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挑戦しない組織は、誰がつくったのか|人と組織が学び続けるリーダーの役割

目次

若手が挑戦しない会社は、誰がつくったのか――人の成長と組織学習を促すリーダーの役割

「坂田さんのようなプレゼンができるようになりたいです」
ありがたいことに、私はこれまで、何度もこの言葉をいただいてきました。
私のプレゼンを見て、
「面白かったです」
「引き込まれました」
「自分も、あんなふうに話せるようになりたいです」と言ってくださる。
講師として、これほどうれしい言葉はありません。
私は照れながらも、「そうですか。では、一緒にやってみましょう」と答えます。

ところが、実際に練習を始めると、最初の言葉が少しずつ変わっていくことがあります。

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「そこまでは、恥ずかしくてできません」

「私には、人前で話せるほどの知識がありません」

「やってみましたが、坂田さんの方法は、私には合わない気がします」

最初は「ぜひ習いたい」「できるようになりたい」と言っていたはずなのに、いつの間にか、できない理由を説明する言葉に変わっていく
私はその様子を見ながら、意地悪く「結局、やる気がなかったのだな」とは思いません。
むしろ、「ああ、挑戦するって、やはり怖いことなのだな」と思うのです。

できるようになった自分を想像するのは、気持ちのよいものです。
聴衆を引きつけ、笑いを起こし、最後には「なるほど」と納得してもらう。
そんな姿には憧れます。
しかし、その状態になるまでには、うまくできない自分、反応をもらえない自分、自分では格好よく話しているつもりなのに、録画を見ると、想像していた姿とは少し違う自分とも出会わなければなりません。

声が小さい。
話すスピードが速い。
聴衆を見ているつもりが、ほとんど資料を見ている。
笑ってもらえると思って話したのに、会場が妙に静かになる。
これは、なかなかつらいものです。

もちろん、私にもそういう経験があります。今でもあります。
私は年間に多くの講演や研修を行っていますが、終わるたびに、
「今日の伝え方は、あれでよかったのだろうか」
「あの問いは、もう少し違う言葉のほうがよかったのではないか」
「あの方は、途中から少し表情が変わったな。私は何かを見落としていなかっただろうか」と振り返ります。

終わった瞬間に、「完璧だ。もう学ぶことはない」と思ったことは、たぶん一度もありません。
むしろ、やればやるほど、自分の未熟さや、まだ伸ばせるところが見えてきます。
ですから私は、今でも「もっと、もっと成長しなければならない」と思っています。

挑戦とは、これまでと違うパターンを試すこと

私は、挑戦とは、これまでとは違う認識、判断、行動のパターンを、小さく試してみることだと考えています。

脳は、多くの神経細胞がつながったネットワークです。
私たちが何に気づき、どう意味づけ、どのように判断し、どんな行動を選ぶかは、それまでに繰り返してきた経験と深く関係しています。
難しく言えば神経可塑性という話になりますが、現場の言葉に直せば、
「何度も繰り返したことが、自分にとっての当たり前になっていく」ということです。

会議で意見を求められたときに黙る。
間違えそうなときは、誰かが答えるのを待つ。
自信がなければ、上司から指示が出るまで動かない。
うまくいかなければ、「自分には向いていない」と結論づける。
こうした反応を繰り返していれば、それはやがて、その人の自然な行動パターンになります。

一方で、完成していなくても、仮説として話してみる。
分からないことを質問する。
最初から百点を目指さず、三十点でも試してみる。
結果を見て、一つだけ修正する。
人に見てもらい、少し耳の痛い意見も受け取ってみる。
そうした経験を繰り返せば、別の反応も選べるようになります。

私は時々、「一日でも早く、新しい脳にしてほしい」と言います。

少し刺激的な言い方かもしれません。
ただし、脳を丸ごと入れ替えるという話ではありません。
新しい脳とは、これまで選べなかった認識、判断、行動を、新たな選択肢として持てるようになった状態です。

黙るしかなかった人が、一言だけでも意見を言えるようになる。
正解を待つしかなかった人が、「私はこう考えます」と仮説を出せるようになる。
失敗を避けるしかなかった人が、小さく試し、そこから学べるようになる。

成長とは、昨日までの自分を否定することではありません。
昨日までの自分にはなかった選択肢を、今日一つ増やすことです。

ですから、挑戦する人とは、怖くない人ではありません。
恥ずかしくない人でも、失敗しない人でもありません。
怖さや恥ずかしさを感じながらも、「今日は、ここまでならやってみよう」と一歩を選べる人です。

プレゼンであれば、いきなり私と同じように話す必要などありません。
冒頭の三十秒だけ、原稿を見ずに話してみる。
説明の途中に、一度だけ問いを入れてみる。
いつもより二秒長く、間を取ってみる。
自分の失敗談を一つだけ話してみる。
それで十分です。

挑戦とは、坂田和則のコピーになることではありません。
自分の中に、昨日までなかった表現方法を一つ増やすことです。

努力には、スタイルがある

私は、努力という言葉についても、以前から少し引っかかるものがありました。

「もっと努力しなさい」

「もっと頑張りなさい」

もちろん、努力は大切です。
私自身、これまで多くのことを学び、試し、失敗し、また学んできました。
簡単に身についたものばかりではありません。
ただ、すごく頑張っているのに、なかなか成果につながらない人を見ていると、本当に努力の量だけが問題なのだろうかと思うのです。

私は、努力にはスタイルがあると考えています。

同じことを繰り返し、身体に覚え込ませる努力。
知識を増やし、理解を深める努力。
実際に試す努力。
人に聞く努力。
立ち止まって振り返る努力。
うまくいかない方法を手放す努力。
誰かと協力する努力。
人に任せる努力。
そして、疲れ切る前に休み、再び力を発揮できる状態へ戻す努力もあります。

どれも立派な努力です。
しかし、一つの努力スタイルしか持っていないと、場面によっては、努力量のわりに成果が出なくなります。

たとえば、知識を増やすことが得意な人がいます。
何か分からないことがあると、本を読み、資料を集め、さらに勉強する。
これは立派な努力です。
ところが、プレゼンがうまくなりたい人が、実際に話す練習をせず、本ばかり読んでいたらどうでしょう。

知識は増えます。
しかし、聴衆を見ながら話す力、相手の反応に合わせて説明を変える力、声や間を使う力は、なかなか身につきません。
この場合、必要なのは努力不足の反省ではなく、努力スタイルの変更です。

三分間だけ話して録画する。
自分の姿を見る。
聞いた人から感想をもらう。
一つ直して、もう一度話す。
この努力が必要です。

反対に、行動力はあるけれど、振り返りをしない人もいます。
とにかくやる。
次もやる。
さらにやる。
本人はものすごく頑張っているのですが、同じ失敗を繰り返している。
そこでは、さらに回数を増やすよりも、いったん立ち止まり、
「何が起きていたのか」
「自分は何を見落としていたのか」
「次は何を一つ変えるのか」と考える努力が必要です。

一人で頑張れる人にとっては、人に相談することが新しい努力になります。

真面目に準備できる人にとっては、不完全なまま試すことが新しい努力になります。
何でも自分でできるリーダーにとっては、部下に任せ、途中で口を出しすぎないことが新しい努力になります。
責任感の強い人にとっては、休むことさえ、意外に難しい努力になる場合があります。

若い人たちを見ていると、「努力が足りない」と評価されることがあります。
しかし私は、その人が本当に努力していないのか、少し慎重に見たいと思っています。

もしかしたら、本人は懸命に努力している。
ただし、一つの努力スタイルしか持っていないのかもしれません。
うまくいかないときにも、同じ工具を持ち、同じ場所を、さらに強く叩き続けているのかもしれません。

だから、特に20代、30代の方々には、努力の道具箱を増やしてほしいと思っています。

反復する力。
調べる力。
試す力。
相談する力。
振り返る力。
修正する力。
協力する力。
任せる力。
そして、自分の状態を整える力。

状況に合わせて、どの努力を使うかを選べる人は強い。
努力量が多い人以上に、努力方法を切り替えられる人が、社会では成長していくのだと思います。

学生は正解を探し、社会人は最善解をつくる

学生時代、多くの人は、良い点数を取ることや、受験、資格試験に合格することを目指して努力してきました。

問題が提示され、出題範囲があり、どこかに正解が用意されています。
覚える。繰り返す。間違えない。正解に早く到達する。
こうした力が評価されてきました。
もちろん、学生時代にも探究的な学びはありますし、すべてが正解探しだったとは言いません。
それでも、多くの人にとって、「用意された問いに、正しい答えを出す」という経験は、強く身体に染み込んでいるのではないでしょうか。

ところが、社会に出ると、用意された正解がない問題ばかりです。

そもそも何が本当の問題なのかさえ、関係者によって見え方が違います。
経営側と現場側では、優先したいことが違う。
安全を優先すれば、作業を止めなければならないこともある。
品質を優先すれば、納期やコストに影響する。
お客様の要望をすべて聞けば、現場が疲弊するかもしれない。
人、時間、予算、設備、技術には制約があります。
昨日の正解が、今日は通用しないこともあります。

社会人に求められるのは、どこかに隠れている唯一の正解を当てることではありません。
その時点で得られる情報を集め、目的と制約を整理し、関係者と対話し、実行可能な最善解をつくることです。
そして、実行した結果から学び、必要に応じて更新することです。

私は、「学生は正解を探す。社会人は最善解をつくる」と考えています。

もう少し正確に言えば、社会人は、その時点で最善だと考えた解を小さく実行し、結果を見ながら、さらによい解へ近づけていきます。

ここで、学生時代に身につけた成功パターンが、社会人になってからブレーキになることがあります。

正解が分かるまで動かない。
間違いがないと確認できるまで発言しない。
上司の考えと一致しているか分からないので、提案しない。
誰かに保証してもらえないと決断できない。

これは、本人が怠けているのではなく、正解を出すことで評価されてきた人が、その成功パターンを一生懸命に使い続けている姿かもしれません。

だから私は、「最近の若手は、自分で考えない」と簡単に片づけたくありません。

「考えろ」と言われる一方で、上司の答えと違う意見を出すと、すぐ否定されてきたのではないか。
「挑戦しろ」と言われる一方で、失敗すると厳しく責められてきたのではないか。
「分からないことは聞け」と言われる一方で、質問すると「そんなことも知らないのか」と言われてきたのではないか。

もしそうであれば、若手は考えないのではありません。
考えたことを出さないほうが安全だと、職場から学んだのかもしれないのです。

若手が挑戦しない会社は、誰がつくったのか

ここまで書くと、管理職やリーダーの方の中には、少し耳の痛い思いをされる方もいるかもしれません。

しかし、私はリーダーを責めたいわけではありません。
むしろ、現場のリーダーが、どれほど難しい立場にいるかを知っています。

自分の仕事を抱えながら、部下を育て、成果を出し、トラブルが起きれば責任を負い、上からも下からも期待される。
忙しい中で、丁寧に問いを投げかけ、部下が考えるのを待つ余裕がないこともあるでしょう。
つい、答えを教えたほうが早い。
つい、自分でやったほうが確実だ。
そう思う気持ちは、私にもよく分かります。

しかも、今のリーダー自身が、答えを教えられ、失敗を許されず、結果を出すことで評価されてきた可能性があります。
自分で抱え、誰にも弱音を吐かず、何とかしてきたから、今の立場にいる。
そうであれば、部下にも同じ努力を求めてしまうのは、ある意味で自然です。

だから私は、若手だけでなく、リーダーにも新しい反応パターンが必要だと思っています。

「もっと挑戦しろ」と言いながら、失敗した瞬間に厳しく責める。
「自分で考えろ」と言いながら、部下の話を最後まで聞かず、自分の答えを教える。
「何でも相談しろ」と言いながら、悪い報告を受けた瞬間に、露骨に不機嫌な顔をする。
「若手に任せる」と言いながら、自分と違うやり方をすると、途中で仕事を取り上げる。

これを繰り返せば、若手は何を学ぶでしょうか。

挑戦しないほうが安全だ。
考えるより、上司の答えを当てたほうが早い。
悪い情報は、できるだけ遅く伝えたほうがよい。
任されたように見えても、結局は上司のやり方に合わせなければならない。

職場は、研修中だけ人を教育しているのではありません。
上司の表情、最初の一言、会議での扱い、失敗後の問いかけ、提案への反応。
そのすべてが、「この会社では、どのように振る舞うのが賢いのか」を教えています。

若手が挑戦しない会社は、誰か一人が、ある日突然つくったものではありません。

失敗した人を責めた一回。
悪い報告に顔をしかめた一回。
忙しさを理由に、振り返りを省いた一回。
「前例がない」の一言で、提案を終わらせた一回。
部下が話している途中で、「それは違う」と遮った一回。

こうした日常の小さな反応が積み重なり、いつの間にか、「挑戦しないほうが賢い会社」をつくっていくのです。

しかし、私はここで希望も感じています。

日々の小さな反応が会社の文化をつくるのであれば、日々の小さな反応を変えることで、文化も変えられるからです。

答えを教える前に、「あなたは、どう考えた?」と聞く。
提案の弱点を指摘する前に、「この案の可能性は、どこにあると思う?」と尋ねる。
失敗が起きたときに、「誰が悪い?」ではなく、「何が起きていた?」から始める。
大きな挑戦を求めるのではなく、「どこまでなら、小さく試せる?」と一緒に考える。
結果だけではなく、観察したこと、考えたこと、修正したことも認める。

リーダーの一つの問い、一つの表情、一つの反応が、部下の次の行動を変えていきます。

リーダーの仕事は、人を変えることではない

私は、リーダーの役目は、人を直接変えることではないと思っています。

そもそも、人は他人から「変われ」と言われただけでは、なかなか変わりません。
リーダーができるのは、人が変わりやすい環境を整えることです。

分からないと言える。
小さく試せる。
失敗しても人格まで否定されない。
結果を振り返り、次に何を変えるかを考えられる。
必要な知識や助言を得られる。挑戦したことそのものも見てもらえる。

こうした環境があると、人は新しい反応を選びやすくなります。

ただし、私は、何をしても許される、優しいだけの職場をつくればよいと言っているのではありません。

安全や品質に関わることであれば、曖昧にしてはいけないことがあります。
できていないことは、できていない。
守るべきことは、守らなければならない。
私は、そこをぼかすつもりはありません。

私自身、研修やコンサルティングでは、相手がすでに行っている努力には敬意を払います。
しかし、見落としていることや、仕組みの弱さ、管理者として向き合うべきことがあれば、曖昧には伝えません。

現実には厳しく、人には温かくありたい。

厳しさの目的は、人を傷つけることではなく、次の成長へつなげることだからです。

若手を育てるというのは、自分のコピーをつくることでもありません。

私は、私のプレゼン方法に興味を持ってくれた人に、私と同じ話し方をしてほしいわけではありません。
私の持つ技術や考え方を材料にして、その人にしかできない伝え方をつくってほしい。
その人の経験、感性、言葉、専門性を生かし、「坂田さんとは違うけれど、この人の話も聞きたい」と思われる人になってほしいのです。

部下や後輩にも、同じことを思っています。
私を超えてほしいし、私にはない強みを持つ人になってほしい。
その成長を見ることは、私にとって、とてもうれしいことです。

組織学習力は、安全文化や品質文化にもつながる

ここまでの話は、若手育成だけにとどまりません。
安全文化、食品安全文化、品質文化にも、そのままつながります。

作業中に、小さな異常を見つけた。
設備の音が、いつもと少し違う。
温度が微妙にずれている。原材料の状態に、何となく違和感がある。
製品は基準内に入っているけれど、いつもの仕上がりとは違う。
オフィスでも、いつもと違う数字が表示されていて違和感を感じた。

そのとき、社員はどう反応するでしょうか。

「これくらいなら大丈夫」と流すのか。
報告すると面倒になるので、黙るのか。
前にも問題がなかったから、作業を続けるのか。
それとも、一度立ち止まり、周囲に声をかけ、条件の変化を確認するのか。

安全文化や品質文化とは、壁に掲げられた立派な方針やスローガンだけではありません。
何かが起きた瞬間に、その組織がいつもどのように反応するかです。

悪い報告をした人が責められる会社では、悪い情報が上がらなくなります。
異常を見つけた人が「余計な仕事を増やした人」として扱われる会社では、次から誰も声を上げなくなります。

反対に、小さな違和感を伝えた人に、「よく気づいてくれた」と最初に返す会社では、事故や不適合が大きくなる前に情報が集まりやすくなります。
リーダーの最初の反応が、次に報告が上がるかどうかを決めるのです。

不適合が起きたとき、目の前の製品だけを直して終えるのか。
なぜ発生したのか。なぜ流出したのか。
なぜ早く気づけなかったのか。
他の工程や製品でも起こり得ないのか。
標準、教育、設備、管理方法に問題はなかったのかまで考えるのか。

個人が経験したことを、その人だけの反省で終わらせず、対話し、言語化し、共有し、仕組みに反映する。
私は、これが組織学習だと考えています。

試す。
結果を見る。
振り返る。
言葉にする。
共有する。
仕組みを変える。
そして、もう一度試す。

この循環を回せる組織は、失敗から学ぶことができます。
さらに強い組織は、事故や重大な不適合が起きてから学ぶのではなく、その前に現れていた小さな違和感から学びます。

強い文化とは、失敗しない組織ではありません。

失敗する前から学べる組織です。

私が、人材育成、安全、品質を別々に考えない理由

私はこれまで、製造業を中心に250社を超える組織の支援に関わり、年間延べ約3,400名の方々に研修や講演を行ってきました。
改善活動を支えるファシリテーターの育成も、1,000名を超えています。

安全、品質、ISO、5S、問題解決、ヒューマンエラー、リーダーシップ、コミュニケーション、心理学、コーチング。
扱っているテーマは、一見すると、ずいぶん広く見えるかもしれません。

資格についても、電気、化学物質、環境、廃棄物、設備、安全衛生といった現場側の知識と、NLP、LABプロファイル、コーチング心理学など、人間の認識や行動、成長に関する知識の両方を学んできました。
元ISO9001審査員としての経験もあります。

しかし、私は資格をたくさん並べて、「どうです、すごいでしょう」と言いたいわけではありません。
正直なところ、そういう言い方は、少し苦手です。

ただ、なぜこれだけ違う領域を学んできたのかと聞かれれば、理由は一つです。

現場の問題は、一つの専門領域だけでは解けないことが多いからです。

設備を直せば解決する問題もあります。
ルールを整えればよい問題もあります。
しかし、人がなぜその行動を選んだのかを見なければ、再び同じことが起きる場合があります。

反対に、人の意識や心理だけを語っても、設備や手順が悪ければ、安全にはなりません。
人、設備、仕事、仕組み、関係性、職場の空気。
これらを一緒に見なければ、現場で本当に使える答えにはならないのです。

私は、顧客の社名や業種だけを見て、既成の研修をそのまま提案することを好みません。
事業内容、製品、工程、組織の背景、公開情報、現在行っている活動を調べます。
相手がこれまで積み重ねてきた努力に敬意を払いながら、何が見落とされているのか、どこで人の思考が止まっているのか、仕組みのどこが弱いのかを考えます。
そして、難しい理論を並べるのではなく、現場の人が「ああ、自分たちのことだ」と思える言葉へ翻訳します。

私は、答えを教えることより、相手が自分たちで答えを生み出せる状態をつくることを大切にしています。

なぜなら、私がいないと何もできない組織をつくることは、支援とは言えないからです。

私の役目は、正解を配ることではありません。
現場の人が気づき、問いを持ち、対話し、自分たちの最善解をつくり、行動し、学び続けられるようにすることです。

このコラムが、ヘヴィメタルになった理由

実は、このコラムを書くきっかけは、成人発達理論やコーチング心理学に関する本を、あらためて読み直していたことでした。

私は、以前に読んだ本を、何年かたってから読み返すことがあります。
同じ本なのに、以前とは違う言葉が目に留まることがあります。
昔は何気なく読み過ごしていた一文が、現場での経験を重ねた後に読むと、「ああ、これは、あのときのことだったのか」と急に自分の中でつながる。

学びというものは、不思議なものです。
本に書かれている文字は変わっていないのに、読む側の経験が変わると、受け取る意味が変わります。

今回も、成人発達理論やコーチング心理学について調べ直しながら、
「人は、どのようにして、これまでの考え方を超えていくのだろう」
「挑戦するとは、脳や心にとって、どのようなことなのだろう」
「リーダーは、人の成長にどこまで関わることができるのだろう」
と考えていました。

ところが、調べているうちに、なぜか言葉がリズムを持ち始めました。

ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、私の趣味は、作詞とDTMを使った作曲です。
講演や研修の資料をつくっている途中で、突然、歌詞が浮かぶことがあります。

真面目に組織論を調べていたはずなのに、気がつくと頭の中でドラムが鳴り、ギターがうなり始める。

今回は、成人発達理論とコーチング心理学を読んでいたはずが、一曲のヘヴィメタルになりました。

タイトルは、「Leader’s Blue」です。

リーダーには、外からは見えにくい孤独があります。
部下には挑戦してほしい。
しかし、失敗すれば、自分にも責任がある。
任せたい。
でも、納期や品質、安全を考えると、つい口を出したくなる。
励ましたい。
でも、自分自身も迷っている。

強く見せなければならない場面もあれば、本当は誰かに、「これでいいのだろうか」と聞きたい夜もあるでしょう。

そして、フォロワーにも、別の迷いがあります。
期待に応えたい。
でも、自信がない。
意見を言いたい。
でも、否定されるのが怖い。
挑戦したい気持ちはあるけれど、失敗した自分を想像すると、一歩が出ない。

リーダーも、フォロワーも、それぞれの立場で迷いながら働いています。

その迷いや葛藤を、ただ暗い歌にするのではなく、前へ進むための応援歌にしたいと思いました。
そこで今回は、ヘヴィメタルの力強さに、ジャズ・フュージョンの知的で複雑な響きを組み合わせました。

まっすぐ進みたいのに、そう簡単には進めない。
理屈だけでも動けない。気合だけでも続かない。
そんな人と組織の複雑さを、音楽でも表現してみたつもりです。

コンサルタントが、成人発達理論を読みながら、ヘヴィメタルをつくる。

自分でも、少し変わったことをしていると思います。

ただ、私にとっては、研修も、コンサルティングも、ラジオも、作詞も、作曲も、それほど離れたものではありません。

人の心が、どこで動くのか。
どんな言葉が記憶に残るのか。
次の一歩を踏み出したくなる瞬間は、どのように生まれるのか。

それを私は、講演では言葉と体験で、コンサルティングでは問いと対話で、音楽では歌詞とメロディーで探しています。

このコラムでお伝えしたかったことを、別の表現方法で一曲にしたのが「Leader’s Blue」です。

リーダーとして、部下や後輩の成長に悩んでいる方。
フォロワーとして、期待に応えようと頑張っている方。
そして、思うようにいかない日にも、それでも明日へ進もうとしている方への応援歌です。

もしよろしければ、コラムを読んだ後にお聴きください。
文章とは、また少し違った角度から、私が伝えたかった思いを感じていただけるかもしれません。

「Leader’s Blue」をYouTubeで聴く

あなたの職場は、何を学習させていますか

最後に、少しだけ、職場を思い浮かべてみてください。

あなたの会社では、若手が正解を待っているのでしょうか。
それとも、リーダーが正解を与えすぎているのでしょうか。

若手は挑戦を避けているのでしょうか。
それとも、挑戦したときに、どのような反応が返ってくるのかを、すでに学習しているのでしょうか。

若手の努力が足りないのでしょうか。
それとも、一つの努力スタイルだけを繰り返すような育て方になっているのでしょうか。

会議では、誰の意見が通っているでしょう。
悪い報告が上がったとき、最初にどんな言葉を返しているでしょう。
失敗した人に、どのような質問をしているでしょう。
小さな違和感を口にした人は、どのように扱われているでしょう。
上司と違う考えを出した人が、次の会議でも安心して発言できているでしょうか。

組織文化は、方針書の中だけにあるのではありません。
その瞬間、その場で起きている反応の中にあります。

若手が挑戦しない会社は、誰がつくったのか。

その答えは、誰か一人ではありません。
私たち全員の日々の小さな反応が、少しずつつくってきたのです。

けれど、日々の反応によってつくられてきたのであれば、日々の反応を変えることで、これからの文化も変えることができます。

リーダーの一言を変える。
問いを一つ変える。
失敗後の振り返りを変える。
評価する行動を変える。
小さく試せる範囲をつくる。
学んだことを共有する時間をつくる。

大げさな改革ではなくても、そこから組織は変わり始めます。

若手には、一日でも早く、正解を待つだけの状態から抜け出してほしい。
自分で問いを持ち、その時点の最善解を考え、小さく試し、結果から学べる人になってほしい。
一つの努力方法だけでなく、状況に応じて努力のスタイルを切り替えられる人になってほしい。

私は、本気でそう願っています。

そして、その成長を若手本人の根性だけに任せるのではなく、挑戦しやすく、学びやすく、声を上げやすい環境を整えることが、リーダーの大切な役目だと思っています。

人を変えようとする前に、人が変わりやすい環境を整える。

人に正解を教える前に、現場が自ら最善解を生み出せる状態をつくる。

それが、私がこれまで、安全、品質、ISO、問題解決、人材育成、リーダーシップに関わりながら、一貫して追い続けてきたテーマです。

もし、あなたの職場でも、
「研修をしても人が変わらない」
「若手が自分で考えない」
「改善活動が続かない」
「悪い情報が上がってこない」
「安全や品質がスローガンで止まっている」と感じることがあるなら、問題は、誰か一人の意欲不足ではないかもしれません。

人と組織が、これまで何を学習してきたのか。

そして、これから、どのような認識、判断、行動のパターンを増やしていくのか。

そこから一緒に考えることで、今までとは違う景色が見えてくると、私は思っています。

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マネジメントコンサルティング部 部長
坂田 和則

国内外において、企業内外教育、自己啓発、人材活性化、コストダウン改善のサポートを数多く手がける。「その気にさせるきっかけ」を研究しながら改善ファシリテーションの概念を構築し提唱している。 特に課題解決に必要なコミュニケーション、モチベーション、プレゼンテーション、リーダーシップ、解決行動活性化支援に強く、働く人の喜びを組織の成果につなげるよう活動中。 新5S思考術を用いたコンサルティングやセミナーを行い、企業支援数が190件以上及び年間延べ3,400人を越える人を対象に講演やセミナーの実績を誇る。

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