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研修の成果は、研修室の外にある|「10」で「90」を変える人財育成

目次

研修の成果は、研修室の中にはない。―70:20:10で考える。「10」の研修から「90」の経験と対話を変える人財育成―

研修が終わった直後、アンケートを見る。
「大変参考になった」「明日から実践したい」「分かりやすかった」。
評価は4.7。
講師も安心する。
人事担当者も安心する。
受講者も、充実した表情で会場を出ていく。

でも、私はその数字を見るたびに、もう一つ考えます。
半年後、この人たちは現場で何をしているだろう。 
1年後はどうでしょう。
5年後は? 
10年後、その人が部下や後輩を持ったとき、どんな言葉をかけ、どんな問いを投げかけているでしょうか。毎週月曜日に「改善ファシリテーション」をテーマとしたコラムを更新、
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もし、その答えが分からないとしたら、私たちはいったい何を「研修効果」と呼んでいるのでしょう。
私は、研修の本当の成果は研修室の中だけにはないと思っています。
アンケート用紙の中だけにもありません。
本当の成果が現れるのは、その後の現場です。

そしてこれは、人事部や人財開発部門だけのテーマでもありません。
人が現場で何を見て、何を問い、どう判断し、どう行動するのか。
その積み重ねは、生産性、品質、安全、改善、顧客対応、そして最終的には経営そのものに返ってきます。
だから私は、研修のその日だけを見たくないのです。

70:20:10で考える人材育成。「10」は本当に10で終わるのか

人の成長について、「70:20:10」という考え方があります。
おおよそ70は仕事や現場での経験、20は上司や先輩、周囲からの助言やフィードバック、10は研修や読書などからの学びです。

私は講演やセミナーを仕事にしています。
ということは、私が直接関わるのは主に「10」です。
ここで、「なんだ。研修なんて10しかないのか」とは思いませんでした。
逆です。
10しかないなら、その10をどう使うかは、とても重要なのではないか。 
私はそう考えました。

研修の中で知識をたくさん教える。
もちろん大切です。
しかし、本当に考えたいのは、その10を通じて、その後の70の経験の質をどう変えるか。
そして20の上司や先輩との対話やフィードバックの質をどう変えるか、ではないでしょうか。

つまり、10を良くすることそのものが目的ではない。
10を使って、残りの90を変える。 
私が設計したいのは、研修当日の6時間だけではありません。
その人が研修会場を出たあとに始まる、何か月、何年という時間まで含めた学びです。

研修を現場に定着させる鍵は、「問い」にある

私は「新5S思考術」という研修を行っています。
整理、整頓、改善について考え、現場を見る視点を学んでいただきます。
研修中は皆さん、よく理解してくださいます。

ところが数か月後、現場を訪問すると「それなり」ということがあります。
悪くはない。
でも、何かが足りない。

一方で、研修後に私自身が現場へ入り、メンバーと一緒に5Sを行うことがあります。
そして、一緒に捨てます。
かなり徹底的に捨てます(笑)。

棚を開ける。
引き出しを見る。
何年も動いていない物を見る。
そこで私は、難しい質問なんてしません。
「これ、使います?」
「最後に使ったの、いつです?」
「これ、なくなったら困ります?」
「もったいないですよね。でも、本当に残します?」。
たったそれだけの問いです。

ところが、この簡単な問いを何度も何度も繰り返していると、面白いことが起きます。

半日もすると、私が言おうとしたことを先に言い始める

一緒に現場を歩いて半日ほど経つと、私が何かを見つけて口を開こうとした瞬間、同行しているメンバーが先に言い始めます。
「これ、使ってないですよね?」
「これ、ここに置く必要あります?」
「あれ、なんであそこにあるんですか?」。
まだ私は何も言っていません。

中には、私より先にどんどん歩いていって、写真まで撮ってくる人がいます。
「坂田さん、これじゃないですか?」。
いやいや、ちょっと待ってください。
私の仕事がなくなるじゃないですか(笑)。

でも私は、この瞬間がとても好きです。
最初は、私の目で現場を見ていた。
私の問いを聞いていた。
それが、ほんの数時間後には、自分の目で見て、自分で問い、自分から動き始めている。 
他人から与えられた問いが、自分の問いに変わったのです。

私はこれを、勝手に「問いの筋肉がついてきた」と呼んでいます。

「これ使う?」。
本当に簡単な問いです。
でも、その問いを繰り返すことで、見る。
考える。
迷う。
判断する。
行動する。
そして結果を見る、という小さな学習サイクルが何度も回ります。
さらに、きれいになった現場を見て、「ああ、こんなに広かったんだ」「探さなくて済む」「仕事がしやすい」といった驚きや達成感まで経験する。
ここで、研修で知った5Sが「知識」から「自分の経験」へ変わっていきます。

70:20:10で考えるなら、私はこの瞬間を、10で仕込んだ見方や問い方が、20の伴走やフィードバックを通じて、70の現場へ移っていく瞬間だと捉えています。
だから私が確認したい研修効果は、「何を覚えていましたか?」だけではありません。
現場で、自分から何に気づき、何を問い始めるようになったか。 
そこまで見たいのです。

OJTや現場経験は、経験させるだけで学びになるのか

人材育成では、「経験が大切だ」とよく言われます。
私もそう思います。
でも、同じ仕事を同じように10年間続ければ、必ず10年分成長するのでしょうか。
私は、そうとは限らないと思っています。

経験したことをどう見るか。
何に気づくか。何を問い、どう振り返るか。
その違いによって、同じ経験から得られる学びは大きく変わります。
だから、70の現場経験を増やすだけでは足りない。
70から学べる人を育てる必要がある。

ここに、10の研修や20の上司・先輩の関わり方の意味があるのだと思います。

私はずっと、「何を教えるか」だけでは足りないと考えてきた

私は以前からずっと、研修を設計するときに「何を教えるか」だけでは足りないと考え続けてきました。
もちろん、知識も技術も教えます。
しかし、それと同時に考えていることがあります。

研修が終わったあと、現場でどんな問いが頭に浮かぶ人になってほしいか。

「なぜ?」
「本当に?」
「そもそも?」
「もっと簡単にできない?」
「これは必要?」
「相手からはどう見えている?」
「自分は何を見落としている?」。
こうした問いが現場で自然に出てくるようになったら、研修は終わっても、学習は終わりません。
むしろ、そこから本当の学習が始まります。

だから私は研修を設計するとき、当日の理解度だけではなく、明日、現場に戻ったときに何を見るようになってほしいのか。
そのとき、自分自身に何を問いかけてほしいのか。
そして、その問いからどんな行動を起こしてほしいのかまで考えます。
10で答えを教えるより、70で問い続けられる人を育てたい。

これは、最近思いついたことではありません。
私がずっと大切にしてきた、人財育成に対する考え方です。

人材育成の課題は、研修を決める前の対話で見えてくる

企業から研修や講演のご相談をいただくと、「主体性のある人を育てたい」「もっと自分で考える社員にしたい」「コミュニケーションを良くしたい」といったお話をいただくことがあります。
もちろん、どれも間違っていません。

ただ、「主体性のある社員」という言葉だけでは、私はまだ研修を作れません。
そこで、少し掘ります。
「御社でいう主体性って、具体的にはどんな行動でしょう?」「その人は現場で、何をしているでしょう?」「困ったとき、どんな判断をしてほしいですか?」「どんな問いを、自分自身に投げかけてほしいですか?」「逆に、今それが起きていないとしたら、何が邪魔をしているのでしょう?」

そうやって話していると、お客様自身が「あ……そういえば」と言われる瞬間があります。
「若手が考えないのではなく、上司が先に答えを言っているかもしれません」「質問しづらい雰囲気があるのかもしれません」「経験はさせています。でも、振り返りをほとんどしていませんね」。

最初は「主体性研修をお願いします」という話だったものが、対話を続けることで、別の課題が見えてくることがあります。
私は、この時間をとても大切にしています。

お客様がお忙しいことは重々承知しています。
それでも時間をいただくのは、単に講演や研修の内容を決めたいからではありません。
その時間によって、これまで言語化されていなかった思いや、気づいていなかった課題が顕在化すれば、研修という10だけではなく、残りの90にまで働きかけることができるからです。

ですから、私はこの時間を単なる事前打ち合わせとは考えていません。
すでに人財育成の最初の介入が始まっている。

そう考えています。

設計開発デザインシートは、研修資料ではなく「対話の道具」

私は講演やセミナーのお引き合いをいただくと、設計開発デザインシートを作成します。
そして必要に応じて、お客様にもお見せします。
「そこまで見せるんですか?」と言われることがあります。

はい。
お客様には喜んでお見せします。

どんな人財を育てたいのか。
どんな変化を起こしたいのか。
現場でどんな行動を増やしたいのか。
そして、どんな問いが自然に生まれる状態をつくりたいのか。
シートを見ながら一緒に話していると、お客様自身も、それまで言葉にできていなかった思いを話してくださることがあります。

ですから、このシートは私にとって、研修内容を決めるだけのものではありません。
お客様の「なんとなくこういう人を育てたい」を、一緒に言葉に変えていくための対話の道具でもあります。

ちなみに、お客様にはお見せしますが、同業者の方には……ちょっとだけ秘密です(笑)。

生成AI研修なのに、最初の3時間AIを使わなかった理由

先日、管理職向けに6時間の生成AI活用研修を行いました。
生成AI研修です。
ところが、最初の3時間、AIを使いませんでした。
生成AI研修なのに、です(笑)。

では何をしていたのか。
業務を見ました。
仕事を分解しました。
「何をAIに任せられるのか」「何を人間が判断しなければならないのか」「そもそも、この業務は何のために行っているのか」を考えました。

私は、生成AIを上手に操作できる人を増やしたいわけではありません。
きれいなプロンプトを書ける人だけを育てたいわけでもありません。
生成AIを使って仕事をより良くし、最終的には経営に寄与できる人を育てたい。

そのためには、AIの操作方法を学ぶ前に、人間側の「見る力」「問う力」「考える力」が必要です。
だから、最初の3時間はAIを使わなかった。
一見すると遠回りです。
でも、人財育成には、遠回りに見える近道があると思っています。

研修を経営成果につなげるなら、「実施した」で終わらせない

研修は人事部門の施策として始まることが多いと思います。
でも、その成果が本当に現れるのは現場です。
安全研修なら、安全行動として現れる。
品質研修なら、日々の判断や異常への気づきとして現れる。
リーダー研修なら、部下への問いやフィードバックとして現れる。
生成AI研修なら、業務改善や意思決定、仕事の質として現れる。

だから経営者の方にも、人財育成を「研修費」という一つの費目だけで見ていただきたくないと思っています。
研修後に何が変わるのか。
その人の問いが変わるのか。
判断が変わるのか。
行動が変わるのか。
そして、それが組織の成果にどうつながっていくのか。
そこまで見て初めて、人財育成は経営のテーマになるのではないでしょうか。

高い研修と安い研修の違いではない

私の仕事には、シンプルな講演・セミナーもあります。
ご要望を伺い、講演や研修を実施する。
もちろん、これもできます。
こちらは比較的、費用を抑えることができます。

一方で、もっと深く関わる場合があります。
お引き合いをいただく。
設計開発デザインシートを作成する。
お客様と講話内容についてデザインミーティングを行う。
そこで得た気づきをもとに設計を改定する。
講話内容やテキストを開発する。
研修を実施する。
そして、その後、現場へ入る。

最後に私が見たいのは、受講者が研修内容をどれだけ覚えているかだけではありません。
現場で、その人の「問い」がどう変わったのか。
そこを見たいのです。

当然、ここまで行えば費用は高くなります。
でも私は、それを単純に「高い研修」とは考えていません。
そもそも、提供しているものが違うからです。
一方は、研修を提供する仕事。
もう一方は、人財が育つプロセスを設計し、現場への実装まで支援する仕事です。

私が料金をいただきたいのは、「打ち合わせをした時間」そのものではありません。
お客様の「なんとなくこういう人を育てたい」を言語化し、人財像を具体化し、その人が現場でどんな行動をし、どんな問いを持つようになればよいのかを一緒に設計する。
その専門性に対してです。

研修効果は、5年後、10年後に現れるかもしれない

研修直後のアンケートは大切です。
満足度も理解度も、大切な情報です。
でも、本当の研修成果は、そのアンケートだけでは分かりません。

5年後、10年後。
その人が後輩や部下を持ったとき、難しい問題にぶつかったとき、「どうしよう」で止まるのか。
それとも、「何が起きている?」「なぜ?」「他に見方はない?」「自分にできることは何だ?」と問い始めるのか。
私は、そこに研修の本当の成果が現れると思っています。

研修で覚えた言葉は忘れるかもしれません。
テキストのページも、スライドの内容も忘れるかもしれません。
でも、問い方が残れば、その人は学び続けることができる。
そして、その問いを今度は後輩や部下に渡していくかもしれない。
そう考えると、研修成果の中には、アンケートでは測れないものがたくさんあります。

「10」を良くするのではない。「90」を変える

だから私は「10」を設計します。
10を立派に見せるためではありません。
残りの90を変えるためです。

人事、人財開発に携わる皆さん。
そして、人の成長を経営の重要なテーマと考えている経営者の皆さん。
次に研修を企画するとき、「この研修で何を教えよう?」と考える前に、一度だけ、こんな問いを置いてみてはいかがでしょうか。

「この研修が終わったあと、現場でどんな問いが生まれていてほしいだろう?」

そして、もう一つ。
「5年後、10年後、その問いは誰に受け継がれていてほしいだろう?」

その答えが見えてくると、研修の姿は少し変わるかもしれません。
研修室で過ごす数時間は短い。でも、その数時間から生まれた問いは、その人の現場で何年も生き続けるかもしれません。

私は、そんな「10」をつくりたいと思っています。

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マネジメントコンサルティング部 部長
坂田 和則

国内外において、企業内外教育、自己啓発、人材活性化、コストダウン改善のサポートを数多く手がける。「その気にさせるきっかけ」を研究しながら改善ファシリテーションの概念を構築し提唱している。 特に課題解決に必要なコミュニケーション、モチベーション、プレゼンテーション、リーダーシップ、解決行動活性化支援に強く、働く人の喜びを組織の成果につなげるよう活動中。 新5S思考術を用いたコンサルティングやセミナーを行い、企業支援数が190件以上及び年間延べ3,400人を越える人を対象に講演やセミナーの実績を誇る。

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