【EcoTopics】森林環境譲与税で都市と山村をつなぐ
森林整備を促進するために導入された森林環境譲与税。今年度から森林環境税として国民からの徴収が始まり、その使い途に注目が集まっています。この税は森林整備に加え、公共施設の木質化など幅広い用途に活用可能です。
今回は、森林環境譲与税の仕組み活用例、そして地方創生に寄与する広域連携の取り組みについてご紹介します。
■森林環境譲与税の目的と仕組み、その活用*1,2
日本の国土の約7割を占める森林には、多くの課題が山積しています。特に、戦後に植えられた人工林が伐採期を迎える中、林業の衰退や木材価格の低迷により、適切な管理が行われていない森林が増えています。
森林整備には多額の費用がかかりますが、林業の収益が低いため、森林所有者にとって整備は大きな負担となっています。こうした課題を解決するため、2019年度に「森林環境譲与税」が導入され、2024年度からは国民一人当たり年間1,000円が「森林環境税」として個人住民税に上乗せされる形で徴収が始まりました。
集められた森林環境税は、国から都道府県と市町村に森林環境譲与税として譲与されます。
森林環境譲与税は法律によって使途が定められており、インターネット等で公表することが義務付けられています。
森林環境譲与税を活用した取り組みは、大きく分けて以下の3つの分野に分けられます。
1. 森林整備
- 森林経営管理制度に基づく間伐等の森林整備、意向調査、補助・協定等による森林整備
- 間伐や植栽、路網整備、治山事業など、森林の機能を維持・向上させるための事業
2. 人材育成・確保
- 林業就業者や事業体への支援、林業研修生の支援、研修の実施など
- 林業機械の導入支援、安全装備品の支給、就業相談員の配置、林業体験イベントの開催など
3. 木材利用・普及啓発
- 施設の木造・木質化、木製品の配布、バイオマス利用、体験・啓発、イベントの開催など
- 公共施設への木材利用、木育推進、木製品の開発・販売促進、間伐材のバイオマス利用など
■森林環境譲与税を活用した都市と山村の連携
森林環境譲与税は、森林が全くないような都市部の自治体にも譲与されます。そのような自治体では、自地域の公共施設の木質化などに使用することもできますが、山村部の自治体と連携して森林整備や木材利用に取り組むケースもみられます。
◆東京都豊島区×埼玉県秩父市*3
埼玉県秩父市は東京都豊島区と連携し、豊島区の森林環境譲与税を秩父市の森林整備に活用するカーボン・オフセット事業を行っています。 秩父市と豊島区は姉妹都市の信頼関係を基盤に、2019年7月に「豊島区と秩父市との森林整備の実施に関する協定」を締結しました。 秩父市は広域での森林整備を目指し、豊島区は環境学習や都市と山村の交流を重視しており、双方にメリットのある事業として連携が進められています。
◆愛知県名古屋市×長野県木祖村*4,5
長野県木祖村は愛知県名古屋市と連携し、森林整備や木材利用を行っています。木祖村内の森林約3haを「名古屋市・木祖村交流の森」に設定し、森林整備を実施するほか、名古屋市民が植栽や育樹などの作業を通して森林の大切さを学ぶ場として活用されています。 また、間伐材を活用した新たな製品開発も行われています。
◆埼玉県の取り組み*4
多くの都市部自治体が山村部自治体との連携による森林整備や木材利用への関心を高めています。 しかし、連携先の見つけ方やニーズの把握、連携調整の難しさ、事業効果の説明などが課題として挙げられています。
埼玉県では、県が設置している「埼玉県山とまちをつなぐサポートセンター」が県内自治体の意向を把握し、さまざまな条件に基づいて連携先を提案するマッチング事業を行っています。
マッチングでは、それぞれの自治体が抱える諸課題を把握し、制度面または技術面から解決方法を提示することで、協定締結に向けたハードルを下げる取り組みを行っています。この事業により、埼玉県では県内自治体同士による連携が進みつつあります。
これらの事例から、森林環境譲与税は、都市と山村が連携して森林整備や木材利用に取り組むための有効なツールであることがわかります。 しかし、連携を成功させるためには、それぞれの自治体のニーズを把握し、双方にメリットのある事業スキームを構築することが重要です。
株式会社ナレッジリーンでは、森林環境譲与税を活用した自治体間連携に向けた支援を行っております。各種ご相談に応じますのでお気軽にお問合せ下さい。
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出典:
*1「森林環境税及び森林環境譲与税について」(総務省)
*2「森林を活かすしくみ 森林環境税・森林環境譲与税」(林野庁)
*3「森林環境譲与税を介した都市-農山村連携―埼玉県秩父市と東京都豊島区の事例から―」(日本林学会誌(2020))
*4「令和4年度森林環境譲与税の取組事例集(市町村・都道府県)」(林野庁)
*5「令和4年度までの森林環境譲与税による県外⾃治体との連携事例集(⻑野県市町村)」(長野県)
(令和6年11月 公共コンサルティング部 水野)
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