学んだのに、なぜ人は動かないのか|「知っている」を「使える」に変える学習転用力と、次世代リーダーに求められる相手の景色を見る力
学んだのに、なぜ人が動かないのか
――相手の後ろに立ち、同じ景色を見るリーダーへ
先日、中小企業診断士の皆さんを対象とした研修会で、講演をさせていただきました。
会場にいるのは、全員コンサルタントです。
それも、中小企業診断士という国家資格を持ち、日頃から経営者や管理職に助言をし、企業の課題を分析し、人前で説明をしている方々です。
そう考えた瞬間、登壇前から私は妙に緊張してきました。
普段、私は企業の経営者や管理職、現場のリーダーの前で講演や研修をしていますので、人前で話すこと自体には慣れているつもりです。
ところが、その日は少し違いました。
聞き手が全員、コンサルタントのプロなのです。
「その説明は本当に妥当なのか」
「実務で使える話なのか」
「理論を知っているだけではないのか」。
誰かに何かを言われたわけでもないのに、私は勝手に頭の中で何十人もの審査員をつくり、自分で自分を緊張させていました。
人間というのは、本当に面白いものです。
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その日、私がお話ししたテーマの一つが、NLPにおけるVAKでした。
VAKとは、人が情報を受け取り、理解し、表現するときに使う感覚に注目した考え方です。
VはVisualで「視覚優位タイプ」。
図や映像、色、位置関係など、目に見える情報から理解しやすい傾向を表します。
AはAuditoryで「聴覚優位タイプ」。
言葉の意味、話の順序、声の調子、会話など、耳から入る情報を手掛かりにしやすい傾向です。
KはKinestheticで「情動優位タイプ」。
実際にやってみた感覚、身体で感じる違和感、気持ちの動き、体験などから理解しやすい傾向を表します。
ただし、人を「あなたはVだけ」「私はAだけ」と固定的に分類するものではありません。
私たちは誰でもV・A・Kのすべてを使っていますし、仕事や場面、相手によって、その使い方も変わります。
私がVAKで本当に大切だと思っているのは、相手のタイプを当てることではありません。
目の前の相手には、どのような世界が見えているのか。
どのような言葉が耳に残るのか。
どのような経験や感情と結びつけば、その話が自分事になるのか。
そう考えながら、相手に届く伝え方の入口を増やしていくことです。
私は講演の中で、VAKを対話、説明、人財育成、プレゼンテーションへどう応用するか、実際の事例を交えながら紹介しました。
講演は無事に終わり、ありがたいことに「また講演をしてほしい」という声もいただきました。
プロから評価してもらえるというのは、やはり嬉しいものです。
自分が長年、当たり前のように使ってきた考え方が、同じように人や組織を支援する専門家の方々にも価値がある。
そのことを、外側から認めてもらえたように感じました。
「あなたはV、私はA」で終わらせない
講演後は懇親会でした。
鶏肉料理のお店で、料理もお酒も進み、講演中とは少し違う柔らかな空気の中で、皆さんと話をしました。
壇上と客席という関係がなくなり、同じテーブルを囲むと、肩書きの向こう側にいる一人ひとりの人が見えてきます。
そんな中、あるコンサルタントの方が、私にこう言いました。
「私もNLPを学んだんです。でも、VAKのワークをやると、“あなたはVだよね”“私はAだよね”で終わってしまうんです。ここまでNLPを実践的に使われている方のお話だったので、すごいと思いました」
この言葉は、私の中に強く残りました。
なぜなら、私は特別なことをしているつもりがなかったからです。
私はただ、目の前の相手に合わせた文脈、物語、事例を考え、それを相手が見て、聞いて、感じられるように伝えようとしていただけでした。
経営者に話すのであれば、経営判断、会社の存続、顧客からの信頼につながる文脈で話します。
管理職に話すのであれば、部下との関係、責任、判断の迷い、上司と現場の間に立つ苦しさを扱います。
製造現場の方に話すのであれば、機械の音、作業中の手の動き、いつもと違うにおいや振動、現場で起きた具体的な出来事から話を始めます。
同じ理論を話しているのに、相手によって入口を変える。
それは、内容を薄めることではありません。
相手の理解力に合わせて、レベルを下げることでもありません。
相手が立っている場所まで行き、その人が見ている景色から話を始めるということです。
私は、この感覚を「相手の後ろに立ち、同じ風景を見る」と表現しています。
相手と正面から向き合うと、私たちは無意識に相手を評価します。
「なぜ分からないのだろう」「なぜ行動しないのだろう」「どうしてそんな考え方をするのだろう」。
しかし、相手の後ろに立ち、その人と同じ方向を見ると、問いが変わります。
「この人の位置からは、何が見えているのだろう」
「この人には、どんな障害物が見えているのだろう」
「前へ進まないのではなく、進めない理由があるのではないか」
「過去に、この道で何があったのだろう」
すると、それまで「抵抗している人」に見えていた人が、「失敗することを恐れている人」に見えてくることがあります。
「意識が低い」と思っていた管理職が、実は責任だけを増やされ、何をすればよいのか教えられないまま、必死に踏ん張っている人だったということもあります。
「改善に後ろ向きな現場」が、過去に改善という名目で作業や報告書ばかり増やされた経験を持っていることもあります。
相手と同じ景色を見ようとすると、その人の行動の中に、その人なりの合理性が見えてきます。
私は、この考え方が、これからの次世代リーダーにとって、非常に重要になると思っています。
「学んだ」と「使える」の間には、大きな溝がある
30代になると、仕事の経験も増え、社内研修に参加する機会も増えてきます。
リーダーシップ、問題解決、コミュニケーション、コーチング、ハラスメント防止、心理的安全性、目標管理。
さまざまな知識や技法を学ぶようになります。
本を読む人もいるでしょう。
動画で学ぶ人もいます。
生成AIを使えば、知りたい理論や手法を、短時間で調べることもできます。
つまり、知識へアクセスすること自体は、以前よりもはるかに簡単になりました。
それなのに、なぜ職場では同じような問題が繰り返されるのでしょうか。
なぜ正しい指示を出しているのに、部下が動かないのでしょうか。
なぜ何度説明しても、こちらの意図が伝わらないのでしょうか。
なぜ研修では納得していたはずなのに、職場へ戻ると行動が元に戻ってしまうのでしょうか。
私は、その原因の一つが、「学んだことを、そのまま使おうとしている」ことにあると考えています。
研修で習った言葉を、そのまま部下に使う。
本に書いてあった質問を、そのまま面談で使う。
成功事例を、自分の会社の事情を考えずに持ち込む。
講師が示した手順を、状況が違っても忠実に再現する。
これでは、学んでいるようで、まだ学びを働かせてはいません。
VAKを学び、「あなたはVですね」「私はAですね」で終わるのと同じです。
知識を覚えた。用語を説明できる。
研修で体験したワークを再現できる。
しかし、その知識が、目の前の相手や状況に合わせて姿を変えていない。
これが、「知っている」と「使える」の間にある溝です。
学習転用という言葉があります。
ある場面で学んだ知識や技能を、異なる場面で活用することです。
ただ、私は、学習転用とは単純に、学んだ手法を別の場所へ持っていくことではないと思っています。
大切なのは、その手法の奥にある目的や原理を考えることです。
VAKなら、人を分類することが目的ではありません。
相手に届く入口を増やすことが目的です。
自己開示なら、自分の面白い話をすることが目的ではありません。
相手が安心して、自分の考えや経験を話せる場をつくることが目的です。
コーチングの質問なら、質問技法を使ったことを示すのが目的ではありません。
相手の中にある考えを、相手自身が言葉にできるようにすることが目的です。
目的や原理が分かれば、表面の形を変えることができます。
相手が違えば、言葉を変える。
状況が違えば、順序を変える。
抵抗が強ければ、急いで答えへ導かず、まず安心をつくる。
一人で考えるのが得意な人には、少し待つ。
話しながら考える人には、対話の時間を増やす。
これが、学んだ知識を、生きた知恵へ変えるということだと思います。
腕を組んでいる受講者は、本当にやる気がないのか
私は長年、次世代リーダーの研修に関わってきました。
研修会場には、さまざまな人がいます。
前のめりで聞いている人、熱心にメモを取る人、質問をする人。
一方で、腕を組み、少し斜に構え、表情を変えずに座っている人もいます。
講師の立場からすると、どうしても気になります。
「この人は、やる気がないのではないか」
「研修を受けたくないのに、会社から言われて参加しているのではないか」
「こちらの話を評価し、あら探しをしているのではないか」
そんなふうに考え始めると、講師の側にも力が入ります。
何とかこちらを向かせよう。納得させよう。
反応させよう。
しかし、休憩時間や演習中に、その人と話してみると、まったく違う姿が見えることがあります。
実は、現場の課題を真剣に考えている。
自分の部下を何とか育てたいと思っている。
ただ、人前で簡単に賛成したり、感情を表に出したりすることに慎重なだけだった。
過去の研修で、講師から一方的に否定された経験を持っていた。
自分の職場の事情を知らない人から、「管理職ならこうすべきだ」と言われ続け、研修そのものに距離を置くようになっていた。
そんな背景が見えることがあります。
私は、そういう人を無理に何とかしようとはしません。
その代わり、こちらを少し開示します。
自分が失敗した話。
偉そうなことを言いながら、今でもできないこと。
思い込みで判断し、とんでもない勘違いをした話。
若い頃、上司や部下との関係で悩み、うまくいかなかった話。
場合によっては、少し恥ずかしい話もします。
すると、相手の表情が緩むことがあります。
腕がほどけ、少し笑い、自分の経験をぽつりと話し始める。
その瞬間、講師と受講者ではなくなります。
同じ問題を前にして、一緒に考える者同士になります。
これは、私が巧みな話術で相手を変えたのではありません。
もともと、その人の中に前向きな気持ちはあったのです。
ただ、それを表に出しても安全なのかを確かめていた。
私は、その人を前向きにしたのではなく、前向きさを出しても大丈夫な場をつくっただけなのだと思います。
この経験から、私は何度も学びました。
人は、こちらから見えている姿のままの人ではありません。
腕を組んでいる。
反応が薄い。
質問をしない。
意見を言わない。
その姿を見て、「意欲が低い」「主体性がない」「素直ではない」と決めつけた瞬間、育成する側は相手の世界を見なくなります。
解ったつもりになるのです。
そして、解ったつもりになった瞬間、育成は止まります。
正しいことを言う人より、相手に届くように言える人
次世代リーダーには、正しいことを言う力が必要です。
品質を守らなければならない。
安全を優先しなければならない。
納期を守らなければならない。
部下を育てなければならない。
組織のルールを守らなければならない。
どれも正しいことです。
しかし、リーダーの仕事は、正しいことを言うところで終わりません。
その正しさが相手に届き、相手の判断や行動につながるところまでが仕事です。
たとえば、部下に「もっと主体的に行動してほしい」と言う上司がいます。
しかし、その部下は以前、自分で判断して行動した結果、上司から強く叱責された経験を持っているかもしれません。
その人にとって「主体的に動く」という言葉は、成長や挑戦ではなく、失敗したときに自分だけが責任を取らされる危険な行為に聞こえている可能性があります。
その世界観に触れず、「もっと自分で考えろ」「言われる前に動け」と繰り返しても、部下は動きません。
むしろ、さらに慎重になります。
そして上司は、「最近の若手は指示待ちだ」と判断する。
部下は、「うちの上司は言うことが毎回違う」と感じる。
同じ職場にいるのに、まったく違う物語の中で仕事をしているのです。
ここで必要なのは、正論を強くすることではありません。
まず、相手の後ろに立って、同じ景色を見ることです。
「自分で判断して動くことに、不安を感じる場面はある?」
「過去に、自分で動いて困った経験はなかった?」
「どこまでなら、自分で決めてよいと思っている?」
「私の指示の出し方で、迷わせている部分はない?」
こうした対話を通じて、相手に見えている景色を確かめる。
そして、その景色を一緒に見たうえで、「確かに、その経験があれば慎重になるよね」「では、次はここまでを自分で判断してみよう」「失敗したときは、私も一緒に振り返る」と、次の景色へ案内していく。
私は、これが本当の意味でのリーダーシップだと思っています。
相手をこちらの世界へ無理に引っ張るのではありません。
まず、相手が立っている場所まで行く。
その人の後ろに立ち、同じ風景を見る。
そして、隣に並んで、「ここから、どこへ向かおうか」と問いかけるのです。
生成AI時代だからこそ、学習転用力が問われる
これからの時代、知識を持っていることだけでは、リーダーの価値にはなりにくくなります。
生成AIに質問すれば、マネジメント理論も、コミュニケーション技法も、問題解決のフレームワークも、すぐに提示されます。
議事録もつくれます。
説明文もつくれます。
部下面談の質問例も出してくれます。
研修資料の構成も提案してくれます。
しかし、生成AIが出した言葉を、そのまま現場で使えば、人が動くわけではありません。
目の前の部下は、どのような経験をしてきたのか。
その職場には、どのような歴史があるのか。
その言葉は、社内でどのような意味を持っているのか。
経営者と現場では、同じ出来事がどう違って見えているのか。
そこを理解しないまま、もっともらしい言葉を並べても、人には届きません。
むしろ、生成AIによって正しい言葉や整った文章が簡単につくれるようになるほど、リーダー自身の「相手の世界に触れる力」が問われます。
正しい説明をつくる力よりも、相手が受け取れる説明へ変える力。
知識を集める力よりも、その知識の本質を抜き出し、異なる状況に使い直す力。答えを示す力よりも、相手が自分で答えに近づける問いをつくる力。
これが、AI時代における次世代リーダーの価値になると、私は考えています。
研修を受けさせるだけでは、人は育たない
ここからは、次世代リーダーを育成する上司や、人財開発部門の方にもお伝えしたいことがあります。
部下を研修へ送り出したあと、「どうだった?」「何を学んだ?」「勉強になった?」と聞いて終わっていないでしょうか。
受講者が、
「コミュニケーションの大切さを学びました」
「相手の話をよく聞くことが重要だと思いました」
「リーダーとしての役割を理解しました」
と答えれば、研修は成功したように見えます。
しかし、そこで終われば、学習は職場へ転用されません。
重要なのは、
「それを、どの仕事で使うのか」
「そのままでは使いにくいとしたら、何を変えるのか」
「誰との対話で、まず試してみるのか」
「実践した結果、何が起きたのか」
「うまくいかなかった理由を、どう考えるのか」と問い続けることです。
上司の役割は、研修の内容をもう一度説明することではありません。
学んだことと現実の仕事の間に、橋を架けることです。
人財開発部門の役割も、研修を実施し、アンケートを集め、満足度を確認するところで終わりではありません。
研修後に、どのような実践機会をつくるのか。
上司とどのように振り返るのか。
失敗や迷いを、どのように共有できるようにするのか。
学んだ知識を、別の業務や別の人間関係へ転用する機会を、どう設計するのか。
そこまで含めて、人財育成だと思います。
「よい研修だった」と言われることと、「職場が変わった」と言われることは、同じではありません。
講師の話が分かりやすかった。
演習が楽しかった。
受講者の満足度が高かった。
それも大切です。
しかし、半年後に受講者の対話や判断、行動が変わっていなければ、企業にとっての投資効果は十分だったとは言えません。
私は、研修の場で知識を教えるだけではなく、受講者が自分の経験や現場の課題と結びつけ、使える形へ変えていく時間を大切にしています。
正解を与えすぎない。
すぐに結論へ連れていかない。
本人の言葉で考えさせる。
他者の見方に触れさせる。
実際の職場で使う場面を想像させる。
そして、試してみたいという気持ちを引き出す。
研修中に起きるべきなのは、「分かりました」という反応だけではありません。
「自分は、部下のことを解ったつもりになっていたかもしれない」
「正しいことを言うだけで、相手に届く工夫をしていなかった」
「明日の面談で、少し聞き方を変えてみよう」
そんな内省と、小さな行動の予感が生まれることのほうが、重要だと思っています。
あなたの会社の30代リーダーは、何を見ているでしょうか
ここで、少し想像してみてください。
貴社の30代リーダーが、部下との面談をしています。
以前は、業務の進捗確認と指示だけで終わっていたかもしれません。
しかし、その人が、相手の後ろに立って同じ景色を見ることを学んだとしたら、問いが変わります。
「最近、どこで仕事が進みにくいと感じている?」
「私には見えていないことで、困っていることはない?」
「どうすれば、もう少し動きやすくなると思う?」
部下は最初、少し戸惑うかもしれません。
しかし、上司が答えを急がず、評価せずに聞いてくれると分かれば、これまで言えなかったことを話し始めるかもしれません。
現場で起きていた小さな違和感。
誰にも相談できずにいた不安。
指示の意味が分からなかったこと。
自分なりに考えていた改善案。
そこから、問題の早期発見が生まれることがあります。
人が辞める前に、本音が出ることもあります。
小さな品質問題が、大きな不具合になる前に止まることもあります。
現場の気づきが、改善へつながることもあります。
次世代リーダーの対話が変わるということは、単に職場の雰囲気がよくなるという話ではありません。
安全、品質、生産性、定着、育成、組織の学習速度に影響するのです。
一方で、何も変わらなかった未来も想像してみてください。
リーダーは正しいことを言い続ける。
部下は表面上、返事だけをする。
問題は報告されず、現場の不満は雑談の中にだけ残る。
研修は毎年行われる。
アンケートの満足度は高い。
しかし、職場では同じ問題が繰り返される。
人財開発部門は、新しい研修テーマを探し続ける。
上司は、「本人の意識の問題だ」と考える。
受講者は、「どうせ職場へ戻れば何も変わらない」と感じる。
この差は、研修を受けたかどうかだけではありません。
学びを、現場の人と状況に合わせて転用できたかどうかです。
学びを、働く知恵に変える
私は、次世代リーダー研修において、単にリーダーシップの知識を教えたいのではありません。
相手の世界を知ろうとする力。
解ったつもりにならず、確かめる力。
学んだ知識の目的や原理を考える力。
状況に合わせて、言葉や方法を変える力。
自分の失敗や弱さも使いながら、人が話せる場をつくる力。
正解を急がず、問いによって相手の思考を引き出す力。
こうした力を、実際の職場で使える形にしたいと考えています。
30代は、プレイヤーとして成果を出すだけではなく、人を通じて成果を出すことを求められ始める時期です。
自分ができればよかった仕事から、相手ができるように支援する仕事へ変わる。
自分の正しさを示す立場から、異なる考えをつなぐ立場へ変わる。
答えを持つことよりも、問いを持つことが重要になる。
この変化を、本人任せにしてはいけないと思います。
役職を与えれば、自然にリーダーになるわけではありません。
部下を持てば、自然に人を育てられるわけでもありません。
研修に参加すれば、自然に学びが転用されるわけでもありません。
だからこそ、意図的に、考える機会と実践する機会をつくる必要があります。
もし、貴社の次世代リーダーが、
「正しいことを言っているのに、人が動かない」
「部下の考えていることが分からない」
「自分で抱え込み、仕事を任せられない」
「研修で学んでも、現場でどう使えばよいか分からない」
「上司と部下の間で、身動きが取れなくなっている」。
そんな状態にあるのだとしたら、本人の意欲だけの問題ではないかもしれません。
知識が足りないのではなく、知識を相手と状況に合わせて働かせる訓練が不足しているのかもしれません。
私は、その力を「学習転用力」と呼びたいと思います。
学習転用とは、知識を別の場所へ運ぶことではありません。
学んだことの本質をつかみ、目の前の相手が受け取れる形へ変え、現実の仕事の中で、もう一度、生きた知恵として働かせることです。
リーダーに必要なのは、相手をこちらの世界へ引っ張る力ではありません。
まず、相手のいる場所まで行く。
その人の後ろに立ち、同じ景色を見る。
何が見えているのか。
何が怖いのか。
何を守ろうとしているのか。
何を本当は変えたいと思っているのか。
そこに触れたうえで、隣へ並びます。
そして、
「少し場所を変えて、一緒に次の景色を見てみませんか」
と問いかける。
そんなリーダーが職場に増えれば、会議の空気が変わります。
報告の質が変わります。
部下の表情が変わります。
現場の小さな気づきが、言葉になります。
人が育ち、組織が学び始めます。
私は、次世代リーダー研修を、知識を受け取る場だけにはしたくありません。
自分の見方を問い直し、相手の世界に触れ、明日の対話を変える場にしたい。
研修が終わったとき、受講者が大量のメモを持ち帰ることよりも、
「明日、あの部下に、もう一度話しかけてみよう」
「自分の正しさを伝える前に、相手に何が見えているのか聞いてみよう」
「学んだ方法を、そのまま使うのではなく、自分の職場に合う形へ変えてみよう」。
そう思って席を立つことのほうが、大切だと考えています。
知識は、持っているだけでは、人を動かしません。
相手の世界に触れ、その人に届く形へ変えたとき、初めて働き始めます。
貴社の次世代リーダーは、部下の正面に立ち、正しさを伝え続けているでしょうか。
それとも、相手の後ろに立ち、同じ景色を見ようとしているでしょうか。
この違いが、数年後の人と組織の姿を、大きく変えていくのだと思います。
毎週月曜日に「改善ファシリテーション」をテーマとしたコラムを更新、
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国内外において、企業内外教育、自己啓発、人材活性化、コストダウン改善のサポートを数多く手がける。「その気にさせるきっかけ」を研究しながら改善ファシリテーションの概念を構築し提唱している。 特に課題解決に必要なコミュニケーション、モチベーション、プレゼンテーション、リーダーシップ、解決行動活性化支援に強く、働く人の喜びを組織の成果につなげるよう活動中。 新5S思考術を用いたコンサルティングやセミナーを行い、企業支援数が190件以上及び年間延べ3,400人を越える人を対象に講演やセミナーの実績を誇る。