AIは答える、人は問う|生成AI時代の次世代リーダーに必要な「問力」
AIが答えを出すほど、人は考えなくなるのか
~次世代リーダーに今、育てたい『問力』~
生成AIを使っていると、本当に便利な時代になったなぁと思います。
文章を書いてくれる。
資料をまとめてくれる。
データを分析してくれる。
グラフも作ってくれる。
原因の候補も出してくれる。
「では、どう改善しますか?」と聞けば、対策案まで出してくれます。
数年前だったら、経験のある人が何時間もかけていたような仕事を、数秒でやってくれる。
いやぁ、便利です。
私は生成AIを仕事でもかなり使いますし、企業研修でも活用しています。
だから、生成AIそのものを否定するつもりはまったくありません。
むしろ、使えるものはどんどん使った方がいいと思っています。
ただ、一方で最近、強く考えることがあります。
AIがこれだけ答えを出してくれる時代に、私たちは人に何を身につけてもらえばいいんだろう?
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ここです。
DXを進める。
生成AIを導入する。
業務を効率化する。
もちろん大切です。
でも私は、以前からこんなことを言っています。
便利になることと、組織の問題解決能力が高まることは、同じではない。
ここを混同すると、少し怖いことが起きる気がしています。
AIを入れれば、人も賢くなるのか
例えば、以前は若手社員がデータを集め、自分でグラフを作り、「なんでここだけ増えているんだろう?」と考えていたとします。
ところが今は、データをAIに渡せば、
「この項目に異常傾向があります」
「原因として、この三つが考えられます」
「改善策としては……」と出てきます。
仕事は速くなります。
では、その若手社員の「考える力」も同時に高まったのでしょうか。
ここは別問題ですよね。
むしろ、AIが優秀になればなるほど、「自分で考えなくても仕事が進む」という状況も増えていく可能性があります。
だから私は、DXや生成AIを導入するときには、人財育成をセットで考えた方がいいと思っています。
AIに何を任せるのか。
そして、人間には何を残すのか。
ここを経営として考えておかないと、気づかないうちに「人間側の力」までアウトソーシングしてしまうかもしれません。
私が最近、大切だと思っている「問力」
そこで私が注目しているのが、問力です。
私は、問力を単なる「質問する力」だとは考えていません。
ましてや、「生成AIに上手なプロンプトを書く力」だけでもありません。
私が考える問力とは、目の前で起きていることに違和感を持ち、問いを立て、仮説をつくり、確かめ、そして結果に応じて問いそのものを更新していく力です。
例えば、売上が落ちた。
問力が十分に育っていなければ、「売上が落ちました。原因を分析してください」とAIに聞くでしょう。
もちろんAIは答えてくれます。
でも、私はその前に、「本当に落ちたと言えるのか?」「何と比べている?」「全部の商品なのか?」「一部の商品だけなのか?」「数量なのか、単価なのか?」「地域差は?」「顧客層による違いは?」「このデータの取り方自体は正しいのか?」そんな問いを持てる人を育てたいのです。
同じ生成AIを使っていても、問いが違えば、返ってくる答えも、その後の行動も変わります。
これからは、AIの性能差以上に、人間側の問いの差が成果の差になるのではないか。
私はそんなふうに考えています。
観察力が先か?問力が先か?
ここで面白いテーマがあります。
「観察力があるから、問いが生まれるんじゃないですか?」その通りです。
現場で小さな変化に気づく。
「昨日と音が違う」
「いつもより振動が大きい」
「作業者の動きが少し違う」
「数字は正常範囲だけど、何か変だ」。
そこから、「なぜだろう?」という問いが生まれる。
つまり、観察→気づき→問いという流れがあります。
でも、逆もあります。
「昨日と違うところはない?」
「左右で違いはない?」
「平均だけ見ていて大丈夫?」
「この数字の裏側に何かない?」
こんな問いを持って現場を見ると、それまで気づかなかったものが見えてくる。
つまり、問い→観察→気づきです。
私は、問いを懐中電灯のようなものだと思っています。
真っ暗な倉庫に入って、ただ懐中電灯を照らす。
もちろん何かは見えます。
でも、「床に落ちているものはないか?」「昨日と位置が変わったものはないか?」「いつもと違う色はないか?」と問いを持った瞬間、光を向ける場所が変わります。
問いとは、観察の光をどこへ向けるかを決めるものなのです。
だから私は、問い→観察→気づき→仮説→検証→新しい問い、このループを人財育成の中で回したいと思っています。
熟達者と訓練中の人は、何が違うのか
ここを考えると、熟達者と訓練中の人の違いが見えてきます。
もちろん、経験年数も違います。
知識量も違います。
でも私は、それだけではないと思っています。
観点 | 訓練中の人 | 熟達者 |
現場を見るとき | 目に入ったものを見る | 問いを持って見る |
変化に気づいたとき | 「何か違う」で止まりやすい | 「何が、いつから、なぜ違う?」へ進む |
情報の捉え方 | 一つずつ個別に見る | 関係性やパターンを見る |
原因の考え方 | 最初に思いついた原因に寄りやすい | 複数の仮説を持つ |
判断 | 正解を早く知りたい | 仮説を切り分けたい |
データを見るとき | 数字を見る | 「この数字で何が言えて、何が言えない?」と問う |
異常への対応 | すぐ対策したくなる | まず現象と原因を切り分ける |
自分の判断 | 「これだ」と決めやすい | 「違うとしたら?」を残す |
失敗したとき | 間違えたと考える | 仮説を更新する材料にする |
AIの使い方 | 答えを聞く | 仮説、盲点、反証を探す |
後輩への関わり | 答えを教える | 問いによって考えさせる |
この表を見ていると、私は一つの共通点が見えてきます。
問力です。
熟達者は、単に答えをたくさん知っている人ではありません。
目の前の現象を見た瞬間に、
「なぜ?」「いつから?」「何と関係している?」「本当にそうか?」「違うとしたら?」と、問いが立ち上がる。
そして、その問いを更新し続けます。
私は、熟達者と訓練中の人の違いのかなり大きな部分は、この問力の違いにあると思っています。
訓練中の人は「正しい答え」を探す。
熟達者は「よりよい問い」に更新していく。
ここは、生成AI時代になるほど重要になると思います。
なぜなら、答えを出すことならAIがどんどん得意になっていくからです。
では、問力をどう育てるのか
ここで、人財育成の話になります。
経験の浅い人に、
「もっとよく見ろ」
「もっと考えろ」
「問題意識を持て」
と言っても、なかなか難しいものがあります。
何を見ればいいのか分からない。
何を考えればいいのか分からない。
だから私は、最初は問いを渡せばいいと思っています。
「昨日と違うところは?」
「全部で起きている?」
「一部だけ?」
「何が変わった?」
「それが原因なら、ほかに何が起きる?」
「逆に、それが原因じゃないとしたら?」
こうした問いを使いながら現場を見る。
何度も繰り返す。
すると、そのうちこちらが聞く前に、「ちょっと待ってください。昨日と違います」と言い始める。
さらに成長すると、「この原因なら、こっちにも変化が出るはずです」となる。
そして、「私はこれが原因だと思います。でも、違う可能性もあるので確認します」となる。
私は、ここまで来ると「育ったなぁ」と感じます。
QC七つ道具は古いのか?
そこで、私はQC七つ道具を使います。
こう言うと、「DX・AI時代にQC七つ道具ですか?」と思われるかもしれません。
その感覚も、私はよく分かります。
パレート図も、散布図も、ヒストグラムも、AIなら一瞬で作れます。
だから私は、グラフの作り方を教えたいわけではないのです。
私が使いたいのは、その中にある「問いの型」です。
パレート図なら「どこに集中すべきなのか?」、
散布図なら「この二つには、本当に関係があるのか?」、
ヒストグラムなら「平均だけ見ていて大丈夫なのか?」、
特性要因図なら「原因を一つに決めつけていないか?」、
管理図なら「これはいつものばらつきなのか。それとも何か起きているのか?」、
チェックシートなら「何を記録すれば、現象が見えるようになるのか?」。
こう考えると、見え方が変わります。
私は、QC七つ道具を教えたいのではありません。
QC七つ道具を使って、問力を鍛えたい。
古い道具を残したいのではなく、古くならない思考力を残したい。
私は、そんな感覚です。
なぜなぜ分析も、問いの訓練になる
なぜなぜ分析も同じです。
「なぜ?」を5回言えばいい、という話ではありません。
「本当にそれが原因?」
「なぜそう考えた?」
「人のミスで終わらせていない?」
「仕組み側は?」
「設備側は?」
「環境側は?」
「途中で話が飛んでいない?」
問いを深くしていく。
私は、なぜなぜ分析を、井戸の中へ降りていくロープのようなものだと思っています。
表面に見えている「それらしい原因」を拾って終わるのではなく、問いにつかまりながら、もう一段、もう一段と深く降りていく。
QC七つ道具が問いを広げる訓練だとすれば、なぜなぜ分析は問いを深める訓練。
DXやAIが進んでも、こうした思考そのものの価値はなくならないと思っています。
私が「管理職になる前」に身につけてほしい理由
そして、ここが私が次世代リーダー育成で一番大切にしたいところです。
問力は、本人の問題解決能力を高めるだけではありません。
その人が将来、管理職になったときに大きな意味を持ちます。
例えば、部下が相談に来ます。
「不良が増えました。どうしたらいいでしょうか?」経験豊富な管理職なら、だいたい答えが見えます。
だから、「設備を確認して」「材料じゃない?」「前にもあったから、この方法で」と言えてしまう。
早いです。
本人も助かります。
でも、これをずっと続けていたらどうなるでしょう。
部下は、「分からなかったら上司に聞けばいい」と学びます。
すると数年後、管理職は言います。
「最近の若手は、自分で考えないんだよね」。
ここで私は、少し違う角度から見てみたいのです。
本当に、若手が考えないのでしょうか。
もしかすると、考える必要のない環境を、私たちが作ってしまっているのではないか。
答えを早く教えすぎる。
失敗する前に手を出す。
問いを渡す前に、指示を出す。
これでは、問力が育つ機会がありません。
答えを持っている上司から、問いを渡せる上司へ
同じ相談でも、「不良が増えました。どうしたらいいでしょう?」と言われたとき、
「設備を見てきなさい」ではなく、
「増えたって、何と比べて?」
「いつから?」
「全部の商品?」
「君は何が原因だと思っている?」
「それを確かめるには、何を見ればいい?」と聞いてみる。
これは、放置しているわけではありません。
考えるための足場をつくっているのです。
私は、これを自転車の練習に似ていると思っています。
最初は後ろを支えます。
でも、ずっと支えていたら、一人では走れるようになりません。
少しずつ手を離す。
本人が、自分でバランスを取る。
人財育成も同じだと思います。
最初は問いを渡す。
やがて、自分で問いを立ててもらう。
そして最後は、こちらが何も言わなくても、自分で考えて動けるようになる。
だから、管理職になってからでは遅いと思うのです
私は、このセンスを管理職になってから初めて学ぶのでは、少し遅いと思っています。
本人自身が、問いによって考える経験を十分に積んでいなければ、管理職になった瞬間から、「部下には問いで考えさせましょう」と言われても、なかなか難しい。
自分自身が答えを教えられて育ってきた人は、やはり部下にも答えを教えやすい。
だから次世代リーダーの段階で、問いを持つ、観察する、気づく、仮説を立てる、確かめる、問いを更新する。
このループを何度も経験してほしい。
そして、その次の段階では、「自分が答えるのではなく、相手にどんな問いを渡せば、その人が考えられるだろう?」という視点まで持ってほしいのです。
ここまで来ると、本人の問力が人を育てる力に変わります。
次世代リーダー一人を育てることは、一人を育てることではない
ここは、経営者の方にぜひ考えていただきたいところです。
今、次世代リーダーとして育成している人が、3年後、5年後に管理職になったとします。
その人は何人の部下を持つでしょう。
5人でしょうか。
10人でしょうか。
20人でしょうか。
その管理職が、何でも答えを教える人になるのか。
それとも、部下の問力を育てられる人になるのか。
この違いは、その管理職一人だけの問題ではありません。
その先にいる人たちに、ずっと影響していきます。
だから私は、次世代リーダー一人を育てるということは、その人が将来育てる、まだ会ったことのない部下たちまで育てる準備をすることだと思っています。
ここまで考えて人財育成を設計すると、次世代リーダー研修の見え方は大きく変わります。
DX・生成AI時代だからこそ、人財育成を同時に考える
私は、DXや生成AIの導入に反対しているわけではありません。
むしろ、積極的に使った方がいいと思っています。
でも、テクノロジーだけを導入して終わるのではなく、「この便利さの中で、人間には何を育てるのか?」を同時に考えたいのです。
AIは、答えを出してくれます。
だからこそ、人間には、何を見るのか、何を疑うのか、何を問うのか、何を確かめるのか、どう問いを更新するのか。
そして将来、人にどんな問いを渡すのか。
そこが重要になると思っています。
経営者の方に、二つだけ問いを
私は、「QC七つ道具は古いですか?」という議論をしたいわけではありません。
もっといい方法があれば、使えばいい。
AIでできることは、AIにやってもらえばいい。
そのうえで、経営者の方に二つだけ問いを投げかけてみたいのです。
御社では、人が「問いを立てる力」を、日々どこで鍛えていますか?
そして、これから管理職になる人たちは、自分で考えられるだけでなく、部下の問力まで育てられるでしょうか?
もし、この問いにすぐ答えが出ないとしたら、私は、そこにDX・生成AI時代の人財育成を考える入口があると思っています。
問いが観察を生む。
観察が気づきを生む。
気づきが仮説を生む。
仮説を確かめる。
そして、また新しい問いが生まれる。
自分でこのループを回せる人を育てる。
そして、その人が管理職になったら、今度は部下がこのループを回せるように支援する。
考えられる人を育てる。その人がまた、考えられる人を育てる。
ここまで回り始めたら、人財育成は研修室の中だけではなくなります。
会議が人財育成になる。現場での会話が人財育成になる。
上司から部下への、たった一つの問いが人財育成になる。
私は、そんな組織をつくるために、DXや生成AIの活用と同時に「人の育て方」を考えていきたいと思っています。
AIより早く答えを出せる人を育てる必要はありません。
これから育てたいのは、AIを使いながら、違和感に気づき、問いを立て、確かめ、問いを更新できる人。
そして、その人が管理職になったとき、答えを渡すだけではなく、部下に問いを渡せる人。
私は、それがDX・生成AI時代の次世代リーダーに必要な力の一つだと思っています。
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国内外において、企業内外教育、自己啓発、人材活性化、コストダウン改善のサポートを数多く手がける。「その気にさせるきっかけ」を研究しながら改善ファシリテーションの概念を構築し提唱している。 特に課題解決に必要なコミュニケーション、モチベーション、プレゼンテーション、リーダーシップ、解決行動活性化支援に強く、働く人の喜びを組織の成果につなげるよう活動中。 新5S思考術を用いたコンサルティングやセミナーを行い、企業支援数が190件以上及び年間延べ3,400人を越える人を対象に講演やセミナーの実績を誇る。