力は、静かに、確実に鈍っていきます。
生成AIの進化は、社会にとって大きな恩恵をもたらします。
しかし同時に、私たち人間が“問いを持たない状態”に慣れてしまうリスクも抱えているのです。
問いを立てることは、思考の起点であり、学びの始まりであり、変化の種でもあります。
問いなきところに、自律的な成長は生まれません。
私がこれまで関わってきた多くの現場──製造、教育、医療、流通、リーダー育成──どの領域においても共通して言えるのは、「現場で機能している人ほど、問いを持っている」ということです。
問いを持つとは、「なぜ?」「どうして?」を内側から発すること。
たとえば、製造現場でラインの音にわずかな違和感を覚えるとき、その直感に耳を澄まし「何かが変だぞ」と気づくこと。
それこそが、機械トラブルの未然防止や改善の第一歩となるのです。
このような感覚的な問いは、まだ言語になっていない段階の「気づきの芽」です。
生成AIには捉えられない“人間の皮膚感覚”とも言えるでしょう。
五感で感じる、違和感を拾い上げる、そしてそれに「問うてみる」。
そこには、知識ではなく“意志”が必要です。
今、社会全体が「即答性」を重視するようになってきています。
すぐに答えが出ること、すぐに判断すること、即断即決ができること。
もちろん、それが求められる場面もあります。
しかし、問いを温める時間を奪われ続けると、人は「考えること」そのものが億劫になってしまうのです。
本来、問いとはじっくり育てるものです。
観察し、違和感を抱き、仮説を立て、また問い直す。
そうした時間の中に、人間らしい知性と創造性が宿ります。
生成AIが優れた応答を返すことはありますが、その問いの前提を整え、現実と照合し、試行錯誤を続けるのは、やはり人間の役割です。
私は、リーダーシップ育成の現場でこう語っています。
「リーダーとは、答えを持つ人ではありません。問いを持ち続けられる人です。」と。
問いとは、自分の価値観や判断軸を映し出す鏡です。
どんな問いを持つかによって、私たちがどんな世界を見ているのか、どんな未来を描いているのかが現れてきます。
だから私は、問いを持てる人を育てたいと思うのです。
そしてその力は、生成AIにも奪えない、人間だけが持つ“内なる思考の筋力”だと信じています。
あなたは、最近どんな問いを立てましたか?
それは、自分の中から生まれた問いでしょうか?
その問いこそが、あなたの未来を拓く起点になるかもしれません。
「問いはどこから生まれるのか」
〜観察力と直感が、問いの種を見つける〜
問いとは、どこから生まれてくるのでしょうか?
それは、知識や理論からではなく、もっと手前にある「違和感」や「感覚」から芽を出します。
現場で活躍している人ほど、よくこう言います。
「なんか変だった」
「音がいつもと違った」
「空気がザワついていた気がした」と。
それはまさに、問いの“前段階”である、観察と直感の力です。
観察力とは、「ただ見ること」ではありません。
「目的を持って見ること」、つまり「意味を読み取ろうとして見る力」です。
五感を使って周囲を観察し、小さな変化や兆しに気づける人は、必ずと言っていいほど良質な問いを立てます。
例えば、ある製造現場での話です。
新人研修を終えたばかりの若手社員が、ライン作業をしながら「この作業、なぜこの順番なんだろう?」とつぶやいたそうです。
周囲のベテランは、「それは昔からこうしてるから」と答えました。
しかし、彼はその違和感を放置しませんでした。
数日後、自分でデータを取り、順番を変えることで、効率が改善される可能性を上司に伝えました。
ここに「問いの芽」があります。
違和感→観察→仮説→行動
この流れを生むには、ただ黙々と作業をこなすだけではなく、「なぜ?」と問う心と、変化を感じ取る感性が必要です。AIは、マニュアル通りに動くかもしれませんが、微細なズレや現場の“空気”を感じる力は、人間ならではのものです。

もうひとつ大切なことが、「直感力」です。
直感とは、“経験と知識が融合された瞬間的な判断”です。
ベテランが「この音はまずい」と一瞬で気づくのは、膨大な過去の記憶と現場感覚が重なったときに起きる脳の反応です。
つまり、直感は偶然の産物ではありません。
観察→経験→蓄積→統合→直感
というサイクルの中で鍛えられる「高度な知覚力」なのです。
問いを立てる力は、こうした観察と直感の積み重ねによって育ちます。
目の前の現象に意味を見出し、違和感を感じ取り、問いを言語化する。
それは、まさに“問いの種まき”です。
ここで伝えたいのは、「問いは机上では生まれない」ということです。
デスクの上でいくら知識を集めても、問いは立ちません。
現場に足を運び、空気を感じ、人の動きを見て、ほんの小さな「ズレ」に気づく。
そこから芽吹くのが、本物の問いです。
私はこれを「五感を使った観察と、意志ある直感」と呼んでいます。
問いを持つ人になりたければ、まずは“違和感に気づける自分”になること。
そのために必要なことが、観察力と直感力という、AIには真似できない人間の感性なのです。
あなたは最近、どんな違和感を感じましたか?
その小さな“気づきの芽”を、大切に育ててみてください。
「問いを深める力」
〜洞察とメタ認知が、リーダーの思考を支える〜
問いを立てることができるようになったら、次に大切なのは、その問いを「深める力」です。
その中核となるのが、洞察力とメタ認知です。
まず、洞察力とは何でしょうか。
それは、表面的な情報の背後にある“構造”や“関係性”を見抜く力です。
現象の奥にある真因を捉え、そこに意味づけをし、新たな視点を持ち込む。
洞察は、観察によって得られた材料を、思考によって再構築するプロセスに他なりません。
たとえば、「なぜこの作業は遅れるのか?」という問いがあったとします。
観察からは「○○さんの準備が遅いから」という情報が見えるかもしれません。
しかし、洞察力のある人は、そこで止まりません。
「なぜその人は準備が遅れるのか?」「そもそも準備の仕組みが複雑なのでは?」と問いを掘り下げていく。
洞察は、問いに深みを与えます。
そして、それによって私たちは「対処」ではなく、「構造的な改善」へと進むことができるのです。
一方、メタ認知はどうでしょうか。
これは「自分がいま、どう考えているのかを客観的にとらえる力」です。
たとえば、チームで意見がぶつかっているとき、ただ感情で反応するのではなく、
「いま自分は焦っている」
「相手の意見に対して自分が否定的になっている」
と気づく。
それがメタ認知です。
メタ認知が高い人は、問いに対してもブレにくくなります。
なぜなら、自分の視点に偏りがあるかどうかをモニタリングできるからです。
「この問いは、自分の思い込みから来ていないか?」「別の立場から見たらどうなるか?」といった振り返りが可能になります。
この洞察とメタ認知の力をあわせ持つと、問いは“より本質的に、より柔軟に”変化していきます。
私の研修でも、最初は「答えを出すこと」に集中していた受講者が、洞察とメタ認知を学んでいくことで、次第に「問いの質」が変化していく姿を何度も見てきました。
問いの質が変わると、対話の質が変わり、行動の質が変わる。
この連鎖は、まさに「思考がリーダーシップに昇華する瞬間」でもあります。
ここで重要なのは、洞察もメタ認知も、特別な才能ではないということです。
習慣的に問い、振り返り、書き出し、共有し、対話する。
そのプロセスを通じて、誰でも鍛えることができます。
AIは大量のデータを一瞬で処理できますが、「自分の思考を客観視し、軌道修正する力」や「関係性の深部を捉える力」は、まだまだ人間の領域です。
問いを持ち、問いを深める。
そこに、私たち人間にしかできない“思考の旅”があります。
あなたが最近立てた問いを、少しだけ掘り下げてみてください。
「この問いは、どこから来たのか?」「他の見方はできないか?」
そうやって思考の階段を一段ずつ降りていくとき、リーダーとしてのあなたの輪郭が、より明確になっていくはずです。
「問いを持つ人を育てる」
〜古いと言われても、曲げられない私の信念〜
「古いですね」と言われても、どうしても曲げられないことがあります。
それは、「問いを持つ人を育てたい」という私の願いです。
これまで私は、多くのリーダー育成の現場に関わってきました。
製造業の現場でも、営業の現場でも、そして管理職研修の場でも、「答えを教える」のではなく、「問いを持たせる」ことにこだわってきました。
なぜなら、答えを与えられて育った人は、“自分で考えなくなる”からです。
たとえば、新人が「これはどうすればいいですか?」と尋ねたとき、指導者がすぐに答えることは、一見すると優しさに見えます。
しかし、それを繰り返すことで新人は「常に誰かが答えてくれる」という思考パターンに慣れてしまうのです。
一方で、問い返すこと──たとえば「あなたはどう思う?」と聞き返すことで、相手は自分の中にある考えや感覚を探し始めます。
その行為こそが、問いを持つことの第一歩です。
私が出会ったある若手リーダーは、最初こそ「教えてくれない上司」に不満を抱いていました。
しかし、数ヶ月後、「自分で考えるようになってから仕事が楽しくなった」と語ってくれました。
そのとき、私は確信したのです。
問いを持てるようになると、人は仕事に“自分の意味”を見出すようになると。
問いを持つとは、すなわち「自分の頭で、自分の未来を考えること」です。
逆に言えば、問いを持たないままキャリアを歩んでしまうと、いつしか“やらされ感”や“閉塞感”に支配されてしまいます。
最近の若手は、直ぐに「やめる」と言い出す!
そりゃそうだと思います。
ネットが答えを出してくれて、生成AIが相談相手になってくれて、自ら深い問いを整えるというシーンが減っていることが背景にある、と私は思っています。
これでは、キャリアを持たないまま歩むことになると同じです。
だからこそ、リーダーの育成とは、問いの風土を醸成することでもあるのです。
職場には「問いを許さない空気」が漂っていることがあります。
・余計なことを言うな
・黙って指示に従え
・なぜ?なんて聞くな、決まっているんだ
こうした文化の中では、問いを持つことは“リスク”になります。
けれど、これからの時代、それでは人も組織も成長できません。
私はよく研修の冒頭でこう話します。
「あなたが明日から“問いを持つこと”をチームに許せる人になってほしい」と。
それは、何かを教えることよりも難しい挑戦です。
なぜなら、問いを持つというのは、“未完成な状態を許容する勇気”だからです。
答えを教えることには、ある種の安心感があります。
正しさや過去の成功体験をもとに、導くことができます。
しかし、「それってどうなんだろう?」という問いには、まだ誰も知らない未来が潜んでいます。
問いを持つ人を育てるには、その“未完成さ”を恐れず、「共に考える」という関係性が必要なのです。
私は、問いを持つ若者と出会うたびに、心の中で拍手を送ります。
「そのまま育ってほしい」と願いながら、同時に「大人側がその問いを摘まないでほしい」とも願っています。
問いは、未来を切り拓く“種”です。
それを育てるのが、私たち大人の役割であり、リーダーの責任だと思うのです。
ある時、私の講義を聴いた若手社員が言いました。
「自分が持っていた“もやもや”は、問いとして育ててよかったんですね」
そう、もやもやは悪者ではないのです。
むしろ、“問いの種”なのです。
その感覚を育てる文化があれば、職場の風景は大きく変わります。
失敗も、葛藤も、問いに変えられる職場。
そんなチームが、変化の激しい時代を生き抜く力を持つのです。
古いと言われるかもしれません。
でも、私はこの考えを手放すつもりはありません。
問いを持つ人を育てる。
それは、答えを与えるよりも、ずっと遠回りかもしれません。
でもその先には、自分で考え、自分で未来を選べる人たちが育ちます。
その姿こそが、生成AIには真似できない、人間の尊厳と可能性そのものだと私は思うのです。
あなたのそばに、問いを持つ若者がいたら
どうか、その問いを歓迎してください。
そして、あなた自身も問いを持つ人であり続けてください。
問いを持つことは、希望を持つことです。
未来をあきらめない姿勢そのものです。
今日、あなたはどんな問いを胸に抱いていますか?
その問いが、誰かの背中を押す力になるかもしれません。
ここまで読み進めてくださったあなたは、きっと「答え」よりも「問い」に意味を見出している方だと思います。
だからこそ、私はあなたに会ってみたい。
なぜなら、問いを大切にする人には、必ず“物語”があるからです。
問いを持つということは、まだ見ぬ景色を信じているということ。
「きっと、もっと良くできる」「何かを変えられる」
そう信じて、歩いている証拠です。
私はこれまで、多くの現場で問いを育ててきました。
そして今も、問いを持つ人たちと共に、悩みながら、笑いながら、歩き続けています。
もし、あなたが今、
「この人と話してみたい」
「自分の問いを投げかけてみたい」
そう感じたなら
それは、あなたの中に“次の一歩”が生まれ始めたサインです。
私は、そんなあなたと出会える日を、心から楽しみにしています。
問いを持ち、問いと生きる人と、未来を語り合えることほど、幸せな時間はありませんから。
あなたの問いは、もう始まっています。


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国内外において、企業内外教育、自己啓発、人材活性化、コストダウン改善のサポートを数多く手がける。「その気にさせるきっかけ」を研究しながら改善ファシリテーションの概念を構築し提唱している。 特に課題解決に必要なコミュニケーション、モチベーション、プレゼンテーション、リーダーシップ、解決行動活性化支援に強く、働く人の喜びを組織の成果につなげるよう活動中。 新5S思考術を用いたコンサルティングやセミナーを行い、企業支援数が190件以上及び年間延べ3,400人を越える人を対象に講演やセミナーの実績を誇る。
