【EcoTopics】ネイチャーポジティブを地域政策へ実装する ―「見える化」の次に自治体が取り組むこと―
今年7月、熊本市で開催された「グローバル・ネイチャーポジティブ・サミット2026」では、生物多様性の損失を止め、自然を回復軌道に乗せる「ネイチャーポジティブ」の実現に向け、自治体・企業・金融機関など多様な主体による取組が議論されました。会議では、ネイチャーポジティブを理念にとどめず、地域でどのように実践していくかが大きなテーマとなりました。
また、環境省は同時期に「調達におけるネイチャーポジティブに向けた実践ガイドライン」を公表し、公共調達を通じて自然への配慮を広げていく考え方を示しています。
本コラムの昨年11月号では、環境省「生物多様性見える化システム」の機能拡充をご紹介しました。地域の自然資本を把握し、優先区域や取組状況を可視化できる環境が整いつつある現在、次に求められるのは、その情報を実際の行政施策へどう結び付けるかという視点です。
今回は、「見える化」の先にある自治体の実践について考えてみます。

1.ネイチャーポジティブは「環境施策」から「地域政策」へ
ネイチャーポジティブというと、自然保護や希少種保全を思い浮かべる方も多いかもしれません。しかし近年は、その考え方が大きく変わりつつあります。
森林や湿地、農地、河川などの自然は、防災・減災、水資源の確保、観光、農林水産業、健康づくりなど、多様な地域課題を支える重要な基盤でもあります。
そのため、生物多様性への取組は環境部門だけの施策ではなく、都市計画、防災、観光、産業振興、公共施設整備など、自治体全体で取り組む政策へと広がっています。
2.「見える化」した情報を行政計画と施策に組み込む
昨年ご紹介した「生物多様性見える化システム」では、自然共生サイトや保護地域、生物多様性の重要度などを地図上で確認できるようになり、自治体ごとの保全状況や目標も把握しやすくなりました。
次に必要となるのは、見える化によって得られた情報を、行政計画や具体的な施策へ反映していくことです。例えば、生物多様性地域戦略や環境基本計画では、地域の現状や課題を踏まえ、保全・再生を優先する区域、目標、指標、施策などを見直すことが考えられます。また、総合計画や都市計画、防災関連計画などには、自然資本の保全・活用という視点を新たに位置付けることが重要です。
さらに、計画に位置付けた方針を、公園、河川、森林、道路、公共施設などの整備・管理へ展開していくことが求められます。例えば、公園整備では生態系ネットワークを意識した緑地配置を検討する、河川整備では生物の生息・生育環境に配慮する、森林整備では水源涵養や地域材利用を一体的に考えるといった取組です。
重要なのは、新しい計画を一つ増やすことではなく、見える化した自然資本の情報を既存の計画に反映し、各部門の施策や事業へつなげていくことです。こうした取組が、ネイチャーポジティブ実現への第一歩となります。
3.公共調達も自治体の重要な政策手段
今回新たに注目したいのが、公共調達です。
環境省のガイドラインでは、調達先やサプライチェーンにおける自然への影響を把握し、自然に配慮した製品やサービスを選択することが推奨されています。これは企業だけでなく、多くの物品や工事を発注する自治体にも参考となる考え方です。
例えば、
- 地域材や認証木材の利用
- 公園・街路樹管理における在来種の活用
- 学校給食等で持続可能な農林水産物を優先する取組
- 公共工事における生態系への配慮
などは、地域市場へ大きな波及効果をもたらします。
公共調達は単なる物品購入ではなく、自治体が地域全体へ発信するメッセージでもあります。
4.多様な主体をつなぎ、地域の取組を広げる
自然の保全・再生は、行政だけで進められるものではありません。企業、農林業者、市民団体、大学・研究機関など、多様な主体との連携が重要になります。
その際に活用できる仕組みの一つが、自然共生サイトです。企業の森や里山、都市緑地、農地など、地域で生物多様性の保全・回復に取り組んでいる場所について、活動内容や生物多様性上の価値を整理し、認定につなげていくことが考えられます。自然共生サイトとして認定された区域のうち、保護地域と重複しない区域は、OECM(保護地域以外で生物多様性保全に資する地域)として国際データベースに登録されます。
自治体には、地域内の候補地や活動主体を把握するとともに、企業、市民団体、土地所有者、専門家などをつなぎ、認定申請や活動の継続を支援する役割が期待されます。さらに、保全活動を環境教育、観光、企業の社会貢献、地域産品の価値向上などへ展開することで、自然の保全と地域活性化の両立にもつながります。
自治体は、自らすべてを実施する主体というよりも、多様な主体を結び付け、地域の取組を育てる「コーディネーター」としての役割が、今後ますます重要になるでしょう。
5.まとめ ~見える化した情報を地域の行動へ~
昨年ご紹介した「生物多様性見える化システム」の充実により、地域の自然資本を把握しやすい環境は整いつつあります。
次のステップは、そこで得られた情報を行政計画に組み込み、公共調達、公共事業、官民連携などの具体的な取組へつなげていくことです。
ネイチャーポジティブは、新しい事業を一から立ち上げることだけを意味するものではありません。現在進めている防災、まちづくり、公共施設整備、観光、産業振興などの施策に、生物多様性や自然資本の視点を加えることから始めることができます。
地域の自然資本を「見える化」し、その情報を計画に組み込み、具体的な施策や地域の行動へつなげていくこと。それが、ネイチャーポジティブの実現に向けて、これからの自治体に求められる重要な役割です。
<ネイチャーポジティブを地域政策へ実装するためのチェックリスト>
本稿で紹介した内容を踏まえ、自治体が取組を進める際の主なポイントを整理しました。
- 生物多様性を環境部門だけの課題ではなく、防災、都市計画、産業振興など地域政策全体に関わるテーマとして位置付ける。
- 「生物多様性見える化システム」などを活用し、地域の自然資本、保全状況、生物多様性保全上重要な区域などを把握する。
- 把握した情報を、生物多様性地域戦略や環境基本計画における区域、目標、指標、施策の見直しに活用する。
- 総合計画、都市計画、防災関連計画などに、自然資本の保全・活用という視点を組み込む。
- 計画に位置付けた方針を、公園、河川、森林、道路、公共施設などの整備・管理へ展開する。
- 公共調達や公共事業において、地域材や認証木材の活用、持続可能な農林水産物の調達、生態系への配慮などを検討する。
- 企業、大学・研究機関、市民団体、農林業者など、地域で保全・再生活動に取り組む主体や候補地を把握する。
- 自然共生サイトの認定や活動の継続に向けて、土地所有者、活動主体、専門家などの連携を支援する。
- 自治体自らがすべてを実施するのではなく、多様な主体をつなぐ「コーディネーター」としての役割を意識する。
- 既存事業の中で実践できることから始め、取組の効果を確認しながら、庁内横断や官民連携へ発展させる。

株式会社ナレッジリーンでは、生物多様性地域戦略や環境基本計画の策定・改定支援をはじめ、地域の自然資本の把握・分析、ネイチャーポジティブを踏まえた政策検討、官民連携の推進など、自治体の実情に応じた支援を行っております。各種ご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
参考:
<環境省>
ネイチャーポジティブポータル
https://policies.env.go.jp/nature/nature-positive/
生物多様性「見える化」マップ
https://policies.env.go.jp/nature/nature-positive/links/
生物多様性と経済活動(ネイチャーポジティブ経済)
https://www.env.go.jp/nature/business/
公共調達関係「調達におけるネイチャーポジティブに向けた実践ガイドライン」
(環境省・令和8年7月14日公表)
https://www.env.go.jp/press/press_05290.html
<ネイチャーポジティブ・国際動向>
Global Nature Positive Summit 2026(GNPS2026)
リンク:ホーム>環境・カーボンニュートラル>行政計画、政策検討
(令和8年8月 公共コンサルティング部 水野)
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